第212話「初めての魔法に喜ぶアープと戸惑う父親」

僕がそう言った直後に、『ガラーーン………ガラーーーーーン』と鐘がなる………



 びっくりして鐘がなった方を振り返る。



 そこには僕の授業を若干離れた後ろの位置で聞く他の属性魔法演習中の生徒と、何故か先生方が僕の説明を受けていた。



 鐘の音は『水っ子』のイタズラではなく、講義と実技演習の終了を知らせる鐘だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ご都合主義のようでもあるが、全員がちゃんとウォーターに魔法を使えるようになった。


 実はこの時水っ子は、面倒見のいい性格を活かしてちびっこ達がいる側の水溜りから覗いて魔法の手伝いをしていた。


 加護の類ではなく、単純に呪力操作のアシストを行ない身体の中を魔力が巡るのを感じ取りやすくした様だ。


 マジックワンドも使わずに水を出した事で喜ぶ子供達。


 しかし授業の終わりを知らせる鐘で感動から引き戻されたのだろう。


 集中が切れたので魔法も消える。


 残念がる子供達全員に学長が声をかける。




「ハイ!ハイ!皆さん!?ここまで講義講師でもないのに先生を買って出てくれたこの魔導師様に『なんて』言うのですか?」



「「「「「ありがとうございましたーーーー!良き水の加護があらん事を!」」」」」


「では皆さん!私は今からこの『魔導師様達』と話がありますので、休憩の後に今日の座学と実技演習の報告日誌を書いてください。その後はランチタイムになりますので、各自昼食をとってから次回講義の予約を入れておく様に!」


「毎回『次回講義』の予約を忘れる人がいます。受講用のスクロールの用意もあるので『必ず』する様に!受講者は人数制限もありますので無理を言っても『受講上限の場合』入れませんからね!良いですね!?」



 子供達は僕にいろいろ聞きたい事があったのだろうが、先に学長に釘を刺されてしまった……皆言葉を飲み込んでいて、非常に残念そうだった。



 僕は皆に一言だけ言っておく。



「皆さん、良いですか反復練習が魔法レベルを上げるコツです。一度出来たからと言って辞めずにちゃんと反復練習するように。あと先ほど魔石を使った基礎訓練も魔力の扱いがしやすくなるので毎日やる事が基礎力に繋がるので頑張ってみて下さい。」



「「「「はーーい!!」」」」



 子供達は皆元気に変事をして、友達と手を繋いで校舎の方へ歩いて行く。



「では魔導師様こちらへどうぞ!学長室で謝罪と今後の話を兼ねて是非!」



「すいません僕はアープ御令嬢の護衛として派遣されているお付き冒険者なので、この子から離れる事は出来かねます。」



 突然学長に呼ばれたが、当然職務放棄など出来るわけもなく、目の前に仕事を請け負った男爵が居るのだ『はい行きます』など言えるわけもない……そもそも講師の採用についてだろう。



 何故高校生なのに異世界で魔法学の講師で働かないとならないのか!って言いたくもなる……学生ですし!



「すまんな……ちょっと事態が急変してな君に護衛依頼を出した後に状況が変わったのだ。申し訳ないが君も一緒に来てくれ。アープお前も来なさい」


  僕とアープちゃんは学長室へ一緒に行く事になった……嫌な予感しかしない。



「アープちゃんはこの部屋で待っててくれるかしら?今飲み物を用意するからね。」



 そう言ってプッチィがコップを机の上に置いて、飲み物を取りに奥の部屋に行く。



「アープちゃん!貴女のお父様と此方の魔導師様とお話があるので、この部屋でプッチィと待っててくれる?もし良い子にしていてくれたら『水精霊のマジックワンド』を貴女の勉強の教材として差し上げますが……」



 綺麗な水精霊の姿が彫られたマジックワンドを見て一目惚れしたのだろう、可愛らしく手を出して『ちょーだい』をするアープ。


 マジックワンドにも色々あるなと思いつつアープを見ると、貰ったばかりの水精霊のマジックワンドを持ってコップに向かって『ウォーター』を唱え始める。


 確かにウォーターは生活魔法なので飲み水にも使えるのだが、目の前の机が水浸しになり慌てふためく男爵。


 アープにしてみればちょっとしか出ないと思ったのだろう。


 この杖は水属性魔法を強化する効果がある様で、500ml位に水量を増す効果がある様だ。


 未鑑定アイテムではないので鑑定すればすぐに内容はわかるが、この施設にいる職員はその方面に特化しているので目の前で迂闊に何かしたいとは思えない。


 せめて鑑定するならアープちゃんと帰る馬車の中でだろう。


 男爵はそのアープの姿を見て嬉しい気持ちが顔にモロ出ていたが、流石に『でかした!』とは言えないので一応注意し始めたが顔が既に怒っていないのでモロ分かりだ。



「アープ!何をしているんだ!!申し訳ない……学長……」



「うふふふふふ良いのです。水魔法ができて嬉しいのでしょう!男爵様顔に出てますよ?」


『乾燥!』


 学長はアープがこぼした水に乾燥をかける。


 すると、溢れた水は綺麗さっぱり無くなった。



「こぼしたら乾燥させれば済みますから!」



 学長と男爵は笑いながら、学長室の奥に入って行く。


「ヒロ様ごめんなさい……自分の水は自分で用意しようと思ったの……失敗しちゃった。」


「今度出すときは、杖の先を見て水を意識しないで、コップを見て『どれ位出したいか』想像してからやってごらん?多分それで上手く行くから」



 僕はアープにそう言って、学長と男爵を追いかける。




『ウォーター』




 水を飲み干したのかアープはまた『ウォーター』を唱えていた。



 ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 マジックワンド事件で既にクゥーズとお付きの騎士、そしてこの一連の元凶となったプラム魔導師が既に部屋にいた。


 机の上には山積みの『木の棒』が置かれていた。


 個数から見て生徒から集めて来た物ではなく、プラム魔導士の準備室から持って来た様だ。



 この魔導士学院には担当講師になった場合、個別の準備室が与えられる。


 僕はアープの授業中に、プッチィがそう説明と案内を主てくれたことを思い出した。



 エクシアは痺れを切らしていた。


 僕が部屋に入ると、待ちかねていたエクシアは話を即座に始める。



「じゃあ始めるかな!?アンタ達は何を何処まで知っているか洗いざらいここで吐くんだ。」


「まず、クゥーズと言ったね?アンタは何故こんなことをしたのか。」


「そしてプラム魔導士だっけか?アンタは誰に頼まれたかだ……アタイに協力するなら鉱山送りは勘弁してもらう様に口利きしてやっても良い……だが『全部話したら』だ」



 エクシアの仲裁につられたプラム魔導士は呆気なく口割る。



「ワ……ワシは頼まれたから仕方なくやったんじゃ!このまま協力したら必ず学長の座を用意すると!クゥーズの父上に言われたんじゃ!」



「そもそもワシだって嫌だったんじゃ!こんな『木の棒』を売るのは!どうせ売ったところでワシには銅貨一枚入らない!全部クゥーズのバカ親父に吸い上げられるんだからな!」



「でも逆らえなかったんじゃ!」



 プラム魔導士がペラペラと喋り出したので、クゥーズが声を荒げる。



「な!父上を裏切るおつもりですか!」



「オイ……クゥーズ。お前は今何を聞いていたんだ?エクシアさんはプラム講師を『鉱山送りに』って言ったんだ。この時点で黙っていようがいまいが後で結局尋問されて答える羽目になる。」



「そもそもお前も、この件に関わっているんだろう?無事でいられると思っているのか!?アープにして来た事を100倍……いや1000倍にして返すから覚悟しろよ!」



「それで僕を脅してるつもりか!?こんな事幾らしても父上が全部解決する。どれだけ父の味方がいると思ってるんだ!」



 ザベルはクゥーズが皆の前でアープを侮辱したことがまだ許せないので、責任を取らせることを伝え。



 しかしクゥーズは、それに反論する様にヤクタ男爵の周りにいる仲間の貴族の事を仄めかす………やはり周りには誰かいる様だ。

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