第192話「失われた筈の錬金術と思わぬ落とし穴」
部屋にいるには、僕、エクシア、伯爵、男爵の4人だ。
ちなみにゲイズアウルの眼玉はエクシアの予想通り1個しか在庫がなかった。
大概矢が当たって潰れるか、落下した時に枝で傷付き売り物にはならないらしい。
こんなもの他の人はな何に使うのか……と思ったら、目の中の透明水晶と言う部位を使って望遠レンズとして使う様だ。
視力に特徴のある魔物だけに、暗がりが多いダンジョンで役に立つ様だ。
因みにこの素材はマジックアイテムとは異なるが、結構遠くまで見渡せるらしい。
それなら多少傷ついてもと思ったら、眼玉から取り出すと1時間程度で乾いて使い物にならないらしい。
なので、乾かせない為にも目玉のまま保存するらしい。
僕は錬金の書(初級・第5巻) に書いてある通り、説明を読みながら作業する。
まずは魔力を大きく両手の掌に展開する。
そして両方をくっつけて一気に左右に引っ張る。
2リッターペットボトルを横に持つイメージだがしかし完全に密閉であるイメージをしておく。
そのあとそれを片手で維持したまま全部の素材をいっぺんに押し込む。
何処から入れれば?と悩んだが、魔力の容器なので目に見える感じと異なり、何の苦もなくスルッと吸い込まれる様に入れる事が可能だった。
入れた後に内部の素材を粉砕するのだが、僕は魔力ですり潰す仕組みを作ってドームから出さずに中で粉々にする。
しかし、なかなか上手くいかず、魔力が減り続ける上に疲れだけが溜まる。
あまりにも上手くいかないので、僕は現代の叡智に頼る事にした。
それは胡椒をゴリゴリやるペッパーミルの事だ。
良く親に分解清掃を頼まれていたので、僕は形と仕組みを思い出し似た様な原理のものを作り出す。
その形は内側にギザギザのついた魔力容器と、外側にギザギザのついた魔力棒を用意して内と外で左右反対に回してすり潰す。
不思議だがあることに気がついた。自作の考案した道具でしっくりくる場合、素材の硬さを感じず破砕できるのだ。
要は破壊力が上手く伝わるのだろう……使い勝手がいいので今後は、このドーム状の破砕容器が自分専用の錬金道具になりそうだ。
すり潰し続けながら魔力で中身の形状を換えつつ、魔導書に書いてある通りペースト状にする。
そして仕上がったら今度はスライム粘液を全部入れてシェイクする。
粘液に混ざり合う素材ペースト………コレを飲む人はなにが素材か知ったら多分呑まないだろう………
此処で必要なのが魔石(中)だ。
容器に先程の素材と同じ様に入れ沈むまで放置すると、魔石は突然ポップコーンに様に弾け沈澱してジワジワ溶け始める。
錬金術は本当に不思議しかない、今まで固形だったのに溶けるのだ。
この中身は凄い酸性なのだろうか……?
今度はそこに中級ポーションを入れて薬効と素材を混ぜ合わせる。
ちなみにこのポーションは僕の持ち出しだ。
空になった瓶を置き魔力容器を圧縮・濾過する、その瓶の中に絶対にペースト状にした素材の残渣が入らない様に落とすと書いてあるがコレが非常に辛い。
イメージ的には内部に濾過付きのマヨネーズの容器的な物を絞るが口が針の穴程度しかないと言う感じだ。
ちょろちょろしか出ないので、なかなかもどかしい。
僕は説明通りにやってたら時間がかかり過ぎると思い、何か現代の知恵が使えないか考える。
そこで糸くずネットと脱水機を思いつく……要は洗濯機だ。
仕組みを二重の円形『◎』にして中心を高速回転させる仕組みだ。
当然真ん中の容器には上部に無数の穴を用意しておく。コレでランダム回転させれば仕組みは完成だ。
更に魔力製の目の細かい濾過用のネットの様なものを魔力で用意して、真ん中の容器を覆う。
これで残渣は外に出ず真ん中に残るはずだ。
液体のみ遠心力で外の容器に集まり、それをさらに濾過しながら抽出すれば出来上がりではないだろうか?
大きめに作ると魔力をその分消費するらしく、ものすごく疲れるが格段に作業効率が上がる。
錬金術と現代技術概念の融合はなかなかいける。
魔導書に書かれている方法は、発想力の問題が浮き彫りになる感じだった。
しかし、書かれた当時はこれが当たり前だったのだろう。
出来上がった物を見ると、ポーションと混ぜたのに実際に出来上がる量は元の半分しか作れなかった。
説明を読んでみると、薬効成分は魔物の素材と結びつく時に回復薬の効果を発揮するらしくどんどん消費されてしまうらしい。
錬金術のレベルが上がるにつれて製造量は増えるらしく、9レベル(MAX)で元ポーションに比べ90%の量で作れる様になるらしい。
このポーションの使用量は10mlで効果が出るらしいが、残念な事に日持ちせず10時間程で劣化して粘液状になる様だ。
粘液状になる理由はスライム粘液が主な理由らしい。
ゲル状になるのはスライム粘液に溶け合った魔石が原因で、粉砕魔石が穢れを吸うと時間を置けば再結晶化して今度は周りの粘液を取り込み低級魔物のスライムになる様だ。
僕達では正確な量など測れないので正確な量を知るにはユイナの知恵袋がいいかもしれない。
因みに、出来上がった部位特化ポーションは真っ赤でとても毒々しく鑑定すると、中級ポーションだったものが『部位特化ポーション・初級『100ml』』になっていた。
終わった時には疲労感のあまり僕は座り込んでしまった。
「疲れているところすまん……鑑定させてもらっても良いか!!」
僕は力無く頷く……この錬金術という作業は本当に神経を使う……
「すまんウィン、鑑定スクロールを買ってくる……………」
そう言って伯爵は売店まで自ら赴き鑑定スクロールを買ってきた。
「コ…………コレが錬金術か………とんでも無いな………兵士達も何かあればコレで……」
「出来上がるのが今の僕では半分の量で……それに今はもう残念ながら素材もないのでコレしかできませんが………少なくとも怪我が酷い冒険者10人は治せますね……」
「ちょっと待て!これ一本で数回分なのか?素晴らしい効果だな!」
「でも有効時間が短いのですぐに使う方がいいですね。残念ですが今は鉱山から帰って来るのを待っている訳にはいかないです。10時進でもう使えません。」
「いや………完全に問題あるんじゃないかい?ここで怪我した奴が急に腕や足が生えてくれば……周りの奴らは『どうなってんだ?』ってなるだろうよ?」
「あ!………」
「ああ!…………」
「そうでした確かにそこは考えてなかった……あとコレ再生に多分1年かかります。一番最低の再生ポーションなのでそういう意味では注意事項も多いし、再生に有する期間も長いんです。」
「一年?何だそれは!?ああ!君の住んでいた隠れ里ではそう呼んでたのか………成程1天が一年か………」
疲れてたのでウッカリやらかしたが、まぁ村独特な呼び方と言うことでなんとかなった。
「せっかく作ったんだ飲ませてやろう。ひとまず包帯で隠すのはどうだ?それか長袖で光を当てない様にって嘘つくとか!?」
伯爵が効果を確認したいのだろう。
前のめりで使うことを推し進める。
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