第186話「ギルド規約とベロロア一味」

シャインがいそいそと僕の側の机まで戻ってくるのを見届けてからギルドマスターが話を始める……



 シャインを見るとはまたもや沈んだ表情だ。



 カブラとエクシアは戻ってくるシャインを見てゲラゲラ笑っている。



 まぁ皆の前で結構なセリフを大声で言ってやらかしてしまった……と、恥ずかしいそんな気持ちは僕にもよくわかる!冒険者想いなのは回復師としては賞賛される事なので、コッソリと近寄って横手で飴ちゃんを渡すとその飴ちゃんを見たシャインはニコニコし始めた。



 この世界の女子は殆どが何故か飴ちゃんで機嫌が治るのだ、人前で暴れた事を引きずらなくてよかった……それにしても僕達のパーティーに知り合いがいるとは……


 たしかに駆け出しとは言え、僕とエクシアさんが知り合いなのだから、今日のメンツの中にシャインさんの知り合いが居てもおかしくは無い。


 それにしても世界も割と狭いもんだ……と思いつつ4人に目をやると、三馬鹿は周りの駆け出し冒険者に取り押さえられ、ベロロアは気絶中だ。



 ギルドマスターはそんな彼等には一切構わずに話を続ける。



「………まぁ今ので良くわかっただろうが、ベロロアとパーティーを組む仲間達が今回『しでかした』……本来だとトレンチのダンジョンでは『地下5階層のボス部屋』に駆け出し冒険者が入る事は想定していなかった。」



「単純に攻略できないと思ったからだ。しかし昨日と今日続けて踏破者が出た……駆け出しで、5階層のエリアボスを撃破など想定外だが………冒険者が強いに越した事はない、そして今回情報提供を怠ったのは、『ギルド側』だ」



「今回は報告によると『運』が良すぎた為に起きた事例だった。『先行するパーティー』が魔物を全部倒したせいで『何もいなくなった』一本道の階層を進んで彼等3人は『ボス部屋』に着いてしまった。」



「本来は無い事故だ。あそこは魔物が湧くスピードが速い。だから何処かで必ず遭遇するはずだった……現にあの彼等3人より後ろのパーティーは遭遇して普通に魔物と戦っている。」



「あそこを利用する銅級冒険者には、まれに起きる事例ではあるのだが銅級では『強運』と呼ばれるのだ。しかし何も知らない駆け出し冒険者の今回の場合は『悪運』になったわけだ」



「なので、規定を変えることとした。あのダンジョンの5階層を駆け出し冒険者が使用する場合も『銅級同様注意喚起』を行う事にした。」



「よって今回『注意喚起を受けていない、ビヨーン、ザッコ、モッキンは不問としたかった………だが、あの言い分により考えを変えることとした。ギルドマスター権限でベロロアを含めた4人の『冒険者証の剥奪・抹消』をここに言い渡す」


「ギルド職員は後ほど彼等からギルド証を回収しておく様に。」


「お前たち3人は『ラビリンス・イーター』のエリアボス討伐を妨害したばかりか、その事に反省も無く自分の行為を棚にあげ、ベロロアと共謀して冒険者の装備を強制的に奪い取る計画は決して許し難い。」



「冒険者の命たる装備を投げ出した時点で誰も守れんだろう!何故それに気がつかない!その上冒険者から装備を奪う行為……既に昨日罰を与えた者がいるのに貴様達はあの状態から一体何を学んだのだ!既にその時点でお前達など冒険者でもなんでもないわ!」



「いいか!ここに居る駆け出し冒険者達よ!彼は自分の身を顧みず、死にそうなバーム達を護ったのだ!それこそが真の冒険者の姿だろう!出来るか出来ないかでは無く『助ける!』のが冒険者だ!」



「今日の事は良く覚えておくのだ!目の前の悪い手本を……底辺の冒険者がどうなるか……そして、冒険者としての信念を持つ者の誇れる行為の結果何が起きるかを!」



「本日行った試験の報告をする前に、ギルドマスターである私から皆に報告がある。伯爵様と男爵様の騎士爵の三貴族の推薦により、次の者を銅級冒険者・一位とし、続き銀級昇格試験の資格と権利を本日この場にて与える。」



「この特例はギルド規約に書かれているもので、『貴族爵位3名からなる者が推薦した場合、ギルドマスターの承諾のもとギルド職員5名の連名を受けし冒険者のみ、2階級特進を許可するものとする。』と書かれた規約に基づき行われる」



 ギルドマスターの言葉でざわつき始める。


 エクシアでさえびっくりして、エールが入ったコップを落っことしていた。


「伯爵位・ザムド伯爵、男爵位・ウィンディア男爵、騎士爵位・テロル殿、ギルドマスターである私、テカーリン、ギルド職員、サブマスター・デーガン、解体員・バラス、銅級受付総括・ミオ、初級受付総括・メイフィ、初級受付主任・イーザ。以上の推薦を持って次の者に許可を与える」



「F級冒険者 ヒロ……君は今から銅級冒険者1級だ!!続いて銀級冒険者への試験資格を有する。ただし、銅級冒険者の基礎講座受講後から昇格試験を有する事になるので、それは忘れないように!」


 ギルドマスターのそのセリフでギルド内が静まり返った………直後大歓声が起きる。



「すげぇぇぇぇぇっ!エクシア姉さん!アイツやりやがった!1日でって言うか0日ですか!?めでてぇ!兄ィが銅級最上位ですよ!」



「アイツただのバカじゃなかったね……想像の斜め上を行く大馬鹿だ……」



「マジか……儂等もウカウカしてられんぞ!知り合いにちゃっちゃと追い抜かれてみろ!周りの奴に輝きの旋風とか、かっこいい名前だろう!とか言えなくなるぞ!」



「「「「ムグムグ……むしゃむしゃ……はぐはぐ……ムグムグ……はぐはぐ………むしゃむしゃ……………」」」」



「マジっすか………今日一緒に冒険できて良かったっす!こんな人と一緒に戦ってたんだなぁ……まぁ理解できますけど……歩きながらゴブリンスライスしていく人見た事ないから………」



「そうよね!ゴブリンバーサーカーに攻撃も何も一切させないって頭おかしいわよ絶対!」




 チャックとモアの言葉を聞いた周り冒険者が、変な人をみる目で僕を見ていた。


 さっきまで僕に感謝していたはずなんだが………どう言う事だろう………。


 そもそも目立ちたく無いのに何してくれてんだ………


 まぁやらしてるから、人によっては既に色々知ってるだろうけど。



 皆が浮かれている中、レイカと三姫は机に置かれたお肉を食べ始めていた………我慢していたのだろう……皆が浮かれ始めたので宴会が開始だと勘違いしたのだろうか……凄い勢いで4人で平らげている。




「「「ご馳走様でした〜〜〜」」」


「美味しゅうございました〜」



 4人の発言で一瞬にして静まり返るギルド……既に木皿の上は空だった………。



『バン!!』


「お待たせしました!我がホーンラビット亭、最高級部位のみを使った『特上』柔らか焼きとホーンラビットのコボルドジンジャー焼きをお持ちしましたよぉ!」



「オーク肉などには『絶対』に負けません!この美味を是非味わってください!ヒロ様銅級昇格祝いです!!」


「ん!?ど………どうなさいました?皆様………」



「ビラッツ………まだギルドマスターが報告の最中ですよ。幾らお店のアピールとはいえ今回はやってしまいましたねぇ……ホッホッホッホッホ!」



 ビラッツの登場を巧みに使い、娘の失敗を揉み消し皆の注目を彼に誘導しようとするマッコリーニの話術はこのギルドの中で一番の悪じゃないだろうか……

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