第182話「開けた宝箱の中身……問題しか感じない弓」

「ギルドマスター‼︎今すぐ調理場の使用許可を彼女に!!」



 そう言ったのは、他でも無い『男爵』だった。



 突然の男爵の言葉に戸惑を隠せないギルドマスターだったが、何故か激しく挙手で自己アピールするメイフィに、指示を出し調理場まで彼女を案内をさせた様だ。



 それを聴いたユイナは何やら『オーラを纏って』肉を手に調理場に消えていく。


 目の前をいくメイフィは両手にオーク肉を抱えて小躍りしている……多分つまみ食い要員だろう。



 多分周りは見えないが僕にはユイナが纏うオーラが見えた………多分だがアレは食材を無駄にした怒りのオーラだ……



 本来であれば僕達のパーティーで得た物なので、彼女に『決定権』など無いが……僕と行動を共にしたパーティー全員は『僕が黙って従う様』に何も言う気をなくしたらしい……一言で言うと『怖かった』のだろう。



「なぁ……ヒロ……あの雰囲気からして何も言えなかったけど……彼女パーティーメンバーだよな!?あの言い方からして……パーティーはお前と言い化け物しかいないのか?」


 チャックの一言に大笑いするバーム達メンバー。



「只者じゃなかったな……クーヘンが何も言わない事が珍しいよ!」


「説得力が尋常じゃなかった!『あの肉は彼女が調理する物』だと何故かそうとしか思えなかったよ……あたしゃ……」


 エクシアまでが同調する。



「でもまぁ、ユイナだったらビラッツのとこの料理長も土下座する腕前だからな……適任なのは他にはいないんじゃ無いかい?

なぁ!?ヒロ?」



「そうですね……怒られそうだったんでもう早く持ってってくれって言いたかったですよ!」



「おい!ロズ……エール買いに行こうぜ!絶対あの肉は美味く化けて持ってくるはずだから!ってか……つまみ食いにいこう」



 そう言ってエクシアが走って売店に向かうと、無言で頷くベロニカが後に続く……『べ…ベロニカはぇぇ……ずりぃぞ…』と言いロズが向かう……そして男爵はソワソワし始める……トイレだろうか?



 ビラッツの話を聞いた周りが響めき始める。



 理由を知らない男爵は、ユイナの雰囲気にビクビクしながらも宝箱から目が離せない。



 そして『宝箱』のフレーズを聞きつけた銅級冒険者達がまたもや騒ぎ始めて昨日と同じ様に初心者窓口の方に集まってくる。



 伯爵と男爵がいる手前入り辛かったが、中からエクシア達が出て来たのだから入っても問題ないだろう……と言う事になったらしい。



 ぞろぞろと入ってくる銅級冒険者達。



 伯爵にしてみれば銅級冒険者より目の前のコレが重要だ……ダンジョンで得た宝箱から素晴らしい物が昨日出たばかりで、ギルドマスターから一連の話を聞いていた伯爵は、それを持って国王に拝謁する予定なのだ。


 まさか今日も宝箱を持ち帰って来るなどとは当然思っていなかった上に、相手は今まで一緒にいた冒険者であれば自分に回してくれる可能性は大きいと踏んだのだ。



「リーダー!なんでそんな後ろに逃げてんだ!?この箱早く開けようぜ!皆楽しみにしてんだ……それに職員が戻ってきたら開封どころの話じゃなくなっちまう」



 チャックの言うことはもっともだ。



 昨日も昇格者の発表後はお祭り騒ぎで大変だったのだ……ここはチャックの提案通り早く開けて宝と得た素材の分配をしなければ後になるとゆっくり休めやしない。



 僕はメンバーに促されて宝箱に歩み寄り開封する……その際に再度鑑定する。


 罠はアラームが解除済みの表記になっていた。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


   宝箱 (ランクS) (アラーム解除済み)


    『階層ボス特殊宝箱』


特定条件1:

  2パーティ6名以上でフロア入場

特定条件2:

  脱落者0にて勝利

特定条件3:

  女性冒険者3名以上


※以上の条件をクリアした場合宝箱はS+の報酬に切り

 替わる。


S+確定ドロップ 

精霊のロングソード・宝石の錫杖・精神のワンド・

マジックバッグ(大)・深紅の宝玉・炎の弓(エルフ限定)


       入手方法


 ダンジョンの魔物を倒した場合。

 特殊な状況下で魔物を倒した場合。

 その何かで稀に入手。


 箱にはランクがある。

 ランクが上がる程、良品が詰まっている。


 箱には罠がかかっている場合がある。

 ランクが上がると箱内部は複合罠になる。


 解錠方及び罠の解除方は箱ごとに異なる。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 箱を開くと『ギギギギ』と重い音を立てて開いた。


 横に大きな宝箱にはすごい量の宝が入っている。


 鑑定に書いてある『確定装備』は一目でわかる程、存在感があった。



◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


精神のワンド 

マジックバッグ(大)

炎の弓(エルフ限定)

高級鑑定スクロール

錬金の書(初級・第1巻)

大切断のスキル・スクロール 

高級ポーション(12本)「専用木箱入り」

ポーション4

金貨袋(100枚)6袋

精霊のロングソード 

宝石の錫杖 

深紅の宝玉 

秘薬 

万能薬 2

特大パールリング 

宝石が散りばめられた円型の化粧箱(小型)


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 開けた瞬間に周りから歓声が上がる。


 昨日の宝箱より遥かに量が多く、上質であるのは一目瞭然だった。


 駆け出しは勿論、銅級冒険者と怪我をしていた冒険者までが見にくる始末だった……どんな大怪我をしても冒険者なのだから宝が気になるのだ。


 僕は開けたとほぼ同時に『簡易鑑定』で中身を確認する。


 すごい気になったのは錬金の書と炎の弓(エルフ限定)だ専用装備だ。


 エルフ限定という時点でこの世界にはエルフが居ることになる、しかし今ここに居る冒険者達は全員『人間』だろう……そして錬金の書は僕の力になることは間違いがない。



「凄いな………なんか箱に入ったポーションがあるけど………あれ1本いくらで売れるかな……」



「寧ろ気になるのはポーションが入っているあの箱だ……あんなの薬屋でも見た事がないぞ?出回ってたの誰かみたか?」



「アレ………まさかスキル……スクロール?……2個もあるぞ!」



「凄い武器だ……アレがあったら、銅級冒険者として箔がつくよな………羨ましい……」



 周りにいる冒険者が中身を見ては、ため息をついている。


 しかし、僕と一緒に行動した彼らには既にダンジョンで手に入れた装備があった。


 確かにこの箱の装備は、豪華そうだが今持っている武器でも十分過ぎる装備だった。



「そうかしら?私の持ってる『刺したら燃え上がるダガー』の方が絶対に強いと思うんだけど!?」


 そう言ってモアは皆に見えるようにフレアダガー持ち、宝箱の載っている机に駆け上がり武器を掲げる。



「「「「おおーーーーーーー!!!」」」」



 モアちゃんの可愛さに「おおーー」なのか、武器に「おおーー」なのかは不明だが……皆喜んでその様を見ていた。



「おお!良いもの手に入れたじゃぁないか!それはフレアダガーと言う『炎属性の武器』だ。薬師や回復師、シーフにレンジャーが適正だったはずだよ。」



 いつに間にか木皿に山盛りの『オーク肉のコボルドジンジャー焼き』と中サイズエールコップを持った腹ペコ怪獣のファイアフォックスメンバーが帰ってきた。


 周りの目は木皿から離れない……そんな時1人声をあげる……スゥだ。



「炎の武器!フ……フレアダガー!!!」



 名前を聞いたスゥが、キラキラした目でモアの持っている短剣を凝視している。



「ちょ……ちょっとスゥ!そんな目で見てもあげないんだからね?コレは私の武器よ!?欲しければ自分で宝箱から手に入れるか、似た様な私に似合いそうなカッコいい短剣を探してよ!そうしたら交換してあげるわ!」



「はははは……まぁ良い武器だから大切にしな。確か『エルフ族』が作る武器で『製造手法は秘匿』になってるんじゃなかったかな?」



 びっくりした……エクシアの口からエルフの言葉が出るとは思っても見なかった。



「エクシアさんはエルフの事を知っているんですか?」



 僕は箱の中にある武器の事もあり、つい質問してしまった。



「うん?エルフだったら王都や帝都に行けば、たまに冒険者として見かけるようになったよ?なんでだい?」



「いや……僕は見た事がなくて……ここの街には人しか居ないから、どんな感じの人なのか気になったんです。」



「はははは……確かにそうだな、『お前さんは知らなくて当然』か!まぁ人の形はしているが、エルフだから人とは違うよ種族だな……見かけるのは本当に極最近でな、基本的には人と冒険したりはしないな……」



「話をすれば普通に話すけど、基本的に秘密主義の様だ。なんでも、どっかに隠れて生きているらしぞ?王国は結界があって人間には入れないそうだ。エルフにしかその結界を超える力はないんだとさ。最近見かける理由は秘密だそうだ……」



 僕はそれを聞いて、宝箱の中の弓が尚更気になった。


 ひとまずはこの弓をしっかりと鑑定してみる事にした……

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