第177話「はじめての食材……オーク肉」

鑑定すると万が一街で見ても食べ辛くなる。


 ちなみにジェムズマインの街ではあまりオーク肉は見かけない……理由は簡単で近くに居るのはゴブリンが圧倒的に多いからだ。


 魔物は基本棲み分けする。


 ゴブリンが幾ら弱くてもオークはその縄張りを余程の事がない限り奪わない。


 自分達の手駒が無くなれば後で困るからだ。


 因みにこの場合の縄張りを襲わないオークは『オークウォーリアー』であり、『食用のオーク』では無い。


 僕は盾を構えようと思ったが、危険だと判断した。



「スゥ避けるんだ!あの勢いを付けた攻撃は僕達では体重が軽すぎて吹っ飛ばされる。散開して引きつける間にチャックがメインで攻撃!ユイ、モア、チャイは有効範囲から離脱!」


「スゥは隙を見たら攻撃、狙いは首の頸動脈、出血多量を狙うぞ!」



「「「「「おう!(はい!)」」」」」


 僕とスゥはバックステップで攻撃を避ける……攻撃が空を切るが、すかさず別個体が突進で襲いかかってくる。


 チャックはそこへ弓を撃ち込むが皮下脂肪が厚くダメージが少ないようだ。


 僕は水魔法を考えたが、今は実践を積むべきだと考えた。


 経験を積む事で彼らは自分なりの戦闘方法を覚えるはずだ。



 僕とスゥはアイコンタクトしてから左右へ分かれて眼前のオークの首を狙う……スゥが斬りつけた後に僕は反対側から斬りつけると首がゴロリと落ちる。


 その間他の敵はチャックが弓でとチャイがこのダンジョンで手に入れたスリングを使い引きつけてくれる。


「ほぉ……なかなか良い判断と動きね、これなら手助けに入らなくても平気そうね……」


「ちゃんと各自が弁えて動いてるな。」


 僕は2匹目オークの脚を目掛けて剣を振る……動きを止めればユイとモアも攻撃に参加できる。


 しかもモアの持つフレアダガーは火属性なのでオークには有効なのだ。


 それに此処はダンジョンなのでオークを燃やしても、可食部が燃えて無くなる事はない。


 そもそも死骸さえ消えてしまうのだから。


 脚を斬られたオークは当然その場に倒れ込む……モアは急所を見定めて頸部目掛けてフレアダガーで斬りかかる。


 吹き出す鮮血と共に動きが鈍くなり、完全に止まるとモアは立ち上がって周囲を伺う。


 彼女は後1匹居る敵に油断など1ミリも見せないようだ。


 残りの1匹は僕と同じようにスゥが脚を斬りつけて行動力を奪っていた。


 そこに弓を射掛けるチャック……動きが鈍くなったところを素早く持っていた剣で首を刎ねるスゥ。



「お見事!無事オーク退治は終わったね!」



 バーム達のお陰で食用オークと呼ばれる魔物と安心して戦えた。



 彼等は僕らが戦っていた間、周りに魔物が来ないか見張ってくれていた……万が一魔物が来た場合、僕達が相手しているオークを処理して安全なところまで僕達を下がらせるつもりだったようだ。



 武器についた魔物の血を払い、バーム達とこの階層の注意点を聞く。


 先程のオークと戦っている時に別の群れに遭遇する場合と『オークウォーリアー』と遭遇する場合があって、後者の場合は余程注意しないと大怪我をすると注意してくれた。



 その話の後に倒した所を見るとオークの肉3個と魔石の小と中が落ちていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


オーク肉(2KG) 3

魔石(小) 2

魔石(中) 1


◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕達はこの肉を持って地上に帰ろうと話が纏まった……もう少し戦ってみたかったが、ふと時間が気になったのだ。



 地下に降りてから既に3時進は経っており、結構な時間をこのダンジョンで使っていた。



 ギルドに戻ることを考えると、そろそろ地上に戻らないとならない。



 元世界の時間にすれば既に18時頃になる……日も落ちはじめてそろそろ暗くなり始める頃だ。



「俺たちも今日は街に戻ることにするぜ……今回は収穫が多すぎてもう持ち運ぶのも限界だしな」



 バーム達も一緒に僕達と地下5階の転移門まで向かうとバームは説明する。


「いいか?この転移門がある場所で一滴血をこの足元のゲートに垂らせば何時でもこのゲートを起動できる。地上階から此処の地下5階までくるのも、此処から地上に帰るのも銅級の場合はこのゲートを基本的には使う。」


「地下1・2階は駆け出し冒険者のための場所として管理されている。だからあそこで戦う事は基本銅級は禁止だだからねゲートを使うんだ。」


「まぁそれも銅級になってから初めの講習会で街営ギルドから全部説明されるがな……基本此処を利用できる駆け出し冒険者は想定されて無いから今まで説明してきてないという事だ。」



「私お腹空いちゃったわ……ヒロ達も早く帰りましょう!?銅級になればまた直ぐにくる事になるわ!」


 僕達はナイフを取り出し一滴血を魔法陣に垂らすと頭に地上階の魔法陣がが思い浮かぶ……それはとても不思議な感覚だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


「おい!テイラーお前達はまだ此処にいるのか?」



「ああ!今日はまだいる予定だ。早馬が街まで出たから、直通路を使ってギルドの職員と衛兵達がくるはずだ。それまでは連合討伐隊隊長として此処にいないとならないんでな!」


「すまんがウチのシャインは連れてって貰えないか?出来ればちゃんと休ませたいんだ。」



「兄様!私は大丈夫です……MPは此処でも自然回復しますし!それにあの方にちゃんとお礼も言いたいし。」



「うん?ヒロの事か?アイツなら此処には来ないぞ?既にトレンチのダンジョンに向かったから昇格試験済ませたら間違いなく街へ行くに決まってんだろう?シャイン……?大丈夫か頭強く打ったせいで考えが纏まらなくなったか?アンタらしくもない……」



 よく考えればそうなる事など直ぐにわかるシャインだったが、討伐戦の討伐部位もあるのでこの鉱山まで戻ってくるにではないか?と思ってしまっていた。報告義務の重要性に関して言えば駆け出し冒険者は絶対だ。出来なければ即アウトなのは決まりきっている。


 シャインはすぐさま掌を返し全く逆にことを言い始める。



「お兄様私は街へ戻ります!あの方にお礼を言わねばならないので、此処の管理は『リーダーのお兄様』に任せます。エクシアさん!早く帰りましょう!初級窓口で待ってれば会えますよね?」



 変わり身の速さには兄でさえ何も言えなかった。



 丁度その時、男爵家のマッジスが到着する。馬車には馬車分の御者を乗せていた。


「ザム!馬車が来たぞ、我々2人はは同じ馬車で良いか?『積もる話』もあるからな王都の話は皆の前では出来んだろう?」


「ウィン流石だな!そうして貰えると助かるが、良いのか?『彼等』と話さなくて?」


「構わんさ、また『何時でも話せる』」


「そうだな……確かにこの魔獣の件で『何時』でもな」



 伯爵と男爵は伯爵の乗ってきた馬車で街まで帰り、男爵の馬車には、異世界組+タバサが乗りこんだ。


 ギルドから借り受けた馬車2台にはファイアフォックスメンバー4名とシャイン、輝きの旋風メンバー5名が乗り込んだ。


 伯爵の御者台にはザッハが座りザッハが連れてきた御者は、フットマンとして伯爵馬車の最後尾に2名立っている。


 男爵の御者台には行きの馬車御者2名と、フットマンとしてザッハが連れて来た最後の1人が立つ。


 ギルドから借りた2台の馬車の御者台にはロズとタンバが買ってでる。


 男爵もまさか鉱山から全員が帰るとは想定してなかったので、急遽フットマンとして対応したようだ……流石に連れて来られて置いてけぼりは可哀想だ。


 行きは急ぐ為に無礼講で詰めて来たが、帰りは貴族的な聞かせる事の出来ない重い話があるらしく、伯爵達の馬車には同席などできない。


 因みにギルドマスターは結局一度街まで帰り、職員達へ別の指示も出すようだ。



 ファイアフォックスで用意した食料は鉱山に置いていくらしい……『冒険者の当座の食料』の援助としてだそうだ。


 どっかの馬鹿な貴族がたらふく食べたせいで、エクシアが少しでも多く食糧があった方が良いと判断したためだ。


 予備の装備は伯爵が気を利かせて伯爵家の馬車に積ませてくれた。何故なら積む場所が無い上に、ファイアフォックスのメンバーは此処に残らないから管理ができない為だ。


 残りのギルドから借り受けた最後の馬車1台には、重体の冒険者を優先的に載せて街のギルドまで至急連れ帰るように伯爵が指示をしていた。


 コレの馬車を操作するのはギルマス自らだ。


 この街の為に闘ってくれた冒険者だ、ギルマスが連れ帰るのは死地へ送り込んだ者の当然の行動だし、冒険者を送り込んだ領主としても傷ついた彼等に出来る限りの援助をする為らしい。



 こうして、僕がダンジョンで奮闘している間に皆は街へ帰っていった。

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