第162話「ダンジョンの不思議に直面」

僕は剣を構えて近くのスライムに鑑定をかける。


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・迷宮深化条件 35/100


・固有個体発生討伐率 13%


スライム (通常種・不定形系統・小型種)

『使役可能個体』第一次系統進化個体 

※ステータスには個体差、系統差あり


LV.5 HP.32/65 MP.10/10


STR.5 ATK.15 VIT.7

DEF.17 INT.9 REG.18

DEX.10 AGI.10 (+10) LUK.15


     条件により使役可能


 粘体を持ち、身体の中には核があり絶え

ず核を動かし身を守る。


 常に動かす核の中に魔石を持つ。


 スライムの粘体は錬金素材として使える。


 スライムの核を別素材(液状、ゲル状)に入れ

る事で系統変化させ素材体積を増加させる事が

できる。


 魔石、スライム粘液、消化液、溶解液


 上記部位は武器、防具、etcの素材に

  使用可能。


 系統変化先 

 ・アクアスライム


 LV、経験値・条件不足で鑑定不可。


   討伐時に稀に宝箱を落とす。


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 前にスライムを鑑定した時は洞窟と思われていたダンジョンだったので簡単な内容だった気がするが、このダンジョンに来るまでに条件を満たした結果、鑑定内容の項目がかなり増えていた。


 ステータスは勿論、入手アイテムや進化先の魔物まで表示されていたが、鑑定内容に今までに無い項目が増えている。


 迷宮深化条件35/100 と固有個体発生討伐率13%という表記だ。


 数字が増えたのか減ったのかは今後わかるとしても、迷宮深化はなるべく避けたい内容な上に固有個体発生率と言うのは当然この個体よりも上位の個体でしか無いだろう。


 ダンジョンには稀に危険な個体が発生するとエクシアから聞いた事があるし、ダンジョン深化は穢れが原因であると精霊たちから聞いている。


 だとするとこの数字の意味が気になるが、鑑定を皆使えない以上この数字の意味を知るものはどれほど居るだろう。


 そもそも周りは駆け出し冒険者に毛が生えたくらいなので知っている方がおかしい。


 わからない情報より今はチェックを無事受けて早くギルドへ帰って終了報告することが重要だ……そう思いながらも、目前のスライムを切り払う。


 僕らはそれから地下二階のチェックポイントを探す……



「なぁ?リーダー1つ質問なんだが………」



 チャックが僕に唐突に質問があると言うと、周りも気になった様でチャックの方を見る……



「何ですか?進みながらで良いなら答えますが?」



「ああ……構わないぜそれで。ストイックだな……リーダーは……。それでなんだが……随分戦闘にこ慣れているけど、その……なんと言うか怖く無いのか?魔物が……」



「ああ!そう言うことですか。見た感じは貯水池のスライムとかと変わりませんし、ゴブリンもはぐれ個体と街周辺で何度か戦闘しているので、その時に割と吹っ切れたって感じですね。」



 その言葉を聞いたスゥが会話に混ざる。



「まじか!あの貯水池近隣とか魔の森外縁水路でゴブリンと戦ってたの?……かよ!?根性あるな……私……ア…アタイは2回は戦った事があるけど辛勝って感じだったよ。」



 スゥという娘の喋り方にはなんか無理している部分が見え隠れする。気を抜くと何時もの話し方に戻る節があるのだろう……多分今現在話し方は無理しているのだろう。


 外見はスラッとしていて、ポニーテールで髪を結っている。此処に来るまでの言動では若干天然な感じもする。



 チャックもスゥのことは気にしたようだが言葉遣いの事は敢えて避けるようだ。



「彼処にチェックポイントがあるな。今回はリーダー2人と誰かがチェック完了だな!早速1人完了でめでたいな。怪我もなく安定した戦闘だから若干ゆとりも出るしな。」



「そうだね!私も前衛が楽だよ!タンク1人の時は私1人で平気か心配だったんだよね。流石に数匹のゴブリン相手は骨が折れるからね……。」


 スゥは自分が既に『アタイ』から『私』に切り替わったことに気が付かずの話している……チャックは笑いを堪えるのに忙しそうだ。


 僕達はひとまずチェックを優先して受けた。


 僕とスゥは此処で初めてのチェックを貰い、チャックとユイが先に2箇所のチェックを貰い完了となる……はじめは譲り合いで若干大変だったが、『この後すぐに、この階の別の場所でまたチェック貰うんだから譲り合いしての意味ないですよ?』と僕が言ったら『そうだったね!』と全員が爆笑する。



 ギルドのダンジョン駐在員は、このやりとりを微笑みながら見ていた。



 そうすると笑い声に反応したのかダンジョンの奥から「ギャギャギャ……ゲヒヒヒヒッヒ」と声がする。



 ゴブリンが奥から来るようだ。



 駐在員がすかさず始末に出ようとするが、チャックが背中からショートボウを取り見事に先頭を歩いていたゴブリンの脳天に矢をヒットさせる。


 突然先頭を歩いていた仲間が死ねば、本来他の個体は逃げてもおかしく無いのだが、ダンジョンの魔物は内部に侵入した人間を排除する様に行動する様で逃げずに向かってくる。



 それを見たダンジョン駐在員が僕達に武器を構える様に言い説明する。



「いいか!駆け出し冒険者諸君、陣形をとるんだ……そして武器を構えろ!ダンジョンでは油断するなよ。」


「ダンジョンの中は魔物の縄張りとされていて、奴らは仲間が死んでも縄張りを死守する為に恐怖を感じる事なく向かってくる。これはダンジョンの意思によるものと言われている。」



 駐在員が説明する間も、チャックが矢を仕掛ける……一定距離がある場合ゴブリンの様な知能の低い魔物は一直線に向かって来るので弓は有利だ。



「リーダー3匹目終わるがどうする?全部倒しちまっていいか?」



 チャックの自信はすごいが、言葉の通り今まで全く外す事がない……。


「チャックさん凄い!」


 それを目の当たりにしたユイが思わず声を上げると、調子に乗ったのか矢の精度が乱れ肩に刺さる。


「滅多に女の子に褒められないから手元が狂ったぜ!ハハハハ〜」


 チャックは外したが嬉しそうだ……しかしその手は休まる事がなく向かってくるゴブリンの額に命中させる。


 なんとこの戦闘はチャック1人で5匹のゴブリン殲滅してしまった……あまりの手際の良さに鑑定する暇さえなかった。


 ダンジョン内は見渡しが効く訳では無い。チャックがいる場所は駐在員がいるすぐ側なので灯りがあるが、ゴブリンが倒れている場所は此処よりは暗い。


 それなのにここまで完璧だと正直何か怪しく感じる……その空気を感じ取ったのかチャックが口を開く。



「俺さ、親父がハンターだったんだ。だから弓だけは親父が教えてくれたんで得意なんだよ。親父と狩りに出て獲物狙うには暗がりが一番だろう?だからこのぐらいの暗さはなんとも無い。色々あって冒険者になったが、親父が教えてくれた弓の撃ち方だけでなんとか生き残ってる感じだな。」



 シーフって言っていた気がするが彼の『色々』の中にその理由が詰まっているのだろう。


 脛傷を持つのは冒険者には少なく無い、何かあってこの冒険者と言う道を選んだのだろう……変な空気を出してしまってなんか申し訳なかった。


 僕が謝罪の言葉を口にするより先に、ユイとモアが口を開く。



「ごめんなさい!さっきまで怪しいなって思ってました!でも今の話聞いたら自分が恥ずかしい!本当にごめんなさい!」


「すいません……理由も知らず外見や話し方で疑っちゃってました……本当にごめんなさい!」



 凄いいい子達だ……チャックはその言葉を聞いてなんか凄い照れている。



「いやいや!募集の時に先にシーフって言ったのは俺だから、怪しいと思って間違いないんだ!ちょっと色々あって大変な思いした結果、シーフとしての経験も持っただけでアンタ達が怪しいって言ってんのは合ってるんだ。だから気にしなくていいぜ?」



 素直に認める彼の器の広さに自分が恥ずかしくなったので僕も疑った事を謝ることにした。



「申し訳ない……僕も怪しいと思っちゃった……本当にすまない。」



「いや……大丈夫だ……そもそも俺が先にアンタを疑ったんだ。あんな歩きながらゴブリンズバズバ切るやつ今まで組んだ奴の中で見た試しがないからな。疑っちまった……じゃあ!これでチャラって事で。」



「君達は面白いパーティーだな!歩きながらゴブリンを葬る者と、暗がりを物ともせずゴブリンを殲滅する者……先が楽しみだ。………ところで……早くしないとあの宝箱『消えるぞ』?」



 駐在員の一言で皆の首が一斉にゴブリンがいた場所に90度傾く……僕の首からは若干…『グキッ!』と音がした……

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