第155話「打算……水泡に帰す……」

デビルイーターを討伐したのでエクシアのパーティーが僕の元へ駆け寄るが、エクシアとテイラーは知り合いだったようだった。



「エクシア……遠出の依頼で鉱山に来るのが随分遅いと思ったら……あのクソッタレ商団ぶっ壊してその上、人間まで辞めてきたのか?お前らしいな!!」


「テイラーが居るから必要ないと思ってたんだよ!じゃなきゃ海辺の街まで行かないさ……馬鹿商団の刺客と戦いながらなんてね!あとねコレが本当の私の力だっ!恐れ慄け!そして崇めて良いぞ?特別許可するさ!テイラーお前を追い越してS級になるのは、……やっぱり私だったね!」



 お互い皮肉っていたが、笑いながらも言っていたのでいつもの挨拶なのだろう。



「それにしてもエクシア知り合いだったのか?コイツは出鱈目だな!間違えて此処に来て邪魔だから倒すみたいだぞ?昇格の障害なんだとさ!」



「ああ!知ってるよ!だから此処まで来たんだよ!鉱山が遠いったらありゃしない!港町よりは近いからいけどな。」



「テイラーさん!あまり僕は目立ちたくないんですよ………この事はあまり言わないでください。此処はテイラーさんが仕切って戦ってた結果倒したんですから、全てテイラーさんの功績なんです!」



「僕がやった事はあまり言わないでくださいませんかね?と言うか絶対僕の事は秘密で!この素材あたりは当然貰いますが、誰かから何か言われて褒められるのはテイラーさんで十分ですよ。」


「連合討伐リーダーなんですもん!僕に事が気になるんだとしたら、カブラさんのことと同じって意味ですよ。手の内と存在はあまり知られたくないんです。『駆け出し』なんですから怖い事は避けますよ?普通は」



「何を言ってるんだ?当然この素材は勿論分配するさ!と言うか寧ろ君が『切り離した素材』は君の物だからな?僕達がどうこう言うものではない。ただ、この本体だけは皆で分配になる。当然君だってこの本体の部位も分配対象だから心配するな。」



「それより問題なのは、この領土を収める伯爵から……いや多分だが王都の国王から直々に賛辞が貰えるぐらいの戦果を君は行ったんだぞ?その戦果を僕に譲るとか…目立ちたくないと言う理由で全部捨ててしまうとか正気なのか?騎士爵位は硬いんだぞ?」



「テイラーさん無駄っすよ?ヒロはですね本当に出鱈目なんですよ、全く無頓着で面倒なのが嫌いなんです。貴族の上下関係とか爵位なんて以ての外で考えられない筈っすよ。」



「ロズの言う通りだ、お前がもらっておけ!本人が良いって言ってんだから。コレで私と同じようにS級に一歩近づいたな?私は随分リードしてるけどねぇ」



「お前たちが適当なのは知ってるが……お前達以上に適当……と言うわけじゃないか……何考えてるか分からない……そう……ロズが言ってたように出鱈目だな!ははははははは!」



「此処はありがたく貰っておくよ!返さないからな?折角貰った功績だから。」



 何とかテイラーにこの場の事後処理を押し付けられた……此処の戦場での英雄はテイラーとエクシアで充分で僕が表に出る必要は無い。



 そもそも此処に駆け出しがいる時点で、おかしいのは誰にだって分かる。



 目立てば何か変な事が起きるものだ…余計な事に巻き込まれて困るのは自分なのだから。



 それだったらいっその事、全て放棄して厄介ごとを無くすのも手であり、その上で素材が貰えないのであればそれもまた致し方無い。


 出る杭は打たれる物、目立たないのが1番でそもそも国が絡むと大概中はドロドロなのだから、触らぬ神に何とやらだ。



 それに貴族のドロドロに関わるぐらいなら、早く帰り方を見つける方が先決だ。



「良いですよ!?そんな面倒なものより貰える素材の方がまだ最終的に役に立つんですよ!何か作ったり、売ったお金で何か買ったり………ね?わかります?」



「そんな事よりオイ!ヒロお前此処で何してんだ!?今日お前が居る所は此処じゃなくてトレンチ(溝)のダンジョンで『昇格試験』の筈だろう?それにそもそも銅級でも無いのにこんな最前線に居るのはどんな言い訳を用意してるんだ?」



「相変わらず兄貴は出鱈目っすね!盾の使い方は教えましたが、こんな巨大な魔獣のは対応したのは教えてませんぜ?」



「単純に乗る馬車を間違えたんですよ!でも確認したんですよ……鉱山行きの馬車ですよね?って。そしたら鉱山には着いたんですが、良く聞いたら昇格試験ダンジョン行きの馬車は位置が変えられたらしいんですよ。」



「それにこの巨体の攻撃を盾で攻撃を防ぐのは前提にないですよ!?ロズさん……遠くから全体を削ってって感じ……………………あ!そうすれば早かった!!ああーーー最悪だ」



「「………………………」」




「………だからこれは不可抗力です」




「それはアタイも聴いてる。ミオが謝ってたよ。じゃあもう一ついいか?『あの氷の巨大な氷柱』は?」



「あっ!み…見てたんですか……デビルイーターが仰向けだったので、チャンスだし氷は有効打だったので攻撃するのはちょうどいいかな?って試したんです。安全圏から闘うのは冒険者の鉄則じゃないですか?」



「それに早く倒さないと被害が甚大で……もっと冒険者達が死んでたかもしれないんですよ!」



「それにしたって……兄貴は出鱈目っすね今までの契約類の意味が無くなったじゃないですか?どうせ水魔法も使ったんですよね?あの千切れ具合からすると?それにもう自分の契約無効になってますよ?話しても『声』が出ますもん……そもそも契約印が消えちまってます。」



「くっくっく………だねぇロズ!本当に出鱈目だ自分より周りか!?馬鹿に拍車がかかったようだね………アンタといいロズと言い……ウチは馬鹿ばっかだ!ははははははは」



「エク姉さん!俺は関係ないでしょう!?」




 その言葉でエクシアが笑いながらも周りを見回すと、討伐完了で浮かれているパーティーもあれば、死んだ仲間の側で話しかけて泣いている冒険者も居た。



 エクシアはその様を見てこれ以上ヒロを虐めるのは辞めようと思った、面白半分で弄ったが本人は被害を抑えるためだけに一番危険な最前線で闘っていたのだ。



 それも銅級でもなく救護手伝いとして夕方まで居ればいいとされているにも関わらずだ。



 後からのんびり来てラストアタックだけ貰った自分とは違うのだ……と理解した。



 そんな事を考えているエクシアだったが、僕はと言うとエクシア達が此処に居た事であることに気が付いた。



 本当であればジェムズマインの街にいるはずのエクシアさん達が、何故この鉱山に居るのか?



 僕が此処にいる事を知っている可能性がある………昇格試験の情報を知るのは昨日の流れからミオさんと側にいたサブマスター、そしてミオさんのアシストをしているメイフィでは無いか?



 ミオさんが仲が悪いイーザさんに確認した時に、僕の乗車間違いに気がついたのでは無いか?



 だとすれば吉兆だ!まだギルマスが知っていない可能性がある限り、ダンジョンに行ければ減点が回避される可能性もある。



 それに気がついたのがミオさんなら………ホーンラビット亭でパスタを茹でてコンソメとラビット肉で『コンソメラビットパスタ』を主食に、そして生姜焼きを追加してディナーを作れば……ミオさんにお願いしてなんとかなるんじゃ無いだろうか?食べたことのない新メニューと称して……と言う打算が生まれた。



 まだ日は落ちてない……それならばこのままトレンチのダンジョンへ行き、遅れて来た冒険者を探して一緒に試験をクリアすれば結果オーライじゃ無いか?………と手順を考える。


 エクシアさんが心配してきたなら、馬か何かで来た筈だ。


 馬車は朝出たら夕方までで無いのだから、此処に来た手段は定期便以外の何かだ……だとすれば馬もしくは定期便とは違う馬車が複数ある可能性が高い。


 例え馬車だったとしても、試験会場が近ければ僕をダンジョンで下ろして戻ってきて貰えれば、皆はまたその馬車は使える。


 その為に危険な曲がりくねった道を走らないとならないのだが……馬車が2頭立てか4頭立てかで変わってくるが……


 そして僕にはそれがお願いできる人は限られている。


 僕が馬や馬車を操作出来ない以上、エクシアかロズかテロルの中から一人は欲しい……そもそも元の場所へ戻すためにも必須だ。



「エクシアさんお願いが………………」



 僕が言いかけた時、エクシアは予想外の言葉を発する。




「アッチにソウマ達と伯爵に男爵、後ギルマスが居るから挨拶してこい!特に伯爵はお前の為に貴族馬車の使用許可に専用直通路の使用許可までくれたんだ。そこはちゃんとしないと心象が悪いぞ?アタシのなっ!」



『ギルマス連れてきたんかい!エクシアさんの心象なんか知りませんがな!』って叫び出していた……ガン泣き決定だ。



 僕はエクシアに促されて向かう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇




「坊主!お!お前!!どれだけ心配したか!どれだけ……………」



「嘘!生きてる!この4人の言う通り………生きてる……嘘でしょう?駆け出しが何したらあそこで生き残れるのよ?恐怖はどう克服したのよ!」



 回復師の2人がびっくりして回復魔法がキャンセルされている………怪我している冒険者さん申し訳ない。




「だから言ったでしょうが……ヒロは転んでもタダでは起きないって言ったじゃないか!まぁ無事で何よりだけど……なんで此処にきたんだ?あれだけタバサの時は言ってたのに自分だから気が抜けたか?」



 ソウマの一言でメンバーは「死神に守られてるから絶対死なないし!」って爆笑している……



 そんな中一人の女性が話に割って入ってくる。



「嘘!生きてた!…………うううう………貴方のお陰で命が助かりました……それどころかあの貴重なポーションを使って頂いたお陰で……過去の古傷まで全部治して頂きました。………生きててよかった……ううううう」



「無事此処に来れたんですね!大丈夫でしたか?一時はどうなるかと。あの時はすいません……ああする他すぐ治す方法が見つからなかったので………本当に……」




  僕があの時シャインと呼ばれていた女性と話している途中に、テイラーとテロルにエクシアまで伴って一緒に救護テントへ来る。



「シャイン!生きてたぞ!この大嘘つきめ。全くこの馬鹿が死ぬ筈ないんだよ!アタイに嘘つくなんて100年早いよっ」



「そうっすよ!ひろの兄貴が死ぬ筈ないっす………出鱈目なんですからやる事が。いや……出鱈目なのは存在ですね!それとシャインさん、旦那さんも連れてきましたよ!」




 エクシアとロズが軽口を叩くが、僕はロズの一言で青くなった……『旦那さん!?』エクシアとロズの後ろにはテロルにテイラーと呼ばれる先程のタンクが居た。



 テロルが独り身なのは前に聴いたので、ロズが言った手前引き算をするとテイラーしかない。



 それに思い出すと確かに傷薬と回復薬を渡した時確かに言っていた……「妻の為にまだ死ねない』とか何とか……




「シャイン!動いてはいけない!あれだけの攻撃だったんだちゃんと休んでおくんだ……傷はどうだ?俺が居ながらすまない……また傷を増やしてしまった………私がなんとしても高級ポーションを手に入れてやるから、それさえあれば背中の傷だって………今日受けた傷だって問題ない!諦めるんじゃ無いいいな?」




「大丈夫!この人のおかげで全部治ったわ。探し求めていた高級ポーションを、私の為になんか使ってくれたの……知り合いでもないのに!」



「ん……なんだって!どう言う事だ!?シャイン?あの時『口移しで飲まされていた』のは高級ポーションだったのか!なんて事だ………そんな高級なものまで、なんて礼を言えば………」




 地味に貰った物と、使った物をかけて笑いを求めなくてもいいんだよ!?とツッコミを入れたかったが、いい出せなかった。



 皆の前で暴露された旦那さん……それはダメなやつ……冒険者なのでそんな事気にしないって言いたいかもだが!わざわざ強調するする必要なんかないじゃないか!助けたのに皆の前で言われて拷問にあう罰ゲームだ。



 僕らはまだ高校生なのです!それに僕は彼女も居ない歴ALLなんです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る