第156話「腐敗貴族の悪事」

テイラーの一言で僕は周辺だけでなく救護テントにいる男性冒険者に限らず女性冒険者と回復師の二人までからの視線を全て集める。


 回復師の女性がニタニタしている……奪い愛は起きませんよ!ニタニタしたって!



 横を見ると



「昇格試験受けずに口移しで介護とはいい身分じゃないか?俺も来ればよかった……チラチラ」



「ヒロさん……ちゃんとそう言うことする時は彼女に許可取りましたか?女性に適当なことしちゃダメですよ!同じ高校生として不純はダメです!」



「ひろ!ちゃんと軌道確保してしたんだよね?傷を治すポーションだとしても液体だけに迂闊に何かすると気管に入って危険だからね!まぁ今回は仕方なさそうな状況なのは、なんとなく今の感じで分かったけど」



「ニタニタニタニタニタ……………高校生なのに……ニタニタニタニタニタニタ」



 皆が言うのはなんか違う感じにまとまっていた……そこが重要か?と言いたかった。


 そしてカナミちゃんだけはニタニタして興味津々だった……伊達にこの世界を10年彷徨ってない……精神的にはある意味僕たちより上だ……見えないけど。



「所で、君がヒロ君か?君のために男爵がどうしてもと言うので私が『あの馬車を貸し』そして君の為に『貴族専用路の使用許可』を出したんだが?君は……」



「すまんザムド伯爵……彼はこういう事に慣れてないんだ。私から説明する。」



 横を見るとウィンディア男爵と見たことの無い貴族がいて、後ろには例のハゲた冒険者まで居た。


 ウィンディア男爵はエクシアが鉱山直通路の使用をお願いをした件を話し、それを伯爵が許可した事で皆が今此処にいる事を告げた。


 そして何より、後ろのハゲた冒険者がギルドマスターだと今知った。


 ギルマスは駆け出しの安全の為に、終日魔物が出そうな場所を見回りしていたらしく、そこに僕たちが遭遇していたようだった。


 これといって駆け出しの邪魔をするつもりはないので当時は自分の事を言い出さなかったらしい。


 そして伯爵にここに来たいと言い出したエクシアがギルドであった事を説明をして、僕は男爵と自己紹介をした。


 ちなみにメンバーは伯爵に聞かれないので既に自己紹介を終えているようだ。


 鉱山の戦闘については『救護見習いとして動いていた事』を回復師2名と薬師一名が証言する。


 戦場内の救護活動は足の折れた冒険者2名と、僕が薬を口に突っ込んだ冒険者に加え、最前線付近まで来て救護した事を細かく説明したのがシャインだった。



 高級ポーションで回復して助けた事に、その直後デビルイーターの腕をふっ飛ばしたこと。



 伯爵はそのことを執拗に質問していたが、僕は他の話に持って行きたかったので周りをちらちら伺うことしかできなかった。



 腕の事を聴いた伯爵は目を剥き出しびっくりしていたが、それより酷い状況を魔法契約を結んだ事で知り得た男爵は顔色一つ変えず……逆に何故か『ソワソワ』し始めた。



 僕がテイラーの奥さんを送り出した後の事は、なんと詳しく説明できるのがテイラーなので彼が証言してくれた……なんか凄く申し訳ない……。



 内容は当然、右手の破壊に尻尾の切断そして逆鱗を砕いた等基本的には部位破壊の事がメインだった理由は貴族二人が質問の嵐だったからだが、その後は戦闘補助で活躍した事………但し、話の間は僕がやった各種魔法に関してはうまく濁してくれた。



 説明が終わるあたりで戦場で見た事もない輩が話に割って入ってきた……そのせいで状況は一変する。



「テイラー!我らがあのジュエルイーターの攻撃を耐えたお陰で、お前達に活路を与えた事を忘れてはいないか?我が騎士団のことを伯爵様へ何故一言も言わないのだ?」




「お言葉ですが、ムノウン家ヤクタ男爵が騎士ターズ殿あなたは開戦時の1時進のみ『1番後ろに』居た限り、戦場には顔を出してませんが?我々冒険者の為にいったい何の攻撃を耐えたのですか?」



「我が主人が領地の市民兵を前線に送ったでは無いか!我が領土の尊い民の命を持ってお前達を救ったのだぞ?それが活路と言わず何という!」



「貴方は!騎士のくせに領民を盾に後ろで縮こまり、その領民を見殺しにしただけでは無いですか!彼等が居なくなった後は一度として戦場に戻ってこなかった!何度要請しても『市民兵』を失った事を言い訳に、現在に至るまで陣営から一歩も出てこなった事は何と言い訳しますか!」



「彼等の殆どは重症を追い、これからもまともに働く事さえ出来ないでしょう!貴方は本当に見ていてんですか!?あの阿鼻叫喚の地獄絵図を!皆が泣き叫びながら四肢が千切れ飛ぶ姿を!」



「満足な装備さえ持たない市民兵を巨獣の最前線に送るなど!周りで大怪我を負い死んでいく市民兵を見て……冒険者が所以も無い市民兵を守る為に何人この世を去った事か!仲間が死んだその結果、恐怖が伝播し冒険者の指揮が下がり立て直すのにどれだけ苦労したか!」



「な…何を!我が領地の市民兵が命を投げ打ったからこそ、お前達の指揮が上がったのだ!これだから戦闘の素人は!力なき者が最前線で戦う姿が周りの冒険者の指揮を結果的に上げるのだ!」



「自分の生命を投げうってまでそこにいる事で、お前達冒険者が『守ろう』と言う気になり、最終的には自分の知らない力を発揮できる様にしたのでは無いか!だから冒険者は守ろうとしたのだろう市民兵を!」



「騎士団が居なければこの状況などなり得ないのだ!お前達だけではあの攻撃何度も受けられないだろう!お前達の軟弱な装備である盾交換で活躍したのはそれこそ『騎士団』では無いか!?違うか!」



 この貴族お抱えの騎士団長は本当に無能だと思った。



 そもそも持っている実力以上など自分より遥かに脅威な巨大生物(魔物)相手に発揮できるわけはないのだから。


 持っている能力を70%も発揮できればそれこそ優秀だ。


 それも向こうは畏怖を発する化け物なのだ。周りが逃げ惑えば、恐怖が増すと考えないのだろうか?


 そもそもの話だが、人の命を大切にできない騎士が『騎士団』を名乗ってはいけない気もする……それ以前に自分の『主人』である『領地の領民』なのだから護ろうとは思わないのだろうか?



「そうか!我々と最前戦を代わってくれた者を報告して欲しいのですな?戦場で傷つき、共に戦い活路を与えてくれた騎士団を知りたいならばこの領地の伯爵様にこの場で報告させて頂こう!」


「ヘイル家ストーム男爵の騎士団長ミザリー様とその騎士団に、ウォール家デモート男爵の騎士団長マルフォイ様と魔術騎士団に市民兵、ヤーバトン家ハラグロ男爵!とその騎士団!そしてクリスタルレイク家の騎士団長テロル様とその騎士団に市民兵達だ!まだ居るぞ全部申し上げた方が良いか!!」



「それ以外は私達最前線で戦う冒険者は『周辺の無能な騎士団』を救助や救護をしても、一切世話になどなっていない!寧ろ『邪魔』だ!無駄に殆どの資材を使い果たし、貴様らを頭数に入れた戦略のせいで今までの全てを無駄にする所だった!それさえ騎士団なのにわからないのか!」



 この報告を受けたウィンディア男爵は鼻が高かっただろう。


 報告が上がったハラグロ男爵は名前の割に凄く良い人っぽい……自らがこの戦場に出陣しているらしい。


 後で聞いた話だが歩く要塞と異名を持つ貴族で、領民思いの凄い当主だそうだ。僕達的には名前からして「ハラグロ男爵」なんて悪そうだが……


 なのでこの男爵は一歳市民兵を連れて来ていない。


 寧ろ他の騎士団より装備が充実しているそうで、そのハイスペックな騎士団の装備で敵を蹴散らし押し通る感じなのだろう。



 しかし、逆にムノウン家の騎士ダースとその騎士団や此処に集まった『腐敗貴族』の騎士団長達は、領主であるザムド伯爵の目前で大恥をかかされた。



 この報告で伯爵は当然、この戦場の功労者や戦場報告の詳細を細部に至るまで調べる事になるだろう……民は領地にとって宝と考える領主だから尚更の事だ。



 しかしながら腐敗貴族の領土についての口出しや、領民の運用についてはジェムズマインの鉱山を収める領主と言えども口を挟めない。



 結局は伯爵は、鉱山奪還のために派遣『させた』側だから腐敗貴族からは『兵を派遣した上でそこから先は文句を言われる筋合いは無い』と言われるのは決定事項だ。



 彼等各貴族に属する『騎士団』はこの救護者テントの脇に幾つかの貴族で寄り集まり陣営を築いていた。



 各貴族に召し抱えられている騎士団や兵士そして市民兵であり、ジュエルイーター討伐の為に自分の領主から強制的にこの地に派遣されていた。



 しかし今此処でものを申してきた彼等は、腐敗貴族の騎士団でありそれ以外の騎士団は、彼等とは別に集まり陣営を築いていた。



 大きな歓声を聞きつけた兵士からの報告で、勝利を確信した『腐敗貴族の騎士団長達』は貴族の身分を使い『討伐部位の接収』の為に陣営から出てきたのだ。



 勿論『接収』含めて自分の領主から指示を受け、此処に来ていた事は間違いないのだが……。



 ウィンディアや、話に出たヘイル家の『騎士団』と『領民兵士』などが何故、今この場に来ないかと言うとこの『ダメ貴族』の騎士団が働かない分『彼等が替わりに戦場』に出ることになったからだった。

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