第112話「突然のお食事会……餌付けされる娘達」


 今日の朝からローリィとエイミィはこの話をしていたので2人は目の前のお弁当に釘付けだ…それもお店では提供していない『大盛り弁当』だった…器から肉がはみ出て芳しい匂いが漂っている。



 因みにこの弁当を今から買いにタバサは店に行く予定なのだ。



 横を見るとボロボロ泣きながら弁当を眺めるタバサがいた…小さな声で「うう…羨ましい…大盛りお弁当お店にないやつだ…」と漏らしている…今から買えば良いだけだ…折角お金が入ったんだ2個ぐらい買っても良いのではないだろうか?周りが許せばだが…



 それを見たローリィとエイミィは同じ様に泣き始める…「うう…今日の朝の部で買えなかったお弁当だ…」「それにアレは…大盛りお弁当で…お店にないやつだ…ううう…」…と2人が漏らしはじめる。


 どうやら買いに行ったが間に合わなかった様だ…エイミィの考えはタバサと似ているらしい…見るところが大盛りお弁当という部分が特に…。



 今度はそのローリィとエイミィが漏らした言葉に過剰反応するタバサ…。



「えええええ!売り切れたんですか!お弁当!…うううう…絶望だ…」



「当たり前じゃない!朝から並ばないと食べれないわよ…今の時間に行こうとしたの?絶対に買えないわよ!今日はもう…」



 つい気になって聞いてしまった…「何でですか?」…と…まさか半ギレで返されるとは…



「朝に買えなかった人が既に通しで並んでるもの!…朝限定50食で昼も50食で夜も限定50食よ!」



「「「ううううううう…食べたいぃ〜」」」



 エクシアと僕とユイナはそっと3人に1個ずつ渡すと、彼女達は泣き止まずに今度は嬉し泣きで僕達3人はもっと困った…。



 ひとまずお茶を淹れてもらって皆で食事タイムにする事にした。




「むぐむぐむぐ…そう言えばさ、旋風の4人は泊まるところどうすんのさ?其方の2人はヒロと同じ宿だろう?…んぐんぐ…ぷっはー!この肉はエールに合わせると最高だね!」



「そうですね!僕と同じ宿屋です。お二人は今日同じように料金払っているので同じ宿で宿泊ですよ、朝一緒に居たので。」



「むしゃむしゃ…コレうめぇな!泣く程人気な訳だ!俺らは男爵別邸で厄介になってるんだ。一応メンバー増えたって言いに行くけど、連合討伐戦の後次第もあるからな…彼女達次第で男爵別邸の部屋を増やしてもらう必要があるが…どうすっか?…チラ」



「ハムハムハムハム…ごくごく…ハムハムハムハム…」



「ちょっ!ローリィさん!エイミィさん!聞いてるよ…ボソボソ」



「えっ!ああ!ヒロさん有難う…夢のような美味しさでつい夢中に!連合討伐戦の後もできれば一緒に行動したいです。それで旋風の皆さんはどこに泊まってるんですか?」



「「「「「え?」」」」」



「と…取り敢えずご飯食べるかね…コッチの小動物化しているタバサも心ここに在らずで食べ進めてるしね!」



「ハムハムハムハム…ハムハムハムハム…ハムハムハムハム」



「…タバサちゃんこっちの手をつけていないお肉半分いるかい?」



「食べます!!!」



「サブマスターどうした?腹一杯か?」



「タバサちゃんがギルド入ってくれるなら…肉の一つや二つ!タバサちゃん…少し手をつけちゃったけどコッチのお肉もいるかい?ちなみにギルドも入るかい?」



「肉食べます!ギルドも食べます!」




 タバサは見事にサブマスターに餌付けされたらしい…でもギルドは食べないで欲しい。



「ふわぁぁぁ…ザッハさん有難う御座います。お腹いっぱいです!今日は売ってないと聴いた時はもう絶望しか無かったです。」



「はっはっは!タバサさんは気持ち良い位に美味しそうに食べますね!銅級冒険者になってファイアフォックスに居ればあのお店のビラッツさんとは懇意にできますよ!何せビラッツさんの知恵袋であるヒロさんが此処に入る予定ですからね!」



 サブマスターのザッハは、弁当に入ってた肉を殆どタバサの弁当箱に入れていた…何がなんでもタバサを囲いたいのが見え見えだった。



 しかしそれは仕方のない事で、冒険者の命を救える薬師と回復師の囲い込みは各ギルドが行う常套手段だからだ。



 そもそも目的の回復系スキルを持っていることを調べるのが困難なだけに、ギルドマスターやサブマスターの地位の者はその情報を知り得たらその場で判断して動かなければ勧誘の機会などすぐに失う。



 なのでローリィやエイミィの様に、何か特別な理由がない限り他人へ自分のスキルを相手に教えることは無い。



 今回は運良く、2人の価値が分からない経験の少ない冒険者やギルドメンバーに引き合わされた為に運良く機会が回ってきた。



 機会に恵まれたファイアフォックスにしてみれば、いつ使い手が加入するかわからないスキルだけに、彼女達が求める連合討伐戦参加の機会を渡しギルド加入の可能性を増やしたわけだ。



 更にパーティーの紹介をしてその仲間が全員銀級冒険者となれば彼女達の心証も悪気ないだろうし、その先にも繋がるかも…とエクシアの悪巧みだ。



 それに万が一にも彼女達の問題点があれば討伐戦の時に銀級冒険者の4人がちゃんと見てくれるだろう。



 タバサの一言を利用して彼女達も食事会に誘ったわけだが、彼女達を仲間に誘いたい4人組はそれぞれに弁当の肉をコレでもか…と移し替えたお陰で彼らの距離は一気に縮まった様だ。



 はじめは緊張して食べていた4人も今は、冗談を言いながら食事をしてローリィとエイミィの気を引いていて、2人も楽しそうに話している様は今日出会った様には見えない。




「頑張って私も銅級冒険者になります!早く街営ギルドの大部屋を卒業しないと!」



「なんだって?タバサは広間組か!まぁ村から出てきたって言うなら、町外れの相部屋かギルド施設が妥当って言えば妥当なんだもんな。」



「懐かしいな〜アタシもロックバード出てから一年ぐらい世話になったからな!あの頃は薬草欲しさに集めまくってたらオーク娘言われてたな〜懐かしい!」



「懐かしいなぁエクシア!お前の採集に毎回付き合ったばかりに、お互いオーク呼ばわりでオーク夫婦言われてたな!」



「だなぁ!そうだ。言い忘れてた!」


「今じゃアイツらゴロツキになってたよ!この間アタシがさスラムでスリ捕まえたら、集団でやってた馬鹿共でね。リーダーがまさかの当時威張ってたターカの奴だったんだよ!お互いの違いには笑えるね!」



「えっ!エクシアさんもザッハさんもオークと呼ばれてたのですか!」



「『も』って、なんだい?…まさかタバサもかい?」



 僕は今日起きた一部始終をエクシアに話すと、一番怒ったのは何故かザッハだった。



「ザッハ!うちの2階相部屋空いてなかったか?どうせ入るなら今から使わせたらどうだい?今日の宿代はギルドの施設代に付けときな。自立出来るまではファイアフォックスのサブマスからのサービスって事でどうだ?財経担当さん?」



「今でもオークなんて言っている馬鹿がいるとはな…俺がそいつらに目にモノ見せてやる!万が一空いてなくても部屋は今すぐ作るさ…ロズを追い出してでもな!」



「冗談だって分かっていても酷いっすよ!サブマス!久々に爆撃のザッハ登場すね。」



「でも、銀級ギルドが初級冒険者宿泊させてそれがオークと呼んでいた娘なら…明日以降が楽しみっす!皆で初心者受付行ってタバサから軟膏買おう!面白い見せ物になるっすよ!」



 当人のロズは脳筋のため楽しんでいる様だ…万が一にも本当に追い出されたらどうするのだろうか…。




「よし!なら今日からここに泊まりな!明日にでもソイツらギャフンと言わせてやろうじゃないかい!」




「ふえぇぇぇぇぇ!良いんですか?見習いですよ?私…軟膏と傷薬と回復薬だけしか取り柄ないんですよ?」



「まぁその薬関係を作れる事が一番すごいんだがね…ザッハ部屋の用意よろしくな!」



「マスター任せとけ!飯が終わったら今日の清掃担当に指示して何時でも寝られる様にしておくさ!」



「あ!有難う御座います!1日でも早く銅級に上がれる様に頑張ります!」



 ファイアフォックスのギルドには相部屋になるが幾つかの部屋に二段ベッドを入れ込んだ部屋を作っていた様で、サブマスターはその一つの部屋をタバサにあてがった。

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