第92話「男爵夫妻異世界料理に悶絶からの大撃沈」
「ありがとうエクシアさん!じゃあコレを洗ってからすりおろします。良くみていてね。」
「コレも肉300gに対して大さじ2…大さじのスプーンが結構雑ね…木製のスプーンだけど大きさが統一じゃないわね…この位っていえばわかるかしら?」
そう言って、目測で15gを測る…小分けの容器に寸分違わず入れていく。
「すりおろすのと目分量の計量は慣れるまで大変だけど、感覚でしっかり覚えれば外でも使えるから頑張って!因みに魚醤の量はコレね」
「成程!調味料の測る量を大きさのスプーンを揃えれば全部一緒になるって事ですね!明日同じ大きさのスプーンを必要数買ってこよう!」
「支配人さん。このお店の一人当たりのお肉の提供量は何グラムですか?私は300gずつ作るのが楽なので盛り付けはそちらにお任せしたいのです。」
「盛り付け担当は私です!任せてください!」
どうやらこの世界では計量は結構曖昧で担当がそれを管理しているようだった。
結菜は300gずつきっちり作り出していくようだ…支配人に聞いた筈だが何故か結菜は此処にいるメンバーの料理長の位置にいるらしく皆指示をテキパキとこなしていく。
「自分は焼き担当です!指示してもらえてば焼きは自分がやります。」
「じゃあ、隣で見てて。焼き加減はこんな感じでお肉に火が通りすぎないように気をつけてね、此処まで火が通ったらタレを絡ませて全体に程よく熱が通り味が絡まったら完成。んで全部を皿に移す。コレはロズさんの分ね彼毎度この量食べるから。」
「じゃあ!配膳担当の僕が持っていきます!」
「ちょ!待って、皿周りに油がついてるでしょう?そのまま出さないでちゃんと油がついている部分は拭きなさい!食べる人の指を汚すでしょう?」
そう言って結菜は一通り、生姜焼きの工程を教える…これは正直1人で作れる工程なのだが暇そうだったので皆に手伝わせたようだ…厨房から漏れ出す生姜と醤油の絶妙な匂いに男爵も堪らず顔を出していた。
問題は、換気窓から漏れ出た生姜焼きの匂いだ…周りに立ち込めて通りを行く人の足を止める。
「なんだよ…このすごい良い匂いは!…くんかくんか…この店じゃないか?お!踊るホーンラビット亭!また何か作ったのか新メニュー!」
「くんかくんか…珍しく今日は店に人が並んでないのね!これは予約キャンセルでもあったのかしら!行ってみましょう!」
「ちょっと吠えるウルフ亭に行く予定だったけど考え直さないか?踊るホーンラビット亭で持ち帰りにして公園で一杯飲みながら食べるのはどうだ?」
排煙窓から漏れ出た生姜焼きの匂いは通りを歩く空腹の冒険者や街民に猛烈に響いたようで、店の前はすごい人だかりであった。
「オイ!ロズ!エールのツマミにしてはそれ多くないか?私に少し寄越せよ」
「これはショーガヤキ頼んで、その後追加で柔らか焼きも頼んだんですよ!ひろのところに行ったら、味変とか言ってやってたんですよ!両方楽しめて、最後に残った生姜肉汁に柔らか焼き絡ませると程よい旨味が最高なんです!あげませんよ!自分で頼んでください!」
「そうなのか!ロズと言ったな!でかしたぞ!良いことを聞いた」
「もぐもぐ…美味いぞ!なんだこのショウガヤキなる物は!…もぐもぐ!支配人!ショウガヤキお代わりにホーンラビット柔らか焼も追加で!」
「パクパク…おいひーでふ…今日のお肉は前に食べたのよりもっと柔らかい…パクパク」
「「おいし〜ショウガヤキ〜」」
「はい!御令嬢様、我が店のお肉は熟すまでちゃんと管理していますので、柔らかく一番美味しい状態で提供させていただいてます。」
「レイカは旅の最中毎日こんなもの食べてたのかい!元気になる訳だわ!…ハムハム…もぐもぐ」
「はいお母様…ハムハム…でもいつもはフォレストウルフと言う…もぐもぐ…お肉を使って頂いてました…ハムハム…うさぎよりウルフの方が出会う確率が高かったのです…ハムハム…」
「もぐもぐ…それとずっとでは無いですよ?帰りの数日間だけです…たった数日で結菜さんは私の体調を見抜いて食事療法なるもので良くしてくれたのです。ハムハムハムハム…」
「レイカさん…そんなに食べて平気なのですか?」
「はい!男爵夫人様…結菜さんの受け売りですが、成人女性と言うのは必要な栄養が決まっていて、その為1日食べる量が決まっておりタンパクシツと言うものをちゃんと取るためにお肉を食べると良いそうです!ですが脂身の部分は適量にした方が良いのだそうです。」
「ならば私もお代わりしようかしら?」
「「「オカワリータンパクシツ!オカワリー」」」
「男爵夫妻にショウガヤキお代わりと『ホーンラビット柔らか焼き』を!」
「御令嬢様3人にショウガヤキ中盛りお代わりに、夫人とレイカ嬢様にショウガヤキと『ホーンラビット柔らか焼き』の中盛りセット焼きを!」
「ハイ!生姜2柔らか2入りましたーハイ!声出すー。次に中盛り入るよー準備して!」
「はい!生姜2〜柔らか2〜終わってますー」
「さっきの追加柔らか2肉切り準備完了!生姜タレ準備して〜」
「中盛り肉準備急いでー!」
「中盛り了解しましたー!」
結菜の総監督の元現代風にアレンジされた厨房はまさに戦場だった…
全員が声出し確認をして、肉のバトンを繋いでいく…肉切り係が肉を切り、筋切り係が筋を落とす、肉の調理係が叩いて肉の状態を良くしている間に、本当の料理長がする指示の元、すりおろし係がひたすらにすりおろす。
そしてそれを引き継いだタレ係が調味料を300g用に小分けして仕上げていく。
全部ができた時初めて焼き係が焼いて、皿係にフライパンをバトンする…綺麗に盛り付け皿を拭き提供に至る。
活気の満ちた厨房の声が響いて耳に心地良い…それを感じ取った支配人ビラッツのやる気もみなぎっている様だ。
はじめは結菜も混じり確認していたが、料理長が…
「お客様でいらしたのに何から何まで申し訳ない!有名店になり…慢心していた自分が情けない…こんな美味い肉を調理できる冒険者が居たとは!自分たちもこれから精進していきます!」
「此処からは心を入れ替えた私が料理長として頑張ります!どうぞ!今日は食事をお楽しみ下さい!」
と言われて、結菜は自分の席に戻ってきた…。
「なんか現代の厨房のノリだけど…やりすぎちゃった…てへ」
結菜はスパルタで教え込んで、皆も料理人の厳しさを見直したようだ…ちなみに僕等5人を除く全員が肉を食べることに無中になっている。
因みに『ホーンラビット柔らか焼き』と名称が決まった理由は名前がないのでおかわりの時に僕がそう言ったら皆同じ様に言う様になり、ビラッツがそれを採用したいと言ってきたのでそう決まった…今後は『ホーンラビット柔らか焼き』で統一するらしい。
僕は渡した5本の生姜の他に追加で5本渡しておいた…クローク内にはまだ山盛り生姜があるが知れるとこの店に全部取られそうな勢いなので黙ってる事にした。
あの魔の森の生姜群生地意以外にも探した方が良さそうだ…。
そうこうしていると、入り口から店の中を覗く人だかりが多くなりすぎて、流石に気になった店員がビラッツに店前の現状を伝えると、僕らに会釈してから慌てて店の前に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。