第91話「異世界料理人に完全勝利の結菜さん」

しかし、そのロズの言葉を聴き過敏になっていたビラッツは…



「成程!貴女はファイアフォックスの食事番なのですね!だからこの店の味を覚える為にご一緒になられたと!我が踊るホーンラビット亭の作る料理類はそんじゃそこらの料理人には真似はできませんよ?長い年月試行錯誤した調理工程の賜物ですので!」



「男爵様の御令嬢様方が食したがっているショウガヤキという物のレシピを教えて頂ければ、貴女よりおいしく仕上げて見せましょう!なので是非どの様な調理レシピかお教え願えますかな?」



 若干だが言葉には嫌味が混じっていたが、それを聞いた結菜は淡々と話し始める。



「この肉の下処理は見事ですね!まず柔らかくする下処理で肉を丁寧に叩いていますね…そしてちゃんと味が染み込む様に寝かしてます…ただ筋切りが完璧では無いのでコレはダメですねちゃんとした調理工程を分けるべきです。叩く、切るを。」


「次に肉が硬くなる理由ですが、先程言った筋組織が関係している為と、ダンパク質の結合によるよる効果です。」


「なのでこの調理に使われているのは調理素材に使われているこのキノコ類ですね…この周辺のキノコの種類には私は詳しく無いのですがある特殊な酵素を持つキノコを用いて柔らかくしているはずです。」


「ハチミツがあればもっと美味しくなったのですが…残念です。」



 見事に食材を言い当ててしまったのか…ビラッツは目を白黒させて動揺が隠せないでいる。



「あと生姜焼きのレシピですが各肉種類300gに対して、タレはすりおろしたコボルドジンジャーを大さじ2、魚醤を大さじ2、砂糖大さじ1、酒大さじ1です、お肉がこんがり焼き目色がついたら、タレを混ぜ合わせた物を投入して全体に馴染ませ味を絡めます。」



「な!成程…流石ファイアフォックスのお食事番ですな!一度食しただけで言い当てるとは!し…舌が肥えていて、う…腕…腕も我々に劣りませんな!ですが、コボルドジンジャーなど!魔物が使う呪い道具や、魔導士の魔法触媒ではないですか!」



「それを食事に使うなど!身体に万が一があって駄目では無いですかな!ウルフの件もそうですが、魔物を食材にするなど!オークの様な豚とは違うんですから!」




 僕はつい自分の見つけたコボルドジンジャーについて話してしまう。



「あ!コボルドジンジャーは食用ですよ?もし不安だったらマッコリーニさんから鑑定スクロール買って貰って確かめれば良いと思います。」



「あれは茎根の部分が地中で伸びて葉の部分が上に伸びるんですよ!だから上手く育てれば沢山収穫できるはずですし、それに生姜茶も有名ですよ?身体が冷えた時などにかなり有用ですし。」



「何より多年草なので、土壌さえ気をつければ良い食材ですしね。」



「そ!そうでしたか…此方の方は全員調理番で御座いましたか!いやはや…確かに上級ギルドにはパーティーに調理番を置くことはよく知れた事ですしな!」



「流石エクシア殿!先を見据えて今から優秀な方を育てているのですな!お知り合いになれて大変幸せです!コボルドジンジャー…鑑定スクロールで食用を…素晴らしい!成程…その技術私も覚えましたよ!」



 どうやら僕の一言で僕達を調理番と考えた様だった…マッコリーニが予め手を打って踊るホーンラビット亭が魔法契約を済ませている事を知らない僕達なのでこの様な会話になったのだ。



「いやはや…申し訳ないビラッツ!この方々は料理番じゃ無いのです…」



「えー皆様、何と言いますか…う〜む…何から説明を…。」



「説明が遅くなりましたが、今此処にいらっしゃる店の者含めて全員『同じ魔法契約』を交わしてある人のみしかおりません。」



「同じ魔法陣契約を交わしていますので罰則適用はありません…ですので、此処で見聞きした事は…内容によりますが他で口外せず今夜だけの秘密にして頂ければ大丈夫です。」



「契約内容はこの5名のスキルや使用する魔法の類を絶対に口外しない事なので、『料理を誰が作ったか』『食事のレシピを聴いたこと』等はそれには含まれません…例えば結菜さんが美味しいご飯を作られるという事を周辺に漏らしても罰則はありません。」



「万が一、結菜さんが『調理スキル』を持っていたら、『結菜さんが調理スキルを持っている』と言った場合は適用されます。ですので『美味しい料理を作れる』のと『調理スキルを持っている』の意味は魔法契約に至っては全く異なるのです。」



「ですので、街中で会った時に『美味しいウルフのショウガヤキを焼いてください!』と仮に言ってもそれは『彼女が美味しい料理が作れる』と言っているだけになるので、魔法契約にはなんの関連も無いのです。」



「ただ念の為に言っておきますが、街中で『この5人の話をする事』は魔法契約を結んだ管理人として勧めません…誤って話す事があるからでそれが誰かに聞かれる心配もあります。その点だけはご注意下さい。」



「なんだい!マッコリーニ!それを早く言いなよ!奥さんの件は聞いたが、店の者に知られちゃ不味いとハラハラしてたよ!」



「うむ!我も娘達が肉を食したいと言い出したから焦ったぞ!奥方の事は我が家で聴いたから心配は無かったが…いやはや」



「そうですね…私も娘達が急にショウガヤキなど言い始めるので心配でなりませんでした。」



「ごめんなさいお母様!お料理が美味しかったので!つい思い出してしまって、あれはこの街で食べれる物だと思ってしまって…エクシア様のお家で結菜さんに作った貰ったので…」



「「お母様ごめんなさいー」」



「男爵夫妻様…うちの馬鹿亭主が!申し訳ない事を、…普段は些細な事にも気が付き誇らしいのですが、今日は男爵一家様に目の前ともあり少々舞い上がった様に御座います。(土下座)」



 その空気を変えるべく結菜が一肌脱ぐことにしたようだ。




「しょうが無いね〜じゃあオネェちゃんがリクエストの生姜焼きいっちょ作ろうか!支配人さんすいませんが調理台と食材使ってもいいですか?」




 そう言った結菜の言葉に、円卓の女性陣とロズとベロニカから歓声が上がる…どうやらベロニカも酔っているようだった。



「生姜なだけに生姜無い…ダジャレか!」



「おい…そうま…3枚に下ろされたいか?手伝ってくれても良いんですが?」



 そう言ってそうまのくだらない話を雑にあしらい、笑いながら厨房に向かい調理を始める。



 はじめはアウェイ感が半端ない厨房だったが、男爵一家の手前不満も言えない料理人達は誰も手伝わずに遠巻きから見ていたが、手慣れた感じでどんどん肉の処理をする結菜の様に一歩一歩近づき技を盗もうと懸命になる。



「あんた達…暇なら手伝いな!男爵家の御令嬢が気にいる調理法知らないで良いなら話は別だし…自分の知らない調理法知らないで良いってんなら…あれ?それってさ…本当に料理人なのかね?」



「エールのお代わり貰えるかい?ビラッツさん」



 覗きに来たエクシアの何気ない一言で、調理人は我にかえり調理の指示を聴き始める肉の準備係達。



「「「自分たちに指示を!」」」



「じゃあ暇な人は私が小分けする300gの肉の筋切りお願いします…筋をちゃんと切る事で肉の良し悪しが決まります。全部で40人前は作らないと…お酒のつまみもあるし、メインの一品で食べたい人もいるでしょう。」



「あとは、あなた達の自慢の肉料理のお代わりもあるのは忘れていないでしょうね?」



「筋切り終えたら念入りに叩いて柔らかくしてください、でも叩きすぎないで…適度にね!肉の本来の持つ弾力まで殺さないように!」



「食材のタレ担当は誰?」



「自分です!」



「なら、向こうの円卓に座っているひろって奴がいるからコボルドジンジャー5本貰ってきて。」



「ははは…結菜〜良いよあたしが貰ってくるよ!」



「じゃあタレ担当は、その間に魚醤に砂糖、酒を用意してくれるかな?300gの肉に対して魚醤は大さじ2、酒と砂糖は大さじ1きっかりね!」



 そう言ってエクシアが僕の所に生姜を貰いに来る…すると気になって仕方なかった女性陣はエクシアの後ろについて行き厨房を覗く…調理法が気になる夫人両名と、早く食べたい腹ペコ怪獣4人だ…怪獣は当然3人娘とレイカだ。

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