第84話「歯磨きは大事……知らない飴ちゃんに母親…悶絶」

貴族の馬車も万が一魔物に出会った時のために荷馬車に合わせて一緒に来た様で、荷馬車の少し後ろを貴族馬車が走っていたが今漸く目の前に到着する。


 僕は男爵邸の前ともあり粗相がないので、兵士が馬車のドアを開けるまで待っていたが3人娘ちゃんが自分から開けてくれた。


「「「ひろ様〜約束を守ってくださって!有難う御座います!」」」


 そう言って頭を下げる3人娘はとても可愛らしかった。


 3人は僕が渡した飴ちゃんを持って来て来ていた、3人も食べ盛りの幼児が居るのだ中身は完全に無くなっていると思っていたが、たいして減っていなかった。


「あれ?これいっぱい食べて平気なのに遠慮しちゃった?」


「お父様とお母様が前に…飴はすごい高価な品で貴族でもたまにしか食べられないので一辺にたくさん食べては行けません!って言われたので…美味しいけど我慢しました!あと、ちゃんと歯も磨きました!」


「「偉いでしょう?お母様のお約束守ったの!ひろ様のお約束も守ったの!」」



 さすが双子だ言うことがハモっている…長女っ子はちゃんとした教育が行き届いているのか偉い子ちゃんだった。


「じゃあこれは約束を守ってくれた3人にお兄ちゃんからのプレゼント!怒られないように食べたらちゃんと歯を磨く約束を守ってね?」


 僕はそう言って鷲掴みにして子供達の両手いっぱいに山盛りにして渡す。小さい手だから僕の鷲掴み程度でもスカートの上に落ちてしまう位にいっぱいだ。


 3人とも喜んで馬車の座席に一度置いて自分のポケットに一生懸命貰った飴を詰め込んでいた…意外にポケット小さいせいでパンパンだった。


 避難中の村人が男爵夫妻に知らせたのだろう…大声をあげながら門まで走ってくる…今までの一連を知っている村人は皆涙ぐんでいた。


「ああ!私の可愛い3人!無事に帰って来てくれた!本当に!本当に!よかった!」


 そう言って3人のことを抱きしめる夫人を子供ごとそっと抱きしめる男爵はすごく優しい良い領主だと感じた。


「お母様!お父様!私達はテロルの言いつけを守り良い子にしてました!でも村まで行けませんでした…怖い犬が邪魔をしたのです…いけなくてごめんなさい…」


「でも怖い犬はひろ様とテロルとこの3人が全部やっつけてくれました!馬車の中から見てました!凄く早く全部やっつけちゃったので、そんなに怖くなかったです!」


「そうか!そうか!無事で良かった。父が悪かった…馬鹿みたいな貴族の意地でお前達を水精霊様の清めの儀に行かせたせいで!大切なお前達を失うところだった!怖い目に合わせたな。」


「今度は水の精霊様にお礼に言いに行こう!焦らずに然るべき時にちゃんとした者達で、最高の護衛をつけて!父も一緒に行くからな!」


「お前達3人もよくやってくれた!テロルから聞いておるぞ!体中怪我だらけだったのに…身を挺して娘を守ってくれたと!我は良い配下を持った!我は恵まれている!本当に感謝しているぞ!」



 そう言って兵を労った後しっかり休む様に伝えて、男爵は3人の娘を大広間に連れて行く…3人娘っ子も両親に逢えたので凄く嬉しそうだ。


 無事再開を果たして安心したのか、父と母に目の前でもあるので3人共年相応の女の子になっている。


「お母様!喉が渇きました…ミルクを飲んで良いですか?」


「「私も飲みたい!」」


 長女の一言で、双子がポケットをゴソゴソし始めた…


「ええ!良いですよ?誰か!娘達にミルクを用意して下さい。」


「「お母様!『飴ちゃん』を食べても良いですか?」」


「ん?飴ですか?残念ですがこの間食べたので最後ですよ?また今度交易品が来た時に機会があったら買ってあげるからそれまでお待ちなさい?」


「あ!先程ひろさんとエクシアさんが言っていましたね!飴を頂いたと…どう致しましょう…お返しする為の飴は残念ですが当家には今は無いのです。貰っておいて申し訳ありませんがお返しは必ずしますので…」


「残念ですが今はお返しはでき無いので…そうですね…では!次手に入れる事が出来ましたらひろ殿にお返しと、お世話になったファイアフォックスにお渡しにいきましょう!それで良いでしょう?」


「お前達3人はこの2人が相当気に入ったのか!父と一緒だな!この2人はこれからも我がクリスタルレイク家と良好な関係を継続してくれると約束をしたから、飴は次手に入れたその時に御礼として渡そうな!お前達が優しい子に育ってくれて父は嬉しいぞ!」


 おおっと!ヤバい!口止めするの忘れた!…しかし既に遅い…3人共飴ちゃん手に持っていやがるで御座います!そして呼び方が移っていやがるでごぜーます!


「違うのです!ひろ様に沢山の『飴ちゃん』を貰ったのです!今まで見たことも無い凄く透き通っていて綺麗な、凄く美味しい『飴ちゃん』なのです!」


「「母様!父様!凄く美味しいの!食べても良いですか?」」


「飴ちゃん?もしかして嗜好品のあの貴重な飴を貰ったと言うのですか?あれは予約しても数カ月はかかるのですよ?」


 夫人が説明している時に3人とも色違いの飴を出しおった…多分自分が一番好きな味だったり、匂いだったり、色だったりするのだろう…それを見た夫人が口を開けてビックリしているが…ああ!長女っ子!アカン!口に入れちゃ!


「んっ!な!なんですか!コレは?見たことも無い綺麗な!コレが飴…ですか!アープが今口に入れたこの飴ちゃんという物は…凄く口に広がる芳醇な香り!ひろ殿は一体?貴方様は!どこの貴族様でいらっしゃいますか!!」


「ど!どうしたのだ?フロウ…それが飴な訳がなかろう!そのアープが今口に入れたものがそんなに美味ということか?たしかに見たことも無い物でまるで宝石に似ているが…」


「「これは飴じゃなく『飴ちゃん』なのです!お父様も食べて〜」」


 ハモリながらそう言って双子も飴ちゃんを男爵の口に放り込む…それも…双子が1個ずつ入れたから口の中には2個だ…青リンゴとリンゴ味だろう色からして…。


「ア!アナタ!一辺に2個も…抜け駆けでズルイです!」


「あ…え?…ああ…」


 あああ…若干男爵が可哀想なことになっている…不可抗力なのに…


 僕は夫人が食べていない種類の飴ちゃんをクロークから選んで取り出しそっと机の上を滑らせて夫人の目の前に滑らせる…因みに味はマスカット味だ…多分アープが手に持っていた色からグレープだろうさっきのは…。


 失礼極まりない行為だが…奥様に睨まれている男爵の為にも今はこれしか…座っている場所が近いのが幸いした!


 夫人は素早い手つきでそれを回収して包み紙を解き口に放り込む…


「あ…あの…砂糖を入れず紅茶飲みながら食べるともっと口がスッキリ良い感じに…」


「誰か!今すぐお紅茶を!お客様の分も併せて人数分用意を!」


 夫人の指示は早く…的確だ…僕が最後まで言う前にオーダーが入っていた…そしてエクシアは俯き木製の机の年輪を数え始めた…


 その後、僕は執事にお願いして小さなフルーツが置けるくらいの入れ物を3個用意してもらった…一言で言うと飴を入れる容器だ…。


 その上にクロークから飴ちゃんを適当に鷲掴みにして入れてそれぞれが手が届く場所に置く…ファイアフォックスのメンバーと男爵家とマッコリーニさんの皆で食べる『飴ちゃん』だ。


 男爵夫人はこの飴ちゃんの虜になった様だ…僕が「どうぞ」と勧めると初めこそ遠慮がちに食べ始めたが、今では食べてない味を他の器から探しながら娘達と「美味しいね〜飴ちゃん!」って言いながら食べている。


 娘三人は…母親に


「「「ちゃんと食べ終わったら虫歯を磨かないと!さとうをいっぱいつかっているから…うにゃにゃにゃにゃ」」」と言っている



 虫歯にならない様に歯を磨くんであって…虫歯を磨いても…もう遅いので一応訂正する。


「えーと砂糖いっぱいつかっているので、食べ終わって暫く何も食べないならば、虫歯になるのでちゃんと歯を磨いてくだだいね!ってことです。」


「「「はーい!」」」


 3人とも意味は分かっているらしい…夫人もニコニコしながら一緒に娘と手をあげていた…男爵は山程飴を食べている4人が申し訳ないんだろう…ひたすらに頭を下げていた。


 マッコリーニは食べるフリして上着のポッケにしまっている…食べ終わった様な仕草で包み紙ごと一切机に置かず上着のポケットに仕舞い込んでいるから…レイカちゃんへの土産だろう…ここに居る皆は見なかったことにしている…それが優しさだろう…。


 ただ…マッコリーニの上着のポケットはだんだんデカくなっているから皆が分かるんだ…3人娘が気付いて真似すると困るからそろそろやめてほしいな…



 まぁ僕的には量が減ってくれればある意味助かる…飴といえども賞味期限も消費期限もあるし、これが全部無くなってもまだ業務用1袋分200個あるのだから…。


 クロークは冷蔵庫じゃ無いから若干心配で…衛生面とか。

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