第83話「忘れられていた魔物の素材」
ベロニカは男爵の用意した馬に乗って急いでギルドに戻っていった。
男爵が普段乗る馬だけあってギルドで使う馬とは全然違う乗り心地だったらしい。
ギルドに居た異世界組3人も荷馬車で連れて来るのは契約の為だ、本人を見せないで男爵に契約を結ばせるわけにはいかないからだ。
エクシアは初めからこの流れを考えていたそうでギルドにはもう一台の荷馬車があるそうだ。
荷馬車を用意したのはマッコリーニだが何故か流石だ!と言っていた。
休憩中に輝きの旋風アルベイがマッコリーニに話しかけて来た。
マッコリーニの乗ってきた荷馬車を数時間借りたかった輝きの旋風は、話し合いが終わるまでわざわざ待っていたらしいが現在の貸し出し先はエクシアなので許可を貰いアルベイに貸す事になった。
マッコリーニにしてみれば、話に出て来た銀級冒険者達と知り合う良い機会だったので恩を売っておきたかったのだろう。
エクシアとしては荷馬車の1台は本当であればギルドの連合討伐戦の遠征準備に使いたかったので、異世界組が乗ってくる馬車と入れ替える予定だったが、仲間の仇であれば今はアルベイ達を優先してあげたかったのだろう。
アルベイは男爵とエクシアに魔の森で刑を実行する旨を伝えて、マッコリーニに礼を言い荷馬車にゲルゲを乗せて仲間と兵士とベンに彼を見張らせつつ魔の森に向かっていった。
ちなみにテロルは荷馬車には乗らず何かあっても素早く行動できる様に馬で行く事になった…他にもジャイアントマンティスがいるかも知れいない以上馬なのは当然だが、あの特別な個体は多分そうは見かけないはずだ。
闘ったのは実は特殊個体だとはまだエクシアには伝えられていない…今までのやり取りでそんな時間が無いのだから仕方ない。
荷馬車に載せられたゲルゲは最後まで悪態を吐いていたが、自業自得という物だ…大人しく勉強代だけで済ませればこんな大きな代償は払わずに済んでたかもしれない。
村に行っている間にアルベイとすれ違ってた可能性だってあったのだから。
しかし、それはそれでタンバが浮かばれないが…。
エクシアの合図で話し合いが再開して男爵夫妻も漸く集中し、魔法契約が皆と僕ら5人と結ばれる…契約対象は当初の人数より雛美の分が増えて5人になっている…これはエクシアの優しさだった。
魔法契約の書類は全部に僕と美香の名前を書く必要があり物凄く大変だった…この後結菜とそうまと雛美の紹介をした後、マッコリーニが魔法契約締結の締め括りをするらしい。
結構な時間がかかり無事に話し合いも終わり、僕は漸くジャイアントマンティスの事と詳細説明を伝える。
「な!なんだって…その能力で…そこまで判るのか!凄いな!鑑…ゴホ!ゴホ!あ!かん…かん…か!感知能力は!!そうそう!感知能力は!」
「空間感知ですよ…エクシアさん」
「そうだった!空間感知は!…ジャイアントマンティス…いやアイアン・ソー・マンティスだったな!…そうか腕凄かったもんな…あれ…」
「…蟲苦手なのに…特殊個体とか絶対無理だわ。分かってたら多分逃げてたなアタシ…知らないって得だわ…まぁ何もしてないけど…因みのあの腕もらって良い?」
どうやら個体がどうのより僕のスキルの方が気になった様だ…その後しみじみとヤバかった個体を思い出すと、ちょいブルってたエクシアだが…その後はしれっと腕を欲しがっていたので(どぞどぞ)という素振りをする。
これからエクシアのギルドで世話になるのだから、アレを使って良い武器でも作って貰えればと思った。
会話に興味が無いふりをして夫人と話していた男爵だが、討伐部位の話には流石に商人マッコリーニが食い付く前に!となり、すぐにエクシアに話しかける。
「所で!エクシア殿、テロルが言っていたのだが、『ジャイアントマンティス』の部位があるとか…なんとか…」
「あ!えっと…ジャイアントマンティスではなく…上位個体ですね!見た感じは同じなので見間違いしました…ハハハハハ…」
「いやいや!魔物の事は詳しくないので、構わぬ!『全く構わぬ!』それで、その魔物の部位を運ぶのではなかったかな?テロルの話では?この男爵邸宅まで?この際、魔物が運ばれて来てもビックリはしないぞ!『邸宅に運ばれて来ても』」
「な!なんですと!ジャイアントマンティスですと!その部位は!どのぐらいあるのですかな?」
「あ…すいません僕が下半身吹き飛ばしちゃったので上半身しかありません…」
「「「ぶ!か…下半身を吹き飛ばす!!」」」
うっかり僕が吹っ飛ばした事を言ったら、男爵夫妻とマッコリーニは違う意味でビックリしていた…夫妻は魔法の威力だろう…そしてマッコリーニはせっかくの素材だって事だろう…。
「す…すいません…ちゃんと残せずに…つい調子に乗って…」
「いやいや!我が領の民に何かがあってからでは遅いので助かった!本当に何から何まで…ファイアフォックスには世話になりっぱなしだな!下半身を…そうか…我が領の魔法使いでは何人居ればそれが出来る?フロウ?」
「ウィン…それは到底無理な話よ!火球でも通常種に穴を開けるのがやっとよ?吹き飛ばすなんて…ジャイアントマンティスよ?ソードマンティスやフォレストマンティスとは訳が違うわ!」
「ソードマンティスだったら上手く当てられれば…そうね…一斉射で5人…いや下半身よね…考えたことも無いわ…10人?は欲しいわね…吹き飛ばしたのよね?」
「そ…そうですね…」
「き…規格外なんですよ!コイツ!」
僕はエクシアにまたもや規格外宣言された…それがあったから見せる為に魔法使ったのに!しかし僕で驚いてもらっては困るのだ!水っ子の使う魔法の方が速いし威力は凄いのだ…規格外とはアレを言うのだ!見せてあげたい!と思ったがとてもでは無いが口には出せない。
「いや!今はその吹き飛ばし具合の話どころでは無いですよ!誰かに取られたらどうするんですか!ジャイアントマンティスの討伐部位ですよ?」
「複眼は頭部防具に!ゴーグルに!顔の部位はフェイスガードに!ヘルム!棘は矢の加工に使えます!大顎は打撃武器にナイフの材料、身体の部分はしなやかな軽鎧の素材に最適です!緑色ですから森で闘う際にハイドスキル持ちには最高な部材です!」
「それもマンティスじゃなく!ジャイアントマンティスですよ!!大きさが違うんです!」
「エクシアさん!男爵様!すぐに!すぐに行かねば!誰かにうっかり良い部位を取られたら…はぁぁぁぁぁ…」
そう言ったマッコリーニの一言で、男爵が目の色変えてすぐに部屋にいた執事に兵士2名と男爵邸に居たその村周辺の避難民にくる様に指示を出す…
「エクシア殿!この際だからはっきり申そう…是非!ジャイアントマンティスの討伐部位を譲っていただきたい!」
「だ!男爵様!で!では!私はその素材を基に各種装備を拵えますので!是非このマッコリーニめにご依頼を!」
「ならば!マッコリーニもエクシア殿にお願いせんか!持ち主はエクシア殿では無いか!其方に装備の制作費は払おう!素材が手に入ればだがな!」
「エ!エクシアさん!後生です!お譲りを!」
「いや…譲れも何も…ひろが倒したんだし…ひろのもんじゃ無いか…」
「「ひろ殿!!」」
「いや…アレは…ジャイアントマンティスじゃなくて、アイアン・ソー・マンティスで特殊個体ですよ。それにエクシアさんに依頼があって倒しただけで男爵邸に急ぐのにあそこで邪魔してただけだし、それに僕的には別に捨てて来た様な物だし。エクシアさんがそれで良ければ」
「「アイアン…?ソー?マンティス?」」
「アタシはさっき貰った腕の部位があるから…あとはテロルに丸投げで別に良いかなぁとか思ってたんだけどね…」
「ひろ殿!エクシア殿!では今その転がっていると言う魔物の遺体は我が領に頂けますかな!それで良いですかな?」
「良いんじゃ無いかい?寄付で…男爵が喜べばアンタが困ったとき助けてくれるかもしれないじゃ無いか!ひろ的にはその方が将来的にいいんじゃないか?」
「僕は別に構わないですよ?使わないし…あ!使えないしの間違いか!ははははは」
「兵よ!村民数名と共に直ちにフェムガ村に!荷馬車を持って行ってくるのだ!特殊個体の魔物!アイアン・ソー・マンティスの上半身があるはずだ!」
「誰かに奪われる前に!何としても持ち帰るのだ!」
娘が帰っていないが今は魔物の部位が優先なのだろうか?と心配になった。
男爵と夫人が巨大蟷螂の部位で何を作るかマッコリーニを交えて相談になっていたので、僕と美香とエクシアは兵に倒した場所を伝える為に一旦男爵邸から表門に出ることにした。
おおよその位置を兵士に教えると荷馬車が村に勢い良く向かって行った…それとほぼ同時に男爵の3人娘が荷馬車と貴族馬車で帰ってくる…ベンとベロニカが、慌てふためいて荷馬車が出ていく様を入れ違いで見たらしくとても心配していた。
「どうした?エクシア姉さん!ひろ!美香!何があった!また問題か!」
「あー…ある意味問題だな…ひろがまたやらかした…ジャイアントマンティスの特殊個体ぶっ倒して残った部位を全部男爵様にあげたら…あーなった」
「「当たり前だ!!」」
おかしい!そもそもは…規格外言われたから、魔法で倒したのに!何かがおかしい!因みに僕はその意見を飲み込んだ…大人だから…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。