第74話「焦る衛兵、悩むテロル……」

しかし周りを見渡すテロルは不思議なことに気がつく。



 この周辺には魔物の気配が一切ない…無いと言えるレベルの『無い』では無かった。



 いつも野営する時は、どことなく不安な感じを感じつつ…いつでも起きられる浅い眠りを保つテロルが不思議と安眠していた。



 それ処ろかマッコリーニ商団の周辺にいる冒険者も熟睡している…テロルが起きても誰も顔を上げないくらい寝ているのだ…そう…熟睡である。



 この事は野営交代していた冒険者も思ったらしく、朝の挨拶に行った時に不思議がっていた。



 そうしていると、朝日がようやく差し込み森で一番鳥が鳴き始める…どうやら森の生き物達も朝のようだ。




 朝飯前の一仕事といい冒険者の皆は馬車を泥濘から出してくれた。


 手伝ってもらい馬車を元通りにした騎士テロルは旅の資金から皆に幾らかお礼がしたかったが、番犬に持ち去られたのでそれも出来ないので皆に頭を下げて礼を言う。



 皆は騎士がお礼を言ったことに凄くビックリしていたが…確かに騎士爵位を持つ者が礼を言うことは珍しいので、ここにいた冒険者のテロルへの心象は良い様だ。



 朝食まで貰った冒険者はそれぞれに礼を言って去っていく…腹もいっぱいになり、いよいよ今日の冒険の開始だからだ。



 そしてマッコリーニ商団もファイアフォックスも旅立ちの準備を開始して、テロル達も街に向かって共に進んでいく。



 護衛がおらず兵士3人と騎士1人で御者の代わりに兵士が馬を操るため更に人手が減る…いくら街が近いとはいえ御令嬢もいるので絶対に無茶ができない。



 暫く荷馬車に合わせて進んでいたが、若干遠いがジェムズマインの街が見えてくる。


 この辺りであれば普通に馬車を走らせれば危険はないだろう…万が一森からウルフが出てきても、街の衛兵の守備範囲まで引きつければ勝手に逃げていくはずだから。



「街が見えましたね!それではテロル様!我々は荷馬車な為スピードが出せませんので、お気になさらずお進みください。普通に走らせてフォレストウルフが出ても、もう既にジェムズマインの守備圏内に入りますので。」




 テロルの逸るのだろう気持ちを見抜いたマッコリーニが話しかける。




「皆様方、この度は大変世話になりました…男爵にはこの事必ず申し伝えますので!それではお言葉に甘えお先に行かせて戴きましょう。」




 テロル達は皆に向けて軽く会釈して、ジェムズマインの街に向けて馬車を走らせる。



 馬車から3人娘が顔を出して手を振っていた。




 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー




 貴族門についたテロルを見て衛兵達は唖然とする…死んだはずの騎士が生きていれば当然だ。



 衛兵は何やら朝から大騒ぎしており、もう一般入場門が開かれていても良い時間だが開門されずに誰も通っていなかった。



 そうしていると…衛兵長もすぐに門までやってきて頭を下げる。



「申し訳ありません。話ではフォレストウルフに…と聞いていました、我々もすぐに出兵したかったのですが…今鉱山で連合討伐任務があり、兵がおりませんゆえ討伐隊及び救助隊を派遣できず…」


「領主様に嘆願し特別隊を編成するべく遺品を持ち帰る様に申し付けた冒険者も夜通し待っても一向に帰らず。向かった番犬の2人は戻ってこなっかった為…彼らもフォレストウルフに立ち向かったのかもと話していた次第です。」



「中に通した番犬のギルドマスターは直ちに男爵の元へ向かわせました。」



「仲間はギルドで準備してすぐに救出に向かうと言ったきり戻ってこないので、何度かギルドまで兵をやったのですが…誰も応対しないとのことで彼等なりに知り合いの冒険者を頼り討伐隊の編成をしているものと思い待っていましたが…」



「明け方も僅かになった頃また兵を向かわせたのですがギルドには誰もおらず…」



「しかし先程、番犬の構成メンバーの3人がこの街の男爵邸宅前に侵入を強行しようとして、守備兵に傷害事件を起こした為捕縛し致しました。」



「その際、『少々痛め付けて』何故この様な事をしたのか聴いたところ…襲撃目的で男爵様に近づいたことが分かりました。」



「3名は捕縛しており既に投獄してあります。」



「奴等の情報は酷く曖昧で何がどこまで真実か判らないので…各要所に兵を向かわせ、今数名の衛兵で戦闘のあった魔の森まで確認をしに行く準備をしていた所…お戻りに…」




 衛兵守備隊長がわかっている部分の頭を下げ謝罪しながら説明する…マッコリーニの予感は的中した。




「そうか…フォレストウルフ8頭に襲われたのは事実だ。そこにギルド、ファイアフォックスの魔導士様がいらしてくださり、8頭中6頭を瞬殺して頂いた。そのお陰で御令嬢は無事でお怪我も無く救出されました。」



「その様は凄いの一言だった。何の苦も無く歩きながら巨躯のウルフを2頭仕留め、ウルフの体躯などものともせず、続け様に3頭を。最後はわざと眉間を狙い敵が躱し我の前に着地することを見越して撃つあたりなど……魔術の極意を見せられた気分です…」



「それに魔導士様のおかげで、御令嬢の御三方は漆黒の闇も怖い思いもせず夜営も楽しまれ、今しがたまで我々を護衛をしてくださっていたのです。」




「な!何と!8頭中6頭を瞬殺ですか?何という!…あ!も…申し訳ございません…ご無事で何よりです!」



「いや!言いたい事は分かる…我も苦戦するフォレストウルフを最も簡単に倒すのだから…あなたがビックリするのも無理はない!」



「そうそう…もうじきその、ファイアフォックスのギルドマスターであるエクシア・フレンジャー殿とマッコリーニ商団のマッコリーニ殿が正面門にお付きになる。両人とも大変世話になったのでな…我主人ウィンディア男爵の名を持って決して無礼の無い様に!」



「あの魔道士のお方が居られるギルドですので決して粗相の無い様に…あの様な方にこの街を守って頂いているなら、討伐戦が終わるまでこの街など多少のことなら持ち堪えられるでしょうから!」



「「「私たちからもお願いします!決して粗末には扱わないで下さい!じゃ無いとお父様に言いつけます!」」」




「御令嬢様!衛兵長がしかと受け賜りました!この貴族門にて待たせず入場をして戴き、魔道士様には決して不愉快の無い様に致します。」




 この時点で彼等は『ファイアフォックスの魔導士』としか話さなかった為…ファイアフォックスの事をよく知る衛兵達のせいでゲオルは当分苦労することとなる…。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「お前達聴いたな!今我らが主人は窮地に陥っているはずだ、すぐに向かいたいが御令嬢がいる限り危険は冒せない…そこでだ、今暫く待てばファイアフォックスのギルドにエクシア殿が戻られるはずだ」



「事情を説明しご助力を願おうと思う。無理を承知で数人借りて我が矢面に立てば男爵様は大丈夫だろう」



「では、我々はお嬢様方を別邸へ案内してお守りします。」



「いや、先程衛兵長が言ってた様に既に番犬の襲撃があった……万が一を考えると別邸は危険だ。そこでファイアフォックスのギルドで一時的に匿って貰おうと思う。あそこであれば腕の立つ冒険者が揃っているしな。お前達も一緒であれば私も安心だ…」




「それでは、ここでエクシア殿が来るまでお待ちになられるのは如何でしょう?」



「いや…それはならんな…ここは人の目がある。男爵様の敵も通る場所だ今の状況を知られてはならぬ。それに何時迄もお嬢様達を馬車に留めておくのもな。まぁ冒険者ギルドに連れていくのもどうかとは思うのだが…エクシア殿が運営するギルドであればここよりは安全だ。」



「安全が図られているその間に、我が領主のもとの馳せ参じてお嬢様達を危険に晒したあのクズを成敗するのだ。」



「お嬢様を預けたお咎めと、ファイアフォックスのギルドへの礼は後ほど男爵様に私から言うので、お前達は心配するな。」



 そう言ってテロルの操る馬車は一路男爵邸からファイアフォックスのギルドに進路を変える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る