第47話「ヒナミ・前編」

僕はヒナミちゃんを放っておくことができなかった。


 同郷の好みもあった、同じ精霊契約を扱う同情もあった、しかし1番の理由は苦しみの果て10年…一人で放浪し続けて彼女の精神が無事なはずが無い…たまたま僕らに会えたのは偶然もあるだろう、しかしやはり励まし合う仲間が必要だと思ったのだ。



「エクシアさん…冒険者の二重登録って出来ますか?」


「は?なんだって?」


「いやー実は放って置けなくて…冒険者登録が二重でできれば〜ヒナミじゃなくて別名で登録すれば平気かな?とか…」



「冒険者登録はザルだからね…スネに傷あるやつも居るからそんなもんは横行してるよ…」



「いやー今から4人異世界人登録するから…5人でも平気かな?とか…」



「なるほど…行けなくない手だね!私もまさかの裏話を本人から聞いたからモヤモヤしてたんだよね!」



「でも残念ながら、無理だね…ヒナミは精霊使いで名前が知れ渡ってるし、生きてる限りいつかバレちまう…精霊使いはそうは居ないからね!死んでリセットでもすれば話は別だがね!その場合は完全リセットの生まれ変わりだから何処にいるかも分からないけどね。」



「万が一死んで蘇っても生憎うちは蘇り系のアンデットは討伐対象さ」



 そうまとエクシアが僕を見るが…エクシアは間髪入れずに



「お…おまえは!イレギュラーだ!」




 その言葉に何故か…ヒナミは僕を見る。




「あ!はじめまして…精霊使いです!」



 そう言って僕は水精霊の祭壇ブレスレットを見せるとヒナミは目を白黒させていた。



「ヒロさんと言いましたね…私なら大丈夫です!エクシアさんの言う通り、死んで一度やり直さない限りリセットできないんですよ。名前が有名になり過ぎて!」



「えっ?なら殺しちゃえば良いじゃ無いですか?ヒナミさん…」



「「「えっ?」」」



 まさかの3人声が被り。



「いや…ヒロ!同じ世界から来たのに!冗談にしてはブラックジョーク過ぎるだろう!ウケ狙って盛り上げても今は元気でないって!それに死んでやり直す方法なんかないだろう?いくら異世界でも、蘇ってもヒナミちゃんはヒナミちゃんだろ!」



「うふふふ…ヒロさんありがとうございます!大丈夫ですよ!こう見えて私強い子ですから!10年頑張って彷徨ったんだから!まだやれます!なんかヒロさんのおかげでちょっとやる気出たわ!同じ精霊使いとして!仲間ができたし!」



「え…本当に殺してしまうのは…どうかと思っただけなんです…」



「「…………」」



 二人の僕を見る目が虫を見るような目だ…しかしエクシアは僕を見た後にヒナミをまじまじと見ていた。



「………………って事は、こう言うことかい?彼女…事ヒナミを適当に殺して冒険者生命を終わらせる。そしてあんた達と一緒にゼロから登録よろしくって感じで、冒険者権限も、ギルド特権もパー、彼女の資産は凍結、装備だって足がつくから集め直しの再スタートだよ?遺品扱いでギルドに提出しないとならないからね。」


「更に、スキルは良いとしても、精霊魔法は当分人前で一切使えない…使えてダンジョンくらいで、冒険者講習では手加減しながらバレない様にする。ステータス鑑定は要注意…名前がバレるからね!ギルドにだって入れ…そこはウチでどうにかなるか…ひとまず今思いつく限りだけど、まだまだあるんだよ?」






「そんなこと彼女が望むとでも思ってるのかい?人知れず会って話した方が全部失わずに済むじゃないか!」



「あ!そう言われればそうですね!一眼を忍んで会えば良いだけ『そうします!!!!!』」



 僕の言葉に被せる様に、ヒナミは涙ぐみながら力強く答えた…それに対して僕らは間の抜けた返事しかできなかった。



「「へ?」」



「どうしましょう!装備だったらこの村で初心者装備買えば良いと思うんです!」



「それと〜私が死んだ場所…どうしましょう!」



「えっと!エクシアさんこれが私の武器で…精霊は今事情説明して当分精霊界で遊んでもらってきますね!精霊も回復できるし里帰りできるしでいい事づくめだし!精霊アイテムはヒロさん…あ!遺品扱いか!じゃ精霊と話した後エクシアさんに渡します!」


「それとバックパックもここにあります!あ!回復薬とかは使い切った様にした方がいいですね…森に放り投げておきましょう!だれか運がいい人が見つけるかもですし!見つけられても名前書いてるわけじゃないですし!」



 最上位装備を惜しげもなくエクシアの目の前にゴミの如く放り投げるヒナミ…全く未練もない様だ。



 その上、森の際まで走り回復アイテムをぽいぽいと奥まで力いっぱいに投げ捨てるヒナミちゃんは…どことなく楽しそうだ。



 前のめりに死ぬ気満々だ。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 とりあえず、リセット宣言はヒナミちゃんの希望で実行する方向になった。


 エクシアさんはS級冒険者が名前を変え、実力を隠しながらも自分のギルドに加入することに舞い上がっていた。


 先程と掌を返しているとは、僕もそうまも言えなかった。



◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 後日、街に帰ったエクシアは足早に冒険者組合に行きヒロの「飴ちゃん100個」を賄賂に資料をあさり調べたところ、冒険者組合から伝わっていた内容の精霊魔法以外の情報は、小国郡の悪意の尾鰭が書き足され付いたものだと判明した。




 火の国の近隣諸国はこの件の裏事情を全く聞こうとしていなかったのだ…ヒナミは前に、火の国の王が行った悪逆非道を暴露したが王国が滅んだことで近隣諸国の小国群はその跡地の奪い合いに追われて被害者のはずのヒナミを悪者に仕立てた。



 ヒナミは精霊魔術を駆使して地龍を討伐できる位の冒険者であった事が災した…当時火の国では精霊術のサラマンダーは王家と神官が秘匿する秘術の扱いだった。



 しかしユニークスキルを持つヒナミはそれを使わずとも契約した。唯一サラマンダーの化現と精霊魔法を使える火の国の冒険者でもあった為、精霊契約の奥義を我がものとして国を裏切った悪役として適役だった。



 彼女のユニークスキルの詳細は一般冒険者の知るところではないし、小国郡の王達もヒナミに遭って鑑定師に秘密裏に鑑定させて知った内容だったので情報操作は簡単だった。



 ヒナミを敵役にする事で、火の国の跡地を欲する小国郡の王達は近隣の村々からこの地を治める口実にしたのだ。



 精霊魔法を行使して炎の王都を滅ぼした…と、ヒナミを犯罪者にする事で(彼女を捕らえ火の王都に住んでいたの国民の無念を晴らす!)とアピールする事ができ、事情を知らない周りの村がそれぞれ小国郡に賛同した。



 当然小国郡の王達は、村々の金に目がない強欲達を抱き込み扇動させたのは言うまでもない。



 その企みのせいでヒナミは小国郡のお尋ね者になったのだが、地龍を単独で倒す実力がある冒険者など小国郡に居るはずも無く…日に日に、火の国の跡地近隣の村々から苦情が上がりはじめた。



 このままでは、元火の国の村々がそれぞれの小国郡から離反する恐れがあった為、冒険者組合を通して懸賞金を出す代わりに他の国の強い冒険者達に捕らえさせる強行手段に出た。



 しかし、冒険者組合は地龍を単独討伐できる貴重な戦力を、馬鹿な愚王達のどうしようもない嘘につき合わせて失うにはいかないので、一つの方法を考案した。



 それが、Sクラス制度だった。


 非常に優秀な冒険者に与えられる称号で、希少性の高いスキルを持つ者は漏れなくSクラス認定される制度だ。ただし、その該当冒険者は各種ギルドによる占有を禁止とした。


 なぜかと言えば、何処かの特定ギルドに所属させない事で、該当者の弱みを握らせない為だ。

 しかし、当人が強く希望したギルドであり、ギルドのメンバー全員で対象者を守る覚悟をし、いかなる裏切り行為もしない旨の魔法契約を冒険者組合にて交わした場合はその限りではない事とした。



 厳密に希少性の高いスキルは、錬金術など失われて久しいスキルや、蘇生に関する魔法の使い手、上級精霊と契約した数少ない冒険者、精霊魔法を授けられた使い手などだが、この項目は毎年詳しく調べられて今現在も更新されている。


 使い手が少なくなり希少性が高くなったと組合で判断された場合、即座に適応される仕組みである。


 組合はこの制度でヒナミを密かに保護対象にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る