第48話「ヒナミ・後編」

組合は小国郡の金にしか興味のない馬鹿な国々の王から、彼女を守る為だけにこの制度を作ったのだが、何らかの理由から彼女がギルドによる占有を強いられたり、小国郡の王がギルドの弱みを使い彼女を捕縛させない為というのが大きな理由だった。


 しかし占有してはならない御触れを出した上で、彼女が自分の意思でギルドに加入できる様にしたのは、優しい彼女は友人の為に全てを失った前例がある。


 また何らかの理由から利用される可能性は十二分にあると組合は踏んだのだ。


 なので少しでも早くこんな境遇の彼女を、心から信じ彼女も仲間を守り抜くと誓う程の絆を作って貰いたい一心で特例を設けたのだ。


 次に不特定多数の冒険者に彼女の情報が行き渡らない様にするために、希少性の高いスキルや魔法を扱う冒険者は組合による秘匿対象とした。


 要するに施行時点では彼女だけが当てはまるのだ。


 これに違反した者は厳しく対処する罰則まで準備した。


 しかし小国郡の王達は、組合が強者を独り占めにする気だと他の国々に働きかけてこれに対抗した。


 組合側は、情報公開レベルをギルド等級に設定する事で切り抜けたが、各国との話し合いの場が持たれてしまい、その結果銀級ギルドが好ましく、組合及び各諸国で情報共有し特定条件を満たさないギルドには秘匿管理すると言う部分で落ち着いた。


 一見綱引きの様であるが実は組合側の圧勝である。


 今後同じ様な事を他国が行った場合、この制度を用いて組合が裏から補佐できる事になった上に、事前に他の国の目も入る事でヒナミの様な事件が起こらない様になったのだ。


 結果、火の王国の件は各諸国の目が入る結果になり再調査という事になった。


 理由は、各村村周辺で発生していた高レベルの魔物討伐を依頼も受けずにヒナミ一人で解決していた事にあった。


 それを各国の王が知り


「犯罪者が何故に周辺の村を守るのだ?依頼を受けた形跡もなく退治したのに謝礼も受け取らない。小国郡の報告とは正反対の行動だ……地龍などを討伐できる優秀な冒険者が報告の通り暴挙に出たとは考えにくい。」


 その声が大きくなり小国郡の悪巧みは、なりを潜めるほか無かった。


 この時点でヒナミはS級占有不可の冒険者で開示条件付きの秘匿対象となり、小国郡の王達は無闇に彼女の冒険者情報を冒険者やギルドに垂れ流すことができなくなった。


 尚、危険冒険者へのヒナミの指定は冒険者組合が直接記入や条件指定をしたものではない。


 全て、小国郡の独断で冒険者組合に圧力をかけたのだ。


 危険者認定をする事で、他の冒険者とパーティーを組めなくして彼女を孤立させ単独行動せざるをえなくした。


 その為、発布された当初ヒナミは冒険者から疎まれる存在になった。


 危険冒険者で一緒に依頼受注をした場合は、一切の身の安全の保証はできないとまでされたのだ。


 その様な事をギルド局員から言われれば、冒険者は一緒に依頼を受ける事はしない。


 そして彼女が邪魔な小国郡の王達は、より多くの冒険者の目につく様に危険者指定された冒険者情報をギルドに必ず貼り付ける約束を各国々の王に約束して貰った。


 当然、危険冒険者の情報であるのでそれを受け入れない方がおかしい。


 しかし、小国郡の王達の目的はヒナミを危険認定した冒険者情報をギルドを通して各国の冒険者に示す事で、他国での活動を妨げてヒナミを孤立させる事にあった。


 そして小国郡と同じ様にその国のギルドそして冒険者達から噂を流し、民衆にもヒナミの危険性を訴えることにあった。


 決して危険人物でないヒナミを陥れるために。


 もちろん噂を流すのは小国郡の息のかかった冒険者がそれを行うのだが…。


 そして悪辣な王達は、更なる一手を打つ。


 自国の小国郡共同ギルドで秘密裏に単独冒険者が受注不可能な依頼書(受注要項 最低冒険者数 最低2名)を発布した。


 これでヒナミは小国郡でギルドで依頼受注を受けることができなくなった。


 しかし当然冒険者の目につくので、当時この独自過ぎる依頼設定は各国の知る事となる。


 当然小国郡の王は言い訳を考えていた。


 地龍の生息する地域のため危険な魔物から身を守るための手段で、自国の冒険者を守るための最低人数は設定するべきだと。


 例え採取の様な簡単な依頼でも、万が一強力な魔物が現れた場合に対処できる可能性ができ、一人が見張りをする事でいち早く気がつき逃げることさえ可能だ。


 それに一人が凶刃に倒れた場合でも、2名いることで片方の冒険者が危険を知らせることもできる…と言い訳をした。


 確かに利点はあるので納得せざるをえない。


 各国はこの時点で、ここまで一人の冒険者に固執する小国郡の王達は何か理由がありこの様な異常な行動になったのでは?と考え始めていた。


 なので秘密裏に密偵を放ち事情を探り始めた。


 結果…単なる愚王達の領地争いであり、地龍を討伐できる優秀な冒険者が巻き込まれている真実に辿り着いた。


 その頃その受注システムを知った組合は黙っていなかった。


 ヒナミが危険冒険者認定された直後に組合は一早く秘匿冒険者情報としたた為、ヒナミの誤った情報は一部の冒険者とギルド員にしか伝わらなかった。


 しかし、結局誤った情報は削除されるには至らなかった。


 理由は火の王国滅亡の事件はヒナミしか真実を知らず、火の王国の愚王と王都の民は皆サラマンダーの業火に焼かれ証人はこの世にはいない。


 この件は覆しようもない事実で、サラマンダーはヒナミの契約精霊であった事を本人は告白しているのだ。


 ヒナミの訴えは証拠が全て焼け落ち、出せる証拠が乏しく更に本人しかできない。


 その為小国郡の王がこの危険者認定の削除を激しく拒んだのだ。


 更に元火の王国の村々の訴えまで提出してきた。


 勿論この訴えは、金で買ったものだと皆分かっているが……一部の村人は家族を王都で亡くしているのは事実だ。


 各諸国もその件については、小国郡の強欲さが見え隠れして嘘だと分かってはいたものの、それを立証する術もない為に結果、この認定は残したまま、強者を保護する組合の意思を汲み取り彼女を秘密裏に特別待遇で保護するに至った。


 S級冒険者のヒナミは、事情を知らない冒険者には厄介者として取り扱われるも、冒険者組合や事情を知っている国には優遇されるようになった。


 こうして、冒険者組合は国家間におけるSクラスの冒険者と言う最高峰を生み出した。


 伝説のS級冒険者のヒナミが誕生した瞬間でもあった。



◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 僕らはエクシアさんが取った対応と、僕らと会ってヒナミちゃんが取り乱した後始末を考える。


「エクシアさんとヒナミちゃんが飯の取り合いで以前喧嘩になったとかでいいんじゃないですか?飯屋で会ったし!再会的な?」


「後僕らの件は飴ちゃんでも10年捜してたとか言えば…」


 と言って、業務用の飴ちゃんを袋ごとヒナミちゃんに見せる。


 僕の発言にエクシアとそうまの冷たい視線を浴びせる。


 しかし、ヒナミの態度は違かった。


「あ!飴ちゃんだ!アソート袋!カラオケで友達から貰ってよく食べた!飴ちゃんだ!この世界では無い!フルーツミックスの飴ちゃんだ!」


 喜び方が尋常では無いので、これまた鷲掴みで渡すと飴ちゃんと僕の顔を3往復して見ていた…「貰っていいの?」と言う顔だ。


「まだまだあるから……食べてください意外と邪魔なんです数が多くて。」


 ヒナミがローブのポケットにしまったそばから又鷲掴みで渡す。


「本っ気!で飴ちゃん探してました!それ以外にも元の世界にありそうな食べ物とか…洋服とか…とりあえず色々、各地回って似たもの探した位です!でも異世界だけあって本当に!!全く無いんです…貴族の飴ちゃんは只の粉砂糖の塊で飴じゃないんですよ!ふええええええ!美味しい!」


「10年ぶりの飴ちゃんだ!はぁぁぁぁぁぁ〜飴ちゃん!はぁぁぁ!夢の様だ!」


 びっくりする事に、各地で帰り方を捜すついでに現代に似たものを探していた様だ。


 寧ろ食べ物を優先するあまり帰り方の探索が疎かになっていたのでは無いかと思った程だ…

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