第23話「やる気満々な階層主」


 それは突然だった。


 僕が危険を回避する為に、階層主を避けようと引き返そうとした時に凄い勢いで跳び上がり襲いかかって来た。


 しかし僕は引き返そうとしつつも、敵から目を離さ無いように常に空間感知を発動させていたのが功を成した。



 目の前の開けた空間のほぼ中央に居たはずの魔物が、次の瞬間半分の距離を縮めていた。


 空間感知の敵の印が急激に幅を詰めてきたのだ。



 大きなガマガエルの様な体躯の魔物は、その脚力を活かし一気に跳んできたのだ。


 目を離すと知ると躊躇なく跳び上がり、距離を縮めた巨大なカエルが僕の魔法射程圏内に着地する。


 僕は慌てながらも敵の情報を少しでも得る為に『鑑定』を試みる。


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 ジャイアント・アサシン・フロッグ

      (階層主個体)


 (特別大型種) LV.8 第二次系統進化個体


       使役前個体

  (該当個体、穢れ混濁の為使役不可)


  ステータスには個体差、系統差あり


  ステータス 鑑定LV不足により失敗



     一般個体のみ使役可能

   (※ダンジョン混濁個体は使役不可)


  長い舌には痺れる粘液を持ち、相手

  を痺れさせて大きな口に引き摺り込

  み強力な消化液で溶かし捕食する。


  敵対象の注意が逸れた時に、強靭な

  後ろ脚で跳躍し距離を縮める。


  長い舌、痺れる粘液、カエルの体表

  強靭な後ろ脚、巨大な眼球、etc

  は様々な用途に用いられる。


  上記部位は武器、防具、etcの素材に

  使用可能。


 系統変化先 LV、経験値不足で鑑定不可。


 一般個体は稀に宝箱を落とす。


 ダンジョン階層主及び階層主守護個体は

 特定宝箱を都度落とす。

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 名前にアサシンと付く以上とても危険な個体だと直ぐに分かった。


 その上特別大型種であり、思った通り階層主だった。


 僕は長い舌に襲われる前になんとか決着をつけるか、隙を見て逃げ出したかったが舌の長さがどの程度まで届くのか判らない上痺れ効果が危険すぎる。



 階層主個体だから上手くリュックからチャームを取り出しても、効果は間違いなく無い。


 モンブランに相談したいところだが、泉に置いて来たのでそれも叶わない。



 あの時前に進まず帰っていたら、こんな化け物ガエルと向き合わず済んだのだが……


 その考えは既に今更遅かった。



 目の前のジャイアント・アサシン・フロッグはぎょろっとした目でこちらを伺っている。


 僕に出来る事はナイフで斬り掛かるか、ウォーター・バレットで撃ち込むしか無い。



 しかしナイフで斬りかかれば、間違いなく長い舌の痺れ粘液で行動は封じられるだろう……


 なので実際は一択しか無いのだ!



 此処で様子を見て、万が一舌が伸ばされても僕に躱せるとは到底思えなかったからだ……



『ウォーター・バレット!』



 突然撃ち出された水魔法を、ジャイアント・アサシン・フロッグは強靭な後ろ脚のバネで上空へ回避する。



 しかし実は僕が狙っていたのは、回避不能の空中だった。


 人の様な知能が有れば、舌を伸ばして何かにつかまり方向転換も出来るかもだが……


 今見ている巨大ガエルには流石にそこまでの知能はないと踏んで、目の前に5連射のウォーター・バレットを撃ち込んだ。


 それが見事に上手く行った。



 上空に逃げた巨大ガエルの、一番柔らかそうな腹部目がけて先程やらかした半球体状の放射型ウォーター・バレットを反対の手で間髪入れずにお見舞いする。


 この方法で有れば、発射地点の僕から放射状にウォーター・バレットが射撃されるので上空はどの角度でも狙い易かった。


 その上回避できないのであれば多めに散弾で撃てば当たる!と思ったのだが見事に的中した。



 僕の射撃は見事にジャイアント・アサシン・フロッグの腹部を撃ち抜き、巨大な魔物を討伐する事に成功する。


 僕からやや離れた辺りに巨大ガエルがバランスを崩して落ちてくる……


 念の為もう5発射撃で駄目押しする。



 消え方は少しばかり時間がかかるだけで、ほぼスライムと同じだった。


 ただスライムと違うのは、宝箱の他に周辺に討伐部位がかなり多く落ちていた事だ。



 ただドロップしたアイテムとは言え、痺れ粘液とか触る前に怖いので鑑定をしてみる。



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      ドロップアイテム


  ・長い舌 1枚

  ・痺れる粘液 1瓶

  ・強靭な後ろ脚 2対

  ・巨大な眼球 1個

  ・消化液(強) 1瓶

  ・巨大ガエルの水掻き 2対

  ・アサシンフロッグの結晶 1個

  ・中型魔石


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 痺れ粘液はまさかの瓶詰め状態で手に入った……


 なんて親切設定なんだろう!異世界はと思ったら、まさかの消化液(強)まで瓶詰めだった。


 消化液で瓶は溶けないのか、すごく心配だ。


 敵素材は意外に数が多く豪勢だった……


 よくよく考えれば階層主なので当たり前と言えば当たり前だったが、巨大なカエルと対峙した緊張感で若干パニックになっていた。


 そして目の前には、今までの宝箱とは形式の違う豪勢な宝箱が鎮座していた。


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  宝箱 (階層主からの褒賞) (罠無し)

       (Aランク)


       入手方法


 ダンジョンの階層主個体を倒した場合に

入手。


 箱にはランクがある。

ランクが上がる程、良品が詰まっている。


 箱には罠がかかっている場合がある。

ランクが上がると箱内部は複合罠になる。


解錠方及び罠の解除方は箱ごとに異なる。


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「おおお!Aランクの宝箱が出た!階層主の褒賞…名前の時点で既に豪勢だ!ロズさんが居たらどんな顔で喜ぶだろうな!」


 独り言を呟きながら喜びを噛み締める。


 僕があの巨大ガエルから逃げるには危険な状況だった為、この宝箱は一段と嬉しかった。



 その上、罠が無いとなれば僕でも開けることが出来るのだから尚の事嬉しい。


 重厚で豪勢な作りの宝箱に手をかけて、ゆっくりと開け中身の品に鑑定をかけてみる。



 中にあったのは…


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    金貨袋 (300枚)  1

    大粒ダイヤモンド 1

    大粒サファイア 1

    +5モーニングスター 1

    アイス・ファルシオン 1

    力の指輪 2

    癒しのサークレット 1

    ハイド・クローク 1


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 どれもこれも、名前からして素晴らしいものだった。


 宝石類など、前の世界では彼女の居なかった僕は指輪とか買いに行く事もないので、そうそう見る事はなかった。


 大粒ダイヤは素人目にも鮮やかでとても高そうだった。


 そしてその宝石の価値が全くもってわからないし、どうやって持って帰ったものか悩む程だ。


 取り敢えず全体鑑定をかけた時点では危険な物は無い様なので、宝石類は擦れ合わない様に慎重にタオルに包む。


 指輪とサークレットはひとまずタオルの残った部分に包んでおき、傷がつかない様にする。


 金貨袋も大切な生活資金になるのでリュックの奥の方にしまう。



 武器はしまうことが出来ないので、リュックに括り付ける。


 残念ながら僕は、ファルシオンもモーニングスターも取り扱い方が分からないので、迂闊に使って怪我しない様にするつもりだ。



 今の僕の経験的には、初心者ナイフで充分だ。


 ハイド・クロークだけは着込んで行っても問題ないだろう。



 流石にこのクロークまでリュックにしまったら、パンパンでチャックが閉まらなくなる。


 ハイド・クロークの性能を知る為に個別に鑑定してみる。



 ハイドと言う位だから隠れるのに特出しているのだろう。



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      ハイド・クローク

       (⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)


      ユニークアイテム


      装備品・クローク


     防御(特殊・破損再生)

     再生時間 24h完全修復


     特殊アイテムポケット

    クローク内側に高次元収納

  内側面積で覆えるサイズを収納可能。

       ※個数制限なし

       ※生き物は収納不可

    ※取り出し順序は選択可能



  対象の死角に5(s)以上いた場合、装備

  者を認識することが出来なくなる。

  (装備中に光の下にでた場合効果無効)


   袖内側に暗器専用高次元収納あり

    両袖共通使用・収納管理可能。


   雨風を防ぐ防寒具として使用可能。


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 見かけは初心者装備のクロークと代わり映えはないが思ったより高性能で嬉しかった。



 隠れることが出来れば、安全に探索できるほかに何より死角からウォーター・バレットと言うことも出来るだろう。


 それにこれがあれば、手に持つのが大変な物でも手軽にしまえて管理ができ便利そうだ。


 僕は早速クロークの内側を見てみた。

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