第24話「依頼人パウロの無理な頼み事」


 僕は取り敢えず、どう言う仕組みか手をクロークの内側に入れて弄ってみる。


 すると手首から先がクロークの内側に入り込んで見えなくなった。


 暫く弄っていると…


 クロークの内側の次元収納の中には、不思議な事に小さな鞄の様な物が1つだけ入っていたのが分かった。



 取り敢えず取り出して見ると……それは薄汚れた革製のもの凄く小さなポーチだった……


 ポーチの中はサイズ的にポーション類の大きさのアイテムがギリギリ1個入る位だ。



 何故こんなものが入っていたのか分からないので、念の為に鑑定をこれにもかけて見る。



 どう言う経緯でクロークの中にあったのか不明なので、万が一を考えれば鑑定をかけて置いて損はない。


 何故か収納の内部にあったのだ……迂闊に呪いの品の類を引かないとも限らない。



◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


    パウロの目眩し引っ掛け鞄


『マジックアイテム・鞄類・(レア度・⭐︎⭐︎⭐︎)』


 収納サイズに合う1つの種類のアイテムのみ

数量に関わらず内部高次元収納に収納可能。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


パウロと言う有名な盗賊が作った魔法の鞄。


 彼はこの鞄に、目眩しの玉を無数に入れ

ていた為、目眩しのパウロと呼ばれる様に

なった。


 それに伴い、この鞄も目眩しの名が付く

ようになった。


 本物のパウロの引っ掛け鞄には、彼の残

した最後の伝言があると言う。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 まさかの棚ぼただった……


 手に入れたクロークの中に、更に小さな鞄がありその鞄の中には目眩し玉を芯にして包んだ手紙が入っていた。


 その為このパウロの引っ掛け鞄が本物だと言うことだ。


 その内容は、なかなかに恨みがこもっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『この手紙を読むものへ……』


 お前が望みを叶えてくれるなら……魔法の鞄の作成図面のありかをお前に教えよう!


そして完成時には我が師匠の魔法のワンドもプレゼントしよう。


 この鞄は俺と師匠が一生をかけて作り出した傑作だ。


 しかしながら、俺はしがない盗賊に成り下がった!!


 だから……結局こんな小さく惨めな鞄しか作ることが出来なかった……


 もしお前が冒険者なら!鞄に必要な素材を集めて……必ず俺が残したその図面を元にこれより大きな魔法の鞄を作ってくれ!


 そして俺が生涯をかけて作った、この『魔法のカバン』をバカにした帝都の魔導院の奴らに見せつけてやってくれ!


 俺がしがない盗賊に落ちぶれたのも全部奴らのせいだ!


 奴等には、俺と我が師匠が考案した魔法の鞄に使う素材とは違うデマの素材しか伝わっていない!!


 師匠が残した物は全部焼却して、俺が残したものは特別な方法で守っている!!


 だから奴等では100年経っても成功しないはずだ!


 だからこれを読んだお前が俺の恨みを晴らしてくれ!


 そのために必要な素材を購入する資金は、設計図と一緒にしまってある。


 しまってある場所は『帝都の魔導院(フローゲル魔道士像)の裏』だ!


 取り出し方は『この鞄の内側の魔法陣をフローゲル魔道士像前の石碑に押し当てれば』魔導師像の裏側にある、収納が一時的に使える様になる。


 俺が手に入れられなかった肝になる一番重要な素材は「ハイドホラーの表皮」だ!!


 見知らぬ冒険者よ!!頼んだぞ!


 パウロ・フローゲル・jr



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 勝手に他人に頼むだなんて……全く持って迷惑だが、次元収納の作り方なんて言われれば興味を引かない方がおかしい。


 チャンスがあったら是非素材を集めて作ってみよう。


 その為にも強くなって『ハイドホラー』なる魔物を倒し、帝都の魔導院まで行き素材の資金と鞄の図面を回収せねば!


 当面はこのダンジョンを脱出する事が先決だ。


 その為にまずモンブランを泉で回収せねば……


 流石にお喋り会もそろそろ終わっている事だろう。


 僕は帰る前に、目の前の開けた空間に空間感知で敵がいないことを確認して、足を踏み入れて周囲の確認だけ済ます。


 こうする事で空間感知が開けた空間内部をくまなく探知してくれる。


 遠巻きから周囲を確認することも出来るが目で見るのと空間感知だけでは情報量が違う。



 周囲は他の場所と対して変わらず、壁際が用水路のように湧き水が流れる場所になっていた。


 それ以外は奥に続く通路もなく、感知を使っても目の前は紛れもない壁だった。



 この空間の何処かに下に降りる場所があると思っていただけに、ちょっと不思議に思った。


 しかし、無いので有れば先ほど行かなかった他の2本の何方かが、下に向かう方なのだろうと結論が出た。



 真ん中の開けた通路を選ばなければ、階層主と闘わず済んだ事に気が付き若干運の無さを悲観したが、無事闘って勝ったのだ結果オーライだろう。


 僕は来た道を足早に帰る……


 通路を通りちょっと開けた分帰路に出る……そしてまた通路を通り水の精霊が水魔法をぶちかました部屋まで帰ってくると……


 モンブランは水の精霊達に大人気の真っ最中だった。


 話に花が咲いて僕がいなかったことも判ってない有り様だ。



 しかしながら、水の中級精霊は僕を見るなり……


『うっそ!?ちょっと!!なに……超凄いものゲットしてんのよ!ってかこの短時間でナニ?どうしたらそうなるの?』



 水の精霊の食い付きっぷりが凄かった……多分装備中のブレスレットの事だろう。


 よく考えれば、水の祭壇とか書いてあった気がする。



『え?ナニナニ?水っ娘ちゃん?なに興奮してるの?』


『聖樹っ子!!興奮もなにも!あの手につけてるアレよ!アレ!』



『あー!!精霊の腕輪見つけたんだ?なかなかレアだよね?あれ有れば水っ娘ちゃんも私と同じでダンジョンのお外に行けるもんね?』



『いやいや!モンブラン!よく見なさいよ!!精霊の腕輪じゃなくて、水精霊特定のレアなアイテムよアレ!』


 水精霊はブレスレットを見た途端、凄く饒舌にアイテムの凄さを語り始める……


『そのブレスレット水精霊の祭壇じゃない!それも下級でも中級でもなく……まさかの上級じゃない!万が一私が上級になってもあのブレスレット通して外に行き放題よ!?』


 どうやら鑑定した内容に差異は無く、精霊の方にしてもすごく価値のある品だった様だ。


 そして話の内容からして、この種類には下級・中級・上級がある様だ。



 水の精霊は中級精霊だったので、上級種になってもそのまま使える口ぶりだ。


 中級から上級へ精霊もランクを上げることができると判っただけでも良い情報だろう。


 何せ精霊本体が言う言葉だ!嘘では無いだろう。


 せっかくの品だが魔法を教えて貰った礼もあるし、流石に学んだ魔法と水鉄砲の等価交換では気が引けるので、折角なのでプレゼントしてチャラにするのも良い手だ。


「これそんなにレアなんですか?なんか魔法覚えられるって鑑定で出たので、装備して水障壁覚えたんですよ。でも装備外しても覚えた魔法が消えることが無いのは確認済みなので、一応僕的には役目を果たしたアイテムなんですよね。」


 僕はそう言ってアイテムを外す。


 そしてお礼を言いつつ、プレゼントと魔法がチャラになる様に言葉を織り込む。


「防御力も上がるしいい事尽くめだから装備したままなんですけど…魔法の説明もちゃんと覚えたのであげてもいいですよ?水魔法のお礼に!」



『いやいや……ヒロさんや……それを水っ娘ちゃんにあげてもね?装備した人がここに居たらダンジョンから出られませんよ!そもそも水っ娘ちゃんがそのブレスレットなんて装備できないしね……精霊だから』


 まさかのやらかしだ……


 精霊が装備できないのではチャラになんか出来るはずもない。


 しかし水精霊は……


『いやいや!ダンジョンから出る出ないの問題じゃなく……って言うか!このダンジョンってそもそも!私たちの住んでる場所じゃないから!このダンジョンは最下層にたまたま地底湖があっただけだし、今ここに居るのも精霊を感知出来る人族が居る!って下級精霊が騒いでいたもんだから見に来たわけよ!それも最下層から急いでだよ!』


 水精霊はマシンガンの様に言葉を発したが、その言葉が早すぎて理解が半分くらいしか出来なかった……


 しかし困ったことに、その言葉は終わっていなかった……


『だから今のお出かけの話は、精霊の園からの話よ!まぁ……何も知らない君に教えてあげましょう!!その手の装備はですね?人間など魔力と知恵が在るものが装備して、精霊と契約する事で契約した人がその力を借りられる物なんですよ!!』


 意外だった……


 このアイテムは精霊契約した者が、精霊を好きな場所に召喚したり、連れ歩ける物のようだ。


 一時的だが、精霊の力を借りれる夢の様なアイテムだった……

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