第12話「村の洞窟」
「空間魔法……聞いた事がないけど?ゼッタイ……ヤバイ事この上ない……結構危険な橋も渡って来たし!何度も死にそうになったし、A級ギルドに在籍してA+級魔獣の討伐に参加した事もあるけど!念願のギルド申請も許可され銀級にランク上げたけど!!」
そう言うエクシアの顔は、ヤバいと口で言いながらも何処か楽しげで話を続ける。
「その銀級ギルド3級に所属して王都の重要書庫も閲覧可能になっても!!!今までの人生で……いっっっっっかいも!!!!誰からも聴いた試しが無い!!存在を今知った!聴かなきゃ良かった……あたし……今日寝れないわ……」
それを聞いた僕は、スキルの#########の事は聞かずにおいた。
鑑定レベルが足らない可能性もあるからだが、それ以上に聞くのが怖かった。
戦闘の訓練に選ばれた魔物は話に上がったホーンラビットだが、本来もっと攻撃が単調で安全?な敵を相手にするらしいが、ホーンラビットより安全な魔物がこの森周辺には居ないらしい。
魔の森に分け入ればゴブリン位は居るだろうが、その場合フォレストウルフに出会う確率の方が高いので消去法でホーンラビットだった。
確かによく見て注意さえすれば、攻撃は単調なのだ。
勢い良く蹴られたボール程度だと思えば、躱すのは簡単だった。
躱した後はほぼズッコケて、蹲って向きを変えるホーンラビットの対処は難なく全員が出来た。
因みにズッコケ無い場合は、場所が森だけに大概は木に刺さってジタバタしている。
女子側は、魔物でも可愛らしいウサギの姿に武器でトドメを刺す事には初めは躊躇があったのだがエクシアの……
「コイツ等を放置する事で、躱す事の出来ない小さな子供が命を落とす事故が多いんだよ。回復師が居る街や村が近ければ助かるだろうが……そうじゃ無かったらさぁ?分かるよな?」
エクシアの説明では、魔物は倒した相手の魔素を吸収して強くなる性質がある。
だから魔素を持っている相手には見境が無い……自分より強くても側に居たら仕掛けて来て、やり返されて初めてコイツ等は逃げる。
そして、弱い相手を探して倒しながら力を吸収し、更に魔の森の魔素を含んだ餌を食いより強力に成長して行く。
エクシアの説明で、彼女達にも踏ん切りがついた様だ。
僕等は、その時に倒したホーンラビットとファイアフォックスのパーティーに貰ったフォレスト・ウルフの素材を買い取って貰い購入代金に充てた。
貰い受けたフォレストウルフの毛皮や牙は、料理を振る舞ってくれた結菜のお陰であったので、彼女には感謝しかない。
両手一杯の荷物をひとまず宿屋に持っていく事に決定した。
しかしエクシアは、店の主人と積もる話があるとかで店に残る様だった。
店主との別れ際に教えてもらった事だが、エクシアはこの村の出身だったらしく、確かに『積もる話がある訳だ』と皆は納得した。
その会話の中で、店の店主が面白い事を教えてくれた。
「この村の外れに洞窟の入り口が有るんだが、そこは昔エクシアが特訓した洞窟なんだよ。」
「おっちゃん!懐かしいな。あの洞窟か!よく入ってはクズ魔石集めて売りに来たっけな……懐かしいよ。」
「そこは奥まで浅く続く洞窟で、壁には等間隔に松明があり十分光量もあるんだ、魔物はスライム位しかおらんので、エクシアが今言った様に村人が生活で使うクズ魔石の補充に利用しちょる」
そう言って武器屋の主人は、クズ魔石と呼ばれる『魔石(小)』を見せてくれた。
小ぶりだが、宝石の様に綺麗ではあった。
洞窟にはスライムが繁殖して、その『魔物』と言われる体内から手に入るとは『正に異世界だなぁ』と思うしかない。
「最奥部は、そこそこの水量が溜まってる泉がある清らかな場所で、地下から湧き出る源泉なんだ。そこには水の精霊が居ると信じられててな、初心者には洞窟を味わうには持ってこいじゃから行ってみると良い」
「あたしゃ、あそこで一度も水の精霊に逢えたことがなかったが……綺麗な場所だよ。初心者でも平気だから、おっちゃんの言う通り行ってみな!スライムぶっ叩きながら魔石集めても30分程度で奥まで行けちまうからね。初めてのダンジョンみたいな感じで良いと思うよ?ダンジョンじゃなく只の洞窟なんだけどな!」
「今ワシが渡した装備も折角手に入れたからな、取り回しを試すが良いさ。おなごや子供が一人で入っても大丈夫な場所だから」
僕達はお店を出ると、手荷物一杯になり過ぎたので足早にマッコリーニが話してくれた宿屋に向かうと、護衛でも無い僕等の滞在費まで払ってくれていた。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
宿屋は本館と別館があるしっかりした宿だった。
マッコリーニさんの配慮は親切で、男部屋と女部屋に別けてあったが、どちらの部屋も質素なつくりだった。
とりあえず、一杯だった手荷物を部屋に置きにいく。
宿屋に着いてからやろうと皆で決めたステータス鑑定は、うっかり周りに見られない様に1人ずつ夜にコッソリやろうという結論に。
僕だけが皆のステータスを知る事になるので『鑑定スクロールを使って個人でした方が良いのでは?』と提案はしたのだが、流れ組はこの世界から皆で『無事に帰還する為に結束しよう』……と、女子の二人の猛反対に合い押し切られた。
この後は、とりあえず男女で別れ洞窟探索に行こうとなった。
先発隊の僕等は装備を整える。
スライムは雑魚の様なので盾はどうしようか悩んだが、使い方に慣れる必要も有るだろうと念の為持っていく事にした。
しかし外套に関しては洞窟内で夜営するわけでは無いし、洞窟内も30分程度だったら邪魔になると思い部屋のベッドに置いていく。
結局スライムの居る洞窟に一人で入るには、美香が『怖い』と言ったので結菜が『じゃあ2人で入ろうか?』って事になった訳で僕とそうまも、念の為に一緒に入る事になった。
身支度を整えて宿からでたら、ロズがそうまに……
「今暇か?盾職訓練しないか?バックラーは買ったんだろ?時間あるなら使い方教えるぞ?そのあと実戦兼ねて洞窟行ってみてこいよ!」
外見に見合わない面倒見の良いロズに言われて、そうまは現役冒険者から盾の使い方を学ぶ為について行き……
女子の二人は?……と言うと……
一緒に洞窟に向かう途中に、レイカのお付きがこの村で買える薬草の話をしていた所に、偶然出くわした。
話を聞いているうちに気になったのか、お付きと一緒に薬草棚の見学に行ってしまった。
仕方ないのでロズに合流しようか考えたが、既にもう洞窟の入り口が見える場所にいたので、武器屋の店主が言ってた様に一人で入ってみる。
洞窟に入ると、中は冷んやりしていた。
店主の言う通り、入り口付近から松明が等間隔に設置されていたが、洞窟内なのに酸欠にならないのか心配した。
しかし、村人も使う洞窟だと言う事なので、そう言った心配は無いのだろう。
入り口付近にはスライムは居なかったが、暫く内部を歩くと開けた場所がありその先は左右に道が続く二股だった。
開けた場所には数匹のスライムが居て、大きさもマチマチだ。
僕はその場所に無用心に踏み込んだため、スライムが一斉に寄ってきて最初は非常に焦った。
しかし、一番小さいスライムはピンポン球位しか大きさが無く、大きくても500ミリサイズのペットボトル位の高さしか無かった。
粘体の真ん中には、それぞれ違う色の核と呼ばれる物が見える。
その核を壊すか引き抜けば、粘体を維持できず崩れるらしい。
因みにスライムの種類では強酸を使う種類も居ると聞いていたので、直接引き抜くのはやめた方が良いらしい。
当然この洞窟には、そんな物騒な魔物は居ないようだ。
僕はピンポン球サイズのスライムは踏み潰し、ペットボトルサイズは粘体ごと核をナイフで切り払って倒す。
不思議と倒したスライムの粘体は、洞窟に染み込む様に消えていく。
そしてその消えた周辺に、小さい魔石が転がっていた。
どうやらこれが、エクシアが幼い時に狂った様に集めていたクズ魔石の様だ……武器屋で見た物と大差変わりはなかった。
エクシアに聞いたのだが、ここのスライムは個体が大きくならず強い酸を使うタイプでは無いので鉄製品が腐食する心配は無いらしく、当然酸を飛ばす攻撃も無いらしい。
戦ってみるとわかるが、ここの洞窟で繁殖するスライムの攻撃は体当たりか、粘体を広げて顔に覆い被さろうとする……打撃か窒息狙いの様だ。
覆い被さり窒息させ意識がなくなったところを、消化液で溶かしながらゆっくり取り込むのだろう。
以前エクシアに、洞窟とダンジョンの違いを『冒険者初心講習』と称して、僕等流れ組は色々教わったのだが、それが今回役に立った。
ちなみに、エクシアが冒険者初心講習を行った理由は『暇だったから』の様だ……
本来は荷馬車での移動中は、護衛がメインで不測の事態に備えて注意しなければならないらしい。
しかし食欲に支配されたメンバーが、フォレストウルフを我先に見つけては狩ってしまうので、暇を持て余したエクシアが僕達の初心者講習会を思い立ったそうだ。
その時にホーンラビットの討伐部位を見たところ、浮き上がった文字に『食可とても美味』と書いてあった事を結菜に伝えたら、その日はホーンラビットのシチューになった。
調理の仕方なのか……結菜が『調理スキル』でも持っているのか……本当にコレがとても美味だった。
僕らでも倒せるホーンラビットが美味かった事が、エクシアが頻繁に行う講習会の主な原因だろう。
それからも結菜が飯の支度をする日は、ファイアフォックスの面子はとても士気が高く集中していたので、結果オーライだろう。
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