OP第四話 「見つかる前に…トンズラだ!」


「秘薬は残念ながら既にもう無くて、探索の際に脚を失った知り合いのお母さんにあげちゃったのです。」



 そう言うと、申し訳なさそうに頭を垂れる母親が、か細い声で皇女に詫びていた。



「申し訳ありません。私など底辺の冒険者が大切な薬を頂いてしまって………」



 この家族を知る冒険者の面々は、失われた筈の脚がゆっくりと再生されている様をビックリしながらその脚を見ていた。


 当然、お婆婆様も薬のもたらす欠損部位の再生に興味があったらしく、謝る母親を宥めながら再生中の脚を側で座り込みマジマジと見ていた。


 秘薬が既に失われた事を聞いたお姫様は、酷く落胆した様を見せた。


 取り敢えず皇帝の状態異常に効くかは分からないが、大概の異常を治す万能薬について僕は言ってみる。



「現在はある薬なら持っているのですが……『万能薬』なので、大概の状態異常は回復出来ますけど?皇帝が『状態異常』であれば、別に秘薬で無くても大丈夫じゃ無いかと?」



 僕は先程聞いた情報で話をするが、念の為それ以外の効果も織り込み済みなのかを聞く。



「ついでに寿命を延ばしたいとか、若返りたいのですか?もしかして四肢の欠損もあるんですか?目とか耳とかは?欠損部位であれば秘薬でないと治せませんけど………」



 そう言って僕は、現物の万能薬(錬金自作製)を見せてから効能の説明をする。



「因みにこの薬は『万能薬』と呼ばれていまして、あらゆる状態異常を治す薬です。主に状態異常に特化した薬なので、寿命を延ばす効果や体力を回復させる効果、あとは死んでしまったりした相手の場合などは効果がありません。」


 ペラペラと話し出した僕に、お婆婆様は目を剥き出して停止して居る。


 まぁ続きを話そう……


「勿論、各部位欠損なども万能薬では再生出来ませんのでその場合そちらに特化した薬が必要だと思います。毒、麻痺、各種属性異常…感電や火傷に凍結などが状態異常で有名ですね、それの他には様々な呪いや呪詛の類を治す薬です。」


 僕が効能を説明し始めると、お婆婆様はにじり寄って来るが僕は後ろに若干下がる。


 お婆婆の圧力が怖いからだ。


 そう思いつつ締め括る。


「なので、今の話だとすれば、万能薬で良いのではないでしょうか?って言っても、もう周知の上で秘薬が欲しかったんですよね?なんかすいません。」


 話が終わったと見たお婆婆様は……


「何と!あのダンジョンでは万能薬も出るのか!何層で出るのですかな?そこをぉ詳しく!騎士団の者も聞き漏らすでないぞ!鑑定士よ!鑑定スクロールをここへ!はよう!爺様はよせんか!はよ鑑定せい!」


 お婆婆様に急かされて呼ばれたのは同じくらい歳をとった爺様だった。


 爺様はお婆婆様にしわくちゃな手で肩を鷲掴みにされ非常に辛そうだが、スクロールで鑑定をする。


「うむむ……間違い無い!万能薬だ。産まれてこの方、これを見たのは2度目じゃ!また見る事が出来るとは長生きはするもんだわい!それで冒険者殿、ダンジョンの階層と魔物を詳しく教えて頂け無いですかの?勿論冒険者にとって情報こそ命なのは分かっておりますがのぉ…」



 お婆婆の後は爺様からの熱弁が始まった……


 その爺様は熱弁だけでは済まなかった。


「鑑定などでは手に入る階層や魔物などまでは分かりゃせんのだ。うろ覚えでもいいので!教えて頂けませんかなぁ?お礼に今後は鑑定の際は、神殿に来て頂ければワシが責任を持って無料で鑑定しますがの?」


 豹変からして、当然情報が欲しいのなど分かりきって居るが、自作ポーションだ教えようが無い……どうしようかなと考えて居ると、今度は騎士達まで騒ぎ始める。


「騎士団からも是非お願い致します!ちゃんとお礼は別途後程必ず!別途騎士団でも用意させて戴きますし、絶対に狩場を占拠する様な真似は我々は絶対しませんので!」


 と、お婆婆と強面騎士と鑑定士長にと食い気味に言われたので、作成に必要な材料の魔物が出る階層を教える。


 その際に、主に落とすのが主成分の薬草類だと付け加えて、それっぽくレア感を出すのを忘れない。


 材料は確かに出るので、ある意味は嘘では無い。


 何故自分で作った物かと言わないのかと言うと『決して僕が作ったとは言ってはいけない!』と、この国に来る前にとある冒険者に教わったのだ。


 現存するの薬師の能力は、知られている限りはそこまで高くないのだと言う事だった。


 この世界の薬師が作るポーションは『ポーション』とは呼ばれず『傷薬』だ。


 質はイマイチで、上級者ともなると作った上級傷薬はそうそう『手放さない』らしい。


 出回っても中級程度だそうだ。


 なので、一般的に小売で出回っているポーションは、ダンジョン産のポーションらしい。



 その後、万能薬の効能についてお婆婆様は鑑定士のお墨付きを得ると、お姫様一行はお婆婆様に促されて城へ帰っていく。



 僕へ『後程必ず!御礼を!』と言いながら足早に皇宮へ向かおうとするので、念の為にお手製の万能薬を予備として一本とポーションを10本程加えて渡しておく。


 どうせまた無茶して呪いにかかっても困るので、自家製の聖水を樽(小)を騎士団にも渡しておく。


 呪いの類を扱う敵には効果的面だ。



 予備を渡した時、お婆婆様の目玉は落ちるんじゃ無いか?と思えるほど見開いていたので怖かった。


 そして何より皇女様が、両手で僕の手を取ったとき、凄くいい匂いがして幸せだった。



 大概の場合これで治るはずだ。



 これで治らなかったらダンジョンに潜って秘薬探しを頑張ってくれ!としか言いようがない。


 僕が出来る事は此処までだ。



 皇宮からのお礼についてはギルマスに、世話になった家族伝手で受け取るとお願いしておく。



 言い訳は、ダンジョンに潜っている身だから受け取りが面倒だという理由付きで。


 ギルマスには皇宮から呼び出しがあったら素直にいってくれと言われたが、街にこれ以上いるのは色々と危険だと思ったので頑として譲らなかった。



 その夜僕は適当な理由を見繕って親子に別れを告げ、隣国に向かう夜便の馬車に飛び乗り逃げる様に他国に移動する。


 薬を皇宮鑑定士数人がかりで詳しく鑑定すれば、僕が作った事がバレかねない。


 万が一バレれば根掘り葉掘り調べられるのがオチだ……最悪軟禁だろう!だから念の為に今のうちに隣国にでも逃げようと思った訳だ。



 そもそもだが、僕は此処までこの国に長居する気は無かった。


 長居した理由は、体調が著しく悪いのに衣食住を世話をしてくれた母親に、その手伝いを一生懸命している健気な女の子を放って置けなかっただけだった。



 翌日は思った通り、皇宮では上も下もひっくり返した様な大事になっていた。


 僕の作った万能薬は皇帝の状態異常を回復し、回復薬は体力を回復するだけで無く、深く刻まれた王の古傷まで癒した……理由は自作の『高級ポーション』だからだが……


 皇帝は昔の古傷が元で、剣を振る可動域が狭くなり力を十全に使えなくなっていた。


 だが、解消された今となっては、皇帝は若き日の圧倒的な破壊力を取り戻した。


 その異常なまでの効能により、王命で薬の詳しい鑑定を皇宮の上級鑑定士数名で詳しく調べられた。


 鑑定項目は先に行われた安全性だけに留まらず、回復薬の異常な程の効能と精製者など調べられる限り多岐に亘った。


 後に聞いた話だが朝には居なくなった僕について、ギルマスと世話になった親子が皇宮へ呼び出され、


 王は終始ギルマスには興奮気味に質問を浴びせ、そして親子には大量の御馳走と褒美を餌に、普段の生活に至るまで質問攻めだったと言う事だ。



「ギルドマスターに問う!何故他国へ行かせた!何故引き留めなかった!そもそもどうして、この国に来た!何が理由で滞在してたのだ!」



 ギルマスはしどろもどろにこう答えた……『ちゃんと対応する様に言いましたが……ですがアイツ言う事聞かないんです』



「話に聞くと、ダンジョンをソロで踏破したと聞くが?どの様に攻略したのだ?どの様な装備であれば単独で踏破出来るのだ!」



 ギルマスは嫌な顔をしながらも頑張って答える……『ついでだった様です……草集めるついでとか言ってました……装備は普通の住民が着る服です』



「このポーションは冒険者ギルドに納品されたのだな?数は100を超えるとギルドで把握していると聞いたが間違いないな?ならば、半分は冒険者ギルドでダンジョン・スタンピード時の最後に切り札にせよ!!残り半分は帝都へ!!ギルド用の代わりのポーションは国で準備する!これは王命だ!」



 ギルマスは冷や汗をかき、泣きそうな顔でこう答える……『傷薬と聴いてます!!ポーションって何ですか!?』



「騎士団に与えられた大量の聖水を持って、特務帝国軍で屍のダンジョンを攻略する!増え続けるアンデット共を今度こそ打ち滅ぼすぞ!予備の万能薬も得た!聖水も得た!これであの屍の王の呪詛も取り巻きの屍共も恐るに値せず!我が国の悲願が叶う日が来た!」


 ギルマスはこの時点で白目を剥いて既に言葉にならない状態だった……しかし王は、突然舞い込んだ状況に興奮せずにはいられない状況だ。


 側近に飲み物を貰いクールダウンした皇帝は、冷静さを若干取り戻しギルドマスターへ質問をする。


 当のギルマスは絶賛、白目中なので答えられないだろう……


「其れにしても、その冒険者はいったい何者なのだ!褒賞も礼さえも受け取らず夜のうちに去るとは!腐った貴族が増える中、その様な者こそ我が国の貴族に…そして我が騎士団を率いるに相応しい!」


 ギルマスに変わりに、激しく同意した騎士団長は王の前で発言する。


『皇帝陛下!発言の許可を!!我、帝国の剣として、彼を帝国の盾に迎えて頂きたく!彼であれば、この帝国を如何なる脅威からも守れましょう!既にその器で御座います!』


 王はその言葉に激しく感動して、声を大にして言う。


「ギルドの管理者以外の情報も欲しい!誰でも良い!少しでも多くの事が分かる者を連れて参れ!」



 そうして例の親子が皇宮に呼ばれたらしいが、ギルマスの時と違い大量の御馳走に褒美を用意し、皇帝は終始和かに優しい口調で質問を浴びせていたらしい。




「世話になっていたと言う家族は其の方らか?その者はこの国の恩人なのだ!知っている事ならなんでも良いから教えて貰えぬか?」


 母親は頭を仕切に下げて、わかる範囲で答える。


「1日もせずに灰のダンジョンを踏破したと言うのは誠か?…なんと!薬の材料を採取しに行った序でに踏破したとな?と言うことはその者が薬を調合出来ると言うことじゃな?」


 娘は皇帝に勧められるまま沢山のご飯を口に詰め込み、ご機嫌で話す……『薬草を取りに行ったら美味しいラビット見つけて、ついでにボス倒したよ!って言っていたと』


 その話に大層ご機嫌な皇帝はラビットに興味を持った様だ。


「ほう!フルーツラビットと言う魔物か…私もこの歳まで1度だけ食した事がある希少食材だ!いい物を……なんと!毎週狩って来たと!何という強運!……因みに『週』とは何だ?」


 週に一度のご馳走である事を話すが、『週』の説明ができない娘に変わって、母親がその『曜日概念』を話すと激しく感動していた様だ。


 王は母に説明させては、詳しく家臣にメモを取らせる。


 その代わりに、家族は持ち帰る褒美が増えた様だ。



「して、母の脚の容態はどうなのかな?ほう!それが欠損して再生中の脚とな!薬の効果は正に目で見ないと解らぬな!」


 話を聞いていて気になったのか、王は母親の再生中の部位に目をやり感心する。


「すぐに再生するのでは無く時間が掛かるのだな!これは我が国の宮廷魔術師にも周知させねばならんな!して、痛みや、感覚などは?…ほう!感覚はあるが痛みは感じないのだな…と言う事は再生中は痛覚のみ遮断されているのか!」


 王は初めは質問だけしていたが、自分だけで埒があかないと気がつき、母に褒美と引き換えに状況の報告を逐一する様に申し付ける。


 その後に、すぐ様宮廷魔術師を呼び状況のスケッチと聞き取りをさせる。


 因みにこれはその後の話だが、母が皇宮にくる日に関して、その間暇な娘は王家の庭園で遊ばせてもらえていたので、親子共々前より幸せになったらしい。


 皇帝は、子供の母親に起きて居る奇跡に感動して、自分が助かったことに感謝して声を大にしてこう話す……


「よくよく考えると『万能薬』を持ち我が病を癒し『秘薬』をもって子供の母方の脚を治して、宮廷魔術師に最適な使用法の知識を与える。事が済めば、こうなると解って秘薬を使ったとしか思えんな!流石は天が与え賜うた勇者様だ!」


 豪勢な料理を振舞われた上に更に大量の褒美を貰い、本来は皇宮に呼ばれる事などあり得ない立場である親子は父亡き後やっと幸せになった様だ。


 子供は家に戻っても暫く興奮で舞い上がっていて、苦労が報われた事で幸せになれたのだろう。



 皇帝に『もっと詳しい精霊の話はないかい?』と直接お願いされた子供は、思い出しながら記憶を遡りつつ僕の事を興奮気味に話す。



 母親が遅くまで仕事で帰ってこれなかった日に寂しくて泣いてしまった時、精霊の蜥蜴さんや、水の女の子にノームさんと呼ばれる土の精霊さんと一緒に追いかけっこして遊んだ事。



 母が早い時間に家にいない日は寂しくてどうしようも無くなって泣いてしまう時がある。


 でもシルフさんと呼ばれる精霊さんに、母親の働く冒険者ギルドの屋根の上まで飛ばしてもらって空を飛んだ事。



 以前、ダンジョン探索中に事故に遭いこの国に飛ばされたのは、全て金に目が眩んで同行した馬鹿な貴族がやったと言う事。


 この世界の冒険談より遥か前の異世界の話……魔法が無く、魔物がおらず、科学が発達した世界。


 僕はやらかした!母親のことを案ずる幼い子だと安心したので、この女の子に見せたり話していたのだ。


 僕の力や身の上を……そして、何よりこの世界以外の事を…


 その事を子供に聞いて知った皇帝は、翌日ギルドマスターを呼んでこっ酷く叱ったらしい。


 そして、当然皇帝から事実を聞いたギルマスは、眼を見開き開いた口が閉まらなかったらしい。


 そのギルマスが送る散々な一日の事を僕が知るのは……まだ先の話…。

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