手違いで異世界に強制召喚されました!
ZOMBIE DEATH
OP第一話 「異世界は思ったほど甘く無い」
「居たか?まだ見つからないのか!?グズグズするな」
偉ぶった声が響き渡る……その声の主は貴族の様で非常にお怒りの様だ。
「おいお前!向こうは虱潰しにしたのか?まだなら早くしろ!全く使えない奴らだ!」
怒声を発した男は、更に周囲へ怒りをぶつける……
「いいかお前等……此処までしてアイツを逃しでもしたら……タダで済むと思うなよ?」
「街の外への門へ部下をやりました!見つけ次第連行してくる手筈で、他のギルドにも部下を送ってます」
貴族の罵声に応える様に騎士達の報告が返され、そう報告を終えると一歩下がる。
そして代わりに他の者が報告する……
「最早アイツはこの街からはもう出られません!ダンジョンから手に入れた財宝が手に入るのは確実です!」
「第二兵団報告します!命令通り冒険者ギルドの奴らを多数金で雇いました。行きそうな場所には兵を配置済みです」
そんな間の抜けた会話が、冒険者ギルドの中で大きな声でされている。
貴族の男は、間抜けな報告をした者に向けて、手に持っていた酒の入ったコップを投げつける……
そして『馬鹿かお前は!!街から出られないだと!?その財宝のポーションを使われたりしたら、元も子もないんだよ!!だから兵を使ってるんだろうが!?』と言いながら、兵士に怒鳴り怒りを露わにした。
「それに!!他の貴族共が手を出す前に、どんな手を使っても手に入れるんだよ!」
そう言った男は、『あのポーションを俺の名で皇帝陛下へ献上すれば、俺の爵位だってもっと上がるんだ!グズグズするな早く持ってこい!このダンジョンの秘宝……噂の秘薬を!』と言って、大声で指示を出す。
冒険者ギルドの中にも拘らず、貴族の罵声は終わる事無く続く……
◆◇
僕は今日、全く知らない国にある一つのダンジョンを踏破した。
そして今は?というと……
そのダンジョンのシンボルとも言える財宝を狙う、鬱陶しい貴族から追われていた。
そもそもダンジョンに入った理由は、踏破や財宝が目当て等ではない。
薬の材料の採取が目的だったからだ。
僕が潜ったダンジョンに自生する草花には、特別な作用を持つ物が多い。
その草花が世話になっている子供の母親の病を治すのに必要だったからだ。
僕は独り言をこぼす……『参ったなぁ……薬の素材をとりにダンジョンまで来たのは良いけど、ついでに踏破なんかするもんじゃないな!煩くて敵わない……それに20階層で終わりなら入り口に書いておいてくれないと』
此処は、この国で一番有名なダンジョンだった。
しかし採集する階層は比較的浅い。
ソロでもいけると思って、階層主の部屋を覗いたのが失敗だった……
『とにかく早く帰って、あの子の母親に早く薬を作って渡してあげないとな……。待てよ……秘薬を手に入れたんだから……これでいいんじゃないか?』と独り言を呟きつつ、先を急いだ。
その道中、僕は何故こうなったのか思い出しながら親子の元へ急ぐ。
手に入れた薬は、調べた限り効き目は確かだった。
そして、世話になっている家族の母親は、ダンジョン探索で怪我して片足を無くしていたのだ……
非常にタイミング良く、いい物を拾ったのは確かだ
ちなみに僕は逃げている訳ではない。
スラム街に住んでいる家族に、お礼の薬を作る為に戻っただけなのだ。
ダンジョンを出る時に貴族様に呼び止められたが、無視したのが追われる原因かも知れないが……こっちにも急ぐ理由の一つくらいはある。
何がどうしてこうなったのか……
ひとまず取り敢えずギルドに帰ったあたりから、自分の行動を振り返ってみる。
◆◇
「今戻りました。今回も大収穫ですよ。悪いけど……ギルドで拾得物を買い取ってくれないかな?」
僕がそう言うと、ギルドマスターは職員との打ち合わせの最中だと言うのに、話そっちのけで歩み寄る。
「おお、お帰り!今日も無事だったか!?今日も沢山ありがとうな!お前さんのお陰で、新人冒険者の死者に重傷を負う確率もかなり減った。本当に助かるよ!それはそうと……お前さん…」
ギルマスは、『まさかとは思うが……ダンジョン踏破したのは……まさかお前さんじゃないよな?ダンジョンの衛兵から階層主の討伐報告がさっき来たんだ。ダンジョンが休眠に入ったとな!』などと、言葉をためて歯切れの悪い聞き方をする……
どうやら既に連絡が来ている様だ。
ダンジョンに変化があって、ギルドの中でも誰が討伐したのか話題になっている様だった。
「一番先行してたのはガルムのパーティだったが、戻ってない以上あいつらじゃないって話でな……」
ギルマスはそう言うと、『帝国軍も入っていたから、踏破は奴等かも知れんが……な。まぁ半日程で最下層の主は再生するから、次はあいつらだろうな』などと、ダンジョン内部を熟知しているとばかりに僕に説明をした。
ギルドマスターは買取用の装備品やアイテムに目を通しながらも、それとなく僕に確認してきた様だ。
冒険者の管理や依頼の管理をする職務上、最重要事項のダンジョンの主の討伐に関しては、何を差し置いてでも把握しておく必要があるのだ。
僕はギルマスに説明をする事にした……
それが冒険者の決まりでもあるからだ。
「そうそう!実はダンジョンアイテムの買取もあるんだけど、今日来た目的はその討伐報告に来たんだよ」
そう言った僕は、ギルマスに詳細説明をする……
スラムの親子に衣食住の面倒みてもらってるお礼を兼ねて薬の素材集めにダンジョンに行ったが、素材がなかなか見つからなく仕方なく深く潜った事を話す。
「素材を手に入れた場所が偶然に今日は最下層でさ。手に入れたから帰ろうとしたんだけどね。階層主の部屋みたいなのがあったから、入った迄は良かったんだけど!部屋から出られなくなっちゃったから……倒しちゃったんだ」
僕はその時の状況を詳しく説明した……
申し訳なさそうな素振りをする事は忘れない……何故なら怒られた時の為だ。
呆れ気味のそのギルマスに、ダンジョンボスの討伐時のその時の情報を話す……
「ボスが再生するって言ってたけど、此処は他のダンジョンと違うのかな?確かに全身が灰のようになって崩れたかと思ったら、そこに宝箱が落ちてたんだ」
そう言った僕に、『お前な……あれだけ俺が新人に注意してるのに、聞いてなかったのか!?』と呆れ気味だが、しっかりとした口調でお小言を言い始める……
「あのダンジョンの各階層の主部屋は外から中が伺えるが、最下層だけは他階層のそれとは様子が違うんだ……と何度も言ってるんだぞ?」
ギルマスは、小さい子供へ説教する様に更に話を続ける……
「最下層も含めて用意もしくは確認は、必ず部屋の外で!と……俺は何度も言ってるぞ!?」
ギルマスはお小言を続けるが、本音で言えばソロの僕が階層主の部屋に入るとは思いもしなかったらしい。
その説明では、『灰のダンジョン』と呼ばれる特殊なタイプの場所で、主は今まで『完全』に討伐された事は未だかつて無いらしい。
僕が見た様に、どういう訳か討伐後に全身が灰になる様だ。
しかし一定時間でそのボスは煙状になり、リポップするらしいのだ。
ちなみに、その情報を10年程前に部屋で監視したパーティーの一人がギルマスだと言う事だ。
そう話したギルマスは難しい顔になり、現状のダンジョンの様子を説明する……
「アイツを灰にせずに完全に倒す事ができれば、ダンジョンは無くなると言われている。だが倒せないので、ゆっくりとだが着実に深化が進んでる……という訳だ」
ギルマスが潜ってた時はこのダンジョンの最下層は17階だったそうだ……
しかし10年で3階層増えた様で、深化は他のダンジョンより遥かに遅い。
それは主の討伐が、優秀な冒険者や騎士団によって頻繁にされている証拠だろう。
一通り説明を聞いた後、ギルマスが僕の耳を掴んで言う……
「今はそんな事が問題では無い!!お前は一人で行動するなら、それなりの自覚を持て!」
……と言う感じに踏破報告をしたら、しこたま怒られた。
今いるこの国では、踏破した冒険者はギルドへの報告義務がある。
だが得たアイテムの申告は、その限りでは無い。
ダンジョンで手に入れた物は所有者の物と言うのが冒険者の鉄則だ。
僕は踏破を伝え義務を果たしたが、ついでにダンジョンボスから取得した秘薬の報告したのだが……まるっと失敗した。
ダンジョンの主のドロップ品は、悪辣貴族達が喉から手が出るほど欲しい物だった。
冒険者ギルドには、踏破情報を逃さない為に貴族達の息のかかった者が少なからず居る。
ポーションの存在が貴族に知れ渡ると、すぐさま悪辣貴族は自分の私兵がダンジョンを踏破したと言い張った………
そして、彼等に雇われた僕が『秘薬』を持ち逃げしたと冒険者ギルドへ『偽の通報』をしたのだ。
しかし、悪辣貴族達の日頃の行いだろう……
ギルド職員はそんな彼等の言い分をまともに取り合わない。
僕はダンジョンで手に入る物のほぼ全てを、この冒険者ギルドで買取してもらっていた。
だからこそ職員や、ここを利用する冒険者は僕がそんな事をしない事を知っていた。
そもそもソロで潜っていた事を度々此処の冒険者に目撃されていたので『発見時には即刻要注意』の対象だった。
僕がわざわざ買取価格の安い冒険者ギルドに持ってくるのは、この国に来た当時困っていた僕を助けてくれたからだ。
そして、それにもう一つ付け加えるとしたら……
『経験の浅い冒険者はろくな装備もせずにダンジョンに潜る……そして死んでしまう。この負の連鎖をどうにかできないか!』
……と、ほぼ毎日ギルマスが酔っ払う度に大声で叫んでいたからだ。
冒険者が2日や3日は帰ってこないのはダンジョンに潜る以上当たり前だ。
更に新人冒険者は決まって無茶をする……
引き際が分からないせいで逃げ損ない大怪我を負う場合が多く、最悪の場合ダンジョンから永久に帰ってこれない。
それをどうにかする為に、日々ギルドマスターは悪戦苦闘していた。
だからこそ、僕も出来る限り協力する事にした。
具体的にはダンジョンで手に入れた装備品の売却。
そしてダンジョンで発見した怪我人への薬の提供が主だ。
ちなみに、配布している薬の作成者が僕である事は、それなりの理由があるにで伏せている。
今回ギルマスに見せた財宝は『奇跡のポーション』と呼ばれているらしく、如何なる状態異常も祓い身体の深い部分から癒す事で、寿命までも数十年伸ばせる秘薬らしい。
その上失った欠損部位が有れば、再生までする夢の様なポーションだ。
この国に古くから語り継がれていて、このダンジョンでも滅多に見ることの無い秘薬だそうだ。
しかしながら、ここ暫くはダンジョンから持ち帰ったとの報告はされていないらしい。
その実物を見たギルマスは…
「それにしても……とうとう踏破したのか……。それもソロでだと?規格外も此処まで来ると、素直に笑えないな………」
……と言っていた。
因みにこの秘薬はギルドでは買い取れないそうだ。
買い取り希望の場合は、鑑定の上で国庫から金を支給するのが、秘薬に対しての一連の流れの様だ。
勿論だが、ギルドに在籍する冒険者などには払うだけの金は無い。
唯一の望みは、国が認定する上級冒険者が買えるぐらいだ。
だが彼等と連絡を取る手段がない。
どっかの国で依頼を受けているだろうが、大概は依頼が終わり次第すぐに出て次の場所へ行ってしまう。
前もってギルド全体へ連絡しておくしか方法がないが、まともに返事が来る確証はない。
ギルマスの秘薬買取説明は、そんな感じだった……
しかしギルマスは別の注意を促す。
「性根の腐った貴族共はこの秘薬が欲しい余り、食い詰め者の傭兵共を雇って襲わせるかもしれない」
そう言ったギルマスは『お前は外で十分気をつける様にな!』と注意を促す。
真面目な顔でそう言ったが、考えた顔をした後にギルマスが言葉を付け足して言い直す。
「まぁ……ソロで20階のダンジョンの主を倒す様な奴に襲いかかる馬鹿は……此処のギルドにはいないけどな。しかし貴族のバカ共はお構い無しにやらかす筈だ!」
そのギルマスの言葉に、周りの冒険者達が声を合わせて言う。
「おいギルマス!ここに仲間を襲う馬鹿はいないぞ?それに彼には俺たちどれだけ助けてもらったか……」
「そうよ!そのポーションだって、どうせ誰かにあげる予定なんでしょ?既にすっとぼけたそんなツラしてるもの……」
「貴族の馬鹿どもは儂たちに任せとけ!上手く撒いとくからのぉ!」
「お前なら平気だろうが……間抜けが致命傷だ!とりあえず気をつけて渡してこいよ!だがくれぐれも俺を除け者にして、街で暴れないでくれよ?ガハハハハハ!!」
そう口々に言われて、僕はギルドから送り出された。
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