第14話 さよなら……

 僕らは三年に進級し、榊原や清水と別々のクラスになった。


 あの体育倉庫で清水の告白を聞いて以来、僕と清水の関係はギクシャクしたものとなり、廊下ですれ違っても視線すら合わせることはなかった。


 僕は決して清水のことを嫌いになったわけでもないし、気持ち悪いとも思ってもいなかった。どうしていいのか、どう答えればいいのか分からなかったんだ。


 ただ、戸惑った。


 それだけだった。


 でも清水もそんなふうになることを覚悟の上で、僕に告白したんだろう。


 僕を置いて体育倉庫から出ていく清水の寂しげな表情が今でも頭の中から離れない。


 そんな僕と清水の関係に榊原は訝しんでいたが、そのうちに元に戻るさと笑いながら言っていた。


 僕は、清水を受け入れてやれる日が来るのか分からなかったが、それでもそうでありたいと思った。


 清水は僕の大切な友達だから。


 


 


 アイは泣き腫らした目をしていた。


 それでも、無理に僕へと笑いかけるその姿が痛々しく、またとても愛おしかった。


 清水が僕との会話でアイを認識し受け入れたことで、アイは清水と繋がったんだろう。だから、僕と清水の間にあったことの一部始終を知ってしまったんだと思う。


「私を見つけてくれたのね」


 アイは、何も言わずにただ立ち尽くしているだけの僕へゆっくりと歩み寄り細く華奢な両腕で僕をふわりと包んでくれた。


 アイの温もりが僕へと伝わってくる。


 そして、僕の肩へ頭を預けるとぽつりぽつりと僕に聞こえるくらいの声で喋り続けた。


「私はもう一人の私と繋がれた」


「外の世界が見える」


「あなたのおかげよ」


「でも、あなたとこうして会えるのも今日が最後みたい」


 僕の洋服がアイの流す涙で濡れていく。しばらくそのままでいると、アイの体がほわりと明るく光だした。


 小さな光の粒がアイの体から流れでていく。きらきらと輝く光の粒がとめどなく流れ出ている。アイの体がまるで蜃気楼のように儚く脆く消えていくのが分かった。


 頼む行かないでくれ。


 僕を置いて行かないでくれ。


 僕はアイを抱いている腕に知らず知らずのうちに力が入っていた。


 するとアイは顔を上げ、その桜色をした綺麗な唇を僕の唇へ重ねた。


 唇を離すと、僕の顔を見つめている。その顔は涙でぐしょぐしょに濡れていたが、とても幸せそうに笑顔の花を咲かせていた。


「さよなら……愛していたわ」


 そして僕の腕の中にアイの温もりを残して、消えていなくなってしまった。

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