真のボス

「どうも、浦島太郎です」

「わたくしは講師の亀でございます。おや、浮かない表情ですね?」

「普段は明るく振る舞ってる俺だけど、乙姫に呪われた件を思い出すと、正直今でもやり切れない気分になるんだ」

「わかります。秋は人肌恋しい季節ですから、アンニュイな気分になってしまいますよね」

「俺、竜宮城にいる間、本当に楽しかったんだ。地上では冴えない漁師で、誰からも相手にされないのに、乙姫はそんな俺を笑顔で肯定してくれてさ。正直、ずっとここにいたいって思ったよ。あんな感情は初めてだった」

「それなら何故、急に帰ると言い出したのです?」

「それはほら、しばらく家を空けたら、ガスの元栓とか気になるだろ? 玄関に新聞がたまってるかもだし」

「現実的……」

「と言いつつ、いったん家に帰って、プロポーズの指輪を用意する予定だったんだ」

「やだー、サプライズ」

「だから、帰りたいと申し出た時、詳しい理由は乙姫に伝えなかった」

「それで乙姫側は、一方的に捨てられたと勘違いしたわけですね……」

「俺、悪くないよな!? 乙姫のことずっと好きだし! 単にサプライズが大失敗しただけだし!」

「まあ、仮に相思相愛でも、すれ違いで縁が切れてしまうのは、現実の恋愛でも結構よくある話なので……」

「ちくしょう、やってられねえ!」

「ヤケになる必要はありませんぞ。乙姫を利用して、善良な若者から精気を集め、竜宮城の結界化を計画した真のボスが他におります。まあ、わたくしなのですが」

「亀が黒幕……だと?」

「そもそも変だと思いませんでした? 亀が浦島太郎の恋愛を応援するなんて、何か特別な理由があるに決まっています」

「しかしお前、言うほど俺の恋愛応援してないよな……」

「してますよ!? 乙姫経由で、わたくしにどんどん結界エネルギーを貢いでくださいね。ファイト!」

「わかった。適当に頑張るよ」

「以上、亀と浦島の恋愛講座でした」

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