シェリーとブルー・ムーン

「どうも、浦島太郎です」

「わたくしは講師の亀でございます。浦島殿、ぶぶ漬けでもどないどす?」

「なんだと、失礼だな!」

「どうして怒るのですか?」

「だって、お茶漬けをすすめるのは、迷惑な客にさっさと帰って欲しいっていう合図だろ?」

「京都にはそのような風習があると聞きますね。ところで、似たような例はカクテルにもございます。相手にしつこく口説かれて迷惑な時は、ブルー・ムーンを頼むというものです」

「ブルー・ムーンって、名前はロマンチックだけどなぁ」

「はい。青というより淡い紫色で、とても上品なカクテルなのですが、ブルー・ムーンには『あり得ないこと』『できない相談』という意味がありまして……」

「それで、お断りカクテルになったわけか」

「デートで注文されてしまったら、ショックですよね」

「逆の意味のカクテルはないのか?」

「正確にはカクテルではなくワインですが、シェリーを注文するのは、女性のOKサインと言われておりますぞ」

「おお!」

「シェリーは、スペイン南部で製造されている酒精強化ワインです。この地域はヨーロッパの中では温暖ですので、酒精を添加することで、酒の保存性を高めたと言われております。となれば当然、普通のワインよりもアルコール度数が高いわけで……」

「飲んだら酔ってしまう、と」

「はい。女性が自分から注文する場合はシェリー、男性が女性を誘う場合は、ポート・ワインが定石とされております」

「なるほど」

「誘いに乗る気がなかったら、ポート・ワインは断って、先程言ったブルー・ムーンを頼んでください」

「静かな攻防戦だな」

「とはいえ、万人がこの習慣を知っているとも限りませんし、デートの際は深く考えずに好きな酒を飲むのがよろしいでしょうね。ささ、浦島殿、ぶぶ漬けお食べやす」

「結局、食わされるのか……」

「もちろん帰って欲しいという意味はなく、純粋な親切ですぞ。以上、亀と浦島の恋愛講座でした」

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