第23話:雇用条件

「そうは申されますが、侍女や侍従は譜代家臣が務めてくれますわ。

 信用できるかもわからない者を側近くに仕えさせるわけにはいきませんの。

 導師殿がどうしてもと言われるのでしたら、従僕や下女として一時的に雇わなくもありませんが、同じ学院生にそんな待遇はお望みではないのでしょう」


 エラの機嫌は最悪だ。

 普段は身分が下の者を蔑んだり虐めたりするような性格ではないのだが、今回はよほど腹が立っているのだろう。

 こんな状態ではとても学院生を院生を召し抱えるわけにはいかない。


「そうですね、学院としてはそんな待遇を認める訳にはいきませんね。

 残念ですが、あの子達には諦めてもらうしかありません。

 少々危険ですが、魔境で狩りをして授業料を稼いでもらうしかありませんね。

 貴級魔術師になれる才能のある学院生に危険な真似はさせたくないのですが、レベルが上がるほど授業に必要な素材が高価になりますし、仕方がありませんね」


 惜しい、とても惜しいな。

 貴級魔術師になれる才能のある若者など滅多にいない。

 才能のある者が集まる学院でも、それほどの才能を持った者は極少数だろう。

 そんな若者を囲い込める機会を逃したくはない。

 逃したくはないのだが、エラの機嫌を悪くしない方が俺には大切だ。

 どうしても強い家臣が欲しければ傭兵や冒険者を雇えばいいしな。


「ノア様、エラ様、その学院生達を傭兵団で雇ってもいいでしょうか」


「おい、おい、待ってくれサイモン殿。

 魔術師なら傭兵団よりも冒険者が仲間に入れる方が役に立つ。

 魔境で狩りをして素材を集めたり授業料を稼いだりするというのなら、俺達の方が助けてやれる」


「ニコラス殿の言う事が分からない訳ではないが、ノア様とエラ様の役に立つように育てるのなら、早くから対人戦を覚えさせた方がいい。

 特に刺客からの防御術を早く教えるべきだ。

 もし本当に貴級の魔術を覚えられるのなら、他家に奪われる前に公爵家に囲い込んでおいた方がいい。

 それには拘束力のない冒険者ではなく、雇用契約が厳格な傭兵団に入れておいて、人物と能力を確かめてから公爵家で召し抱えるべきだ」


 俺やエラを無視して護衛が話し合ってる。

 確かに囲い込むのならサイモンが言っている方法が一番だろう。

 だが俺には効率や能力よりもエラの機嫌の方が大事なのだ。

 

「エラ様、ノア様はこのまま公爵家に戻られないかもしれません。

 我々もそれぞれ事情があるので生涯お側に仕えることができないかもしれません。

 今からノア様の盾となる忠誠無比の側近を育てるべきだと思います。

 どうか私に学院生を預からせてください」


「分かりました、任せましたよサイモン」


 あれ、エラの機嫌が直っているよ。

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