第21話:孤立

「ノアお兄様、教室が広々としていていいですわね」


 エラの言う通り教室が広々としている。

 この前馬鹿をやった伯爵家の人間だけでなく、他の院生もいない。

 全員が俺達を恐れで学院に来なくなってしまった。

 まあ、権力を握っていた理事長のベネディクトと執行導師のオーランドが、汚職を理由に学院を追放されたのだから、裏金入学した連中は肩身が狭いだろう。

 まして伯爵家の人間は実家が始末したという噂があるのだ。

 他の院生は俺を怒らせる事のないようにズル休みをしているのだろう。


「実はノア殿とエラ嬢に折り入って相談があるのですが……」


 担任であろう女導師が話しかけたきた。

 学院は担任制なのだよな。

 転入初日から色々あったので、学院の事を全く理解することができていない。

 そもそも講義を聞くのも今日が初めてなのだ。

 その初講義の前に担任が相談があると言ってくる。

 俺とエラは間違いなく問題児なのだろうな。


「なんでございますか。

 真っ当な話しなら何でも聞かせていただきますわ」


「そういっていただけると助かります、エラ嬢。

 実はこのクラスの他の学院生の事なのです。

 理事長達の不正は許し難い事なので、厳格な処分を下しました。

 ですが学院に大金を寄付してくれた貴族家子弟が講義に出てこれない状態は、学院としても見過ごすことができないのです。

 本来ならばこの教室で一緒に講義を聞いてもらうべきなのですが、ノア殿とエラ嬢が怖くて一緒に講義を受けたくないという彼らの気持ちも分かるのですよ」


「まあ、私達の何処が怖いというのでしょうか。

 こんなに慎み深く礼儀正し私達ですのに。

 ノアお兄様には何か思い当たることがございますか」


 エラ、あまり担任を虐めてはいけないよ。

 彼女だって好きでこのクラスの担任になったわけではないのだから。

 まあ、今後の為にも優位な立場を築くための駆け引きが必要なのは分かるが、この担任は追い込むよりも味方につける方がいいと思うぞ。


「いや、特に思い当たる事はないが、貴族家には色々なしがらみがあるのだよ。

 どこでカンリフ王国やハザートン公爵家と敵対する相手と、実家や縁戚が繋がっているかもしれないもしれないのだよ。

 それがはっきりするまでは、同じ教室にはいられないだろう。

 それに、あの伯爵家の者と親しければなおさらだろう」


「そうです、そうなのですよ。

 彼らは学院に来てからずっと同じクラスでした。

 それなりに親しい関係だったのです。

 それをノア殿とエラ嬢に疑われるのが怖いのでしょう。

 そこで相談なのですが、ノア殿とエラ嬢は特別に個人教授をしたいというのが学院の方針なのですが、受けていただけますか」


 俺の用意した助け船に喰いついて今後の方針を話してくれた。

 個人授業か、悪くはないが面白くもないな。

 だが、俺の考えよりもエラがどうしたいのかが大切だな。

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