第166話 赤い染みにご注意
白い布を取り出し、溜まった温泉に浸す。
一分程待ってから引き上げる。
うん、布は真っ赤。キレイに染まっている。
はい、これは非常に不味いですね。
ツキミちゃんとヘカトンくん以外、このままでは温泉に入ると赤く染まってしまう......これは非常に由々しき事態です。
まだだ、まだ諦めるような時間じゃない。試せる事は全て試す。絶望するのはそれからだ。
温泉に浸けた布を絞ってみる。赤い水が抜けていき、布は白さを取り戻していった。驚きの白さ。
なるほど......この血の池の水分は染みになる事は無いらしい。それとも色は見せかけだけで、染める能力は無いのか。
だが、これだけの事で判断するのは危ない。赤く染まったダイフクやピノちゃんも可愛いと思うけど、芸術品並みに綺麗なあの白さが損なわれる可能性はあってはならない。
......おし、夕方頃までは白い布をこの血の池温泉に浸けておこう。
脱水すればいいのはわかったので、後は熱での乾燥と自然乾燥を試す。その結果、布に色が残らなければあの子たちと温泉を楽しめるという結論でいいだろう。
あの子たちを絞る訳にはいかないからね。
温泉......無事に入れるようになるといいなぁ。
◇◇◇
「ただいま」
『『『おかえりー』』』
こんな短いやり取りだけでも充分幸せになれる単純な俺。世のパパたちの悲哀である反抗期。これだけは絶対に来ないでほしい。
この流れのまま甘い時間に突入ッ!!
となると思いきや、現在私は正座させられています。何故だ!!
あ、はい。すいません、集中しますのでお許しください。それで、何故あの黒レーザーを使ったのかを説明しろって事ですね。わかりました。
怒られている原因は新入りのワラビ。異常な質と量の魔力が放出された事にビビり、ガクブルな状態になってしまったからである。
温泉の為に使用した魔道具が、クソジジイのダンジョンでよくあった嫌がらせを思い出させやがった。その所為でプッツンしてしまい、黒レーザーを思わず放ってしまったと弁明。
あんことピノちゃんは「あぁー......」って納得してくれた。このどうしようもない気持ちをわかってくれて嬉しいよ。
ツキミちゃんとダイフクは「???」ってなってる。
まぁわからないよね。首を傾げる仕草がとっても可愛いよ。
ヘカトンくんはワラビを慰めている。微笑ましいのだろうけど、ヘカトンくんの所為でシュールな光景に見えてしまった。
この話をしていて、ヘカトンくんはジジイ産だったんだよなぁと気付く。
今では俺の悪ノr......ゴホン。今では俺の手で生まれ変わったからダンジョン内のアレとは別物でありウチの子と思えているが、最初の頃に名前を付けようと思わなかったのはその所為だったんだね。ごめんね。
とりあえず鳥ちゃんズとワラビに説明を。
「俺とあんこだけだった頃に、お仕事でダンジョンに入ったんだよ。そこで偶然出会ったピノちゃんを家族に迎え入れて、そのままそのダンジョンを攻略したのよ」
さっきまで首を傾げていたツキミちゃんとダイフクが、ウンウンと頷きながら真面目に聞いてくれている。
「それでねー......そのダンジョンが嫌がらせする事に特化していたダンジョンでねぇ......本当に、そこで色々あったんだよ。
あんことピノちゃんが一緒に居たからギリギリの所で踏みとどまれたけど、それでも未だにフラッシュバックしてくるくらいに俺の心に傷を残しているのさ」
......なんか思い出したら心が苦しくなってきた。
俺と同じくあの時の事を思い出した所為で、苦い顔をしているあんことピノちゃんを抱っこし、撫でながら話を続ける。
「それで、今回の温泉魔道具がまぁ......嫌がらせ行為をしてきたのよ。それでラスボスのジジイをぶっ殺した時の技を撃っちゃったというのが、今回の件の真相となります」
話しながらもあんことピノちゃんを撫でる手が止まらない。もっと癒しをください。
「これからもたまに奇行をするかもしれないけど、その時は過去のトラウマが再発したと思ってください。そしてこれは偶によくある事だから、ワラビは早めに慣れてくれ」
撫でられながらも俺を慰めようとしてくれるあんこが愛おしい。俺が今どんな感じになっているのか、自分ではよくわからないけどきっと思わず慰めたくなるような感じなんだろう。
「んっ......多分もう平気。ありがとう」
口をぺろぺろしてもらえたおかげで気持ちが落ち着いた。そんな俺の肩にパタパタと飛んできたツキミちゃんとダイフクが止まる。
この子たちも慰めてくれるのかなぁと思いきや、爆弾発言が飛んできた。
『ダンジョン行ってみたい(行きたい)』
この発言には俺もビックリ。この流れでダンジョン行きたいって来るとは思わなかった。
あ、俺の反応がおかしい訳じゃないのね。あんことピノちゃんもビックリしている。
「えーっと......今の話を聞いて、それでも行きたいと思っているの?」
『うん』『だめ?』
「全然ダメじゃないっス」
......ハッ!?
両方の耳から聞こえる可愛い声と、俺の顔を覗き込むようなおねだりの破壊力に、いつの間にかヤられていた。
なんだこのゾクゾクするような不思議な感覚は......チョロすぎて笑える。あんことピノちゃんの目が、心做しか冷たいのは気の所為だと思いたい。
『いいの!?』『やったぁ』
イインダヨー。
あぁー無邪気に喜ぶダイフクとツキミちゃんが可愛すぎるよぉー。
どうしてこうなったかなんて些細な事だ。可愛いは正義。
さて、これからどうしようか。あんことピノちゃんはダンジョンにいい思い出無いよね。俺もなんだよ。
行く時は全員で向かいたいんだけど、牛がいるからなぁ......誰かお留守番しないと......
『お留守番するから行きたい時に行っていいよ』
どうしようか悩んでいた俺の服がクイクイと引かれ、そちらへ目を向けるとそんな事が書かれたボードを抱えたヘカトンくん親指を立てていた。
トゥンク......いや、おふざけしている場合じゃない。
なんなのよこの子は。いい子すぎて泣けてくる。
「うぉぉぉぉ......ごめん......ごめんよぉぉぉ」
ダンジョンに行く前には一口サイズ系のお菓子をこれでもかと用意してあげるからね。
どうしてあのクソジジイからこんないい子が誕生したんだろうか。世界は謎で満ち溢れている。
◇◇◇
なんとかいい感じに話が纏まり、ダンジョン攻略は冬が明けてからする事となった。
あんことピノちゃんが、ツキミちゃんとダイフクと話をつけた結果、この前の何でも言うことを聞く権利を消費してのお願いという事でケリがついた。
そんな事しなくてもいいのにと伝えるも、ダメだと一蹴。そこらへんの事には結構シビアな判定を降すウチの子たちだった。
そんな事があった後、俺は今ピノちゃんを連れて血の池まで来ている。
ピノちゃんを連れてきてどうするのかって?
申し訳ないんだけど、布の乾燥作業を手伝ってもらう予定だ。
約半日浸しておいた布。どうだー?
一枚目、これは普通に絞る。
ここで色付いていたらもう詰みだったが、絞れば白く戻っていったのでこの水では染まらないと結論に至る。
二枚目、熱での乾燥。ピノちゃん玉で布にたっぷり付着している水分を蒸発させる。
ぐっちょりだった布は瞬きする間に音速で乾燥。残ったのはホカホカな真っ白な布。おけーい。
三枚目、自然乾燥。
そうはいっても夕暮れなので時間が足りない。
ピノちゃんに擬似太陽を作って浮かべてもらい、俺が濡れた布を持って走り、太陽と風で乾燥させる。
それ自然乾燥ちゃう、人力や! ってツッコミは無しでお願いします。
結果、真っ白な布が二枚、ほんのり赤い布が一枚出来た。もうこれは完全に、乾燥したのなら赤い色は消えると結論付けていいだろう。
ピノちゃんに意見を求めるも、俺と同じ意見だった。
そして最悪の場合にはピノちゃんが乾燥機役をやると言ってくれた。
夜になったら温泉に入ろうねと約束し、皆の所へ戻ってもらった。
ヘカトンくん慰労会を兼ねた初の温泉。ウチの子たちにジャパニーズおもてなしを体験してもらおうと張り切る。
懐石料理とは言えないけど、温泉宿っぽい料理の制作に取り掛かった。皆、楽しみにしてね。
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ㅤモチベがぁぁぁぁ......モチベがぁぁぁぁ......
ㅤ書き溜めがゴリゴリ減ってきているのに続きが上手く書けないぃぃぃ......こんな事書いてすみません。頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
ㅤ文才と糖分をください。あと応援も。
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