第155話 お約束
俺を導く羽トカゲが前方をパタパタ飛んでいる。
今俺らが居るのは、どっかのクソ精霊の棲み家を思い出す渦巻きタイプの回廊。ほっそい道なのでトカゲ用の出入口は別にあるんだろう......侵入者用に作られたと思われる細長い道が続いている。まさかあのクソトカゲ、俺のことを騙したのか?
疑わしいけど真偽は問えないから進むのみ......このままだと何日掛かるのかわからない。
ただでさえ寂しさとストレスで、俺のメンタルが暴走モードに突入しそうなのに、こんなん真面目にやってらんないわ。
パタパタ飛んでいる羽トカゲに幻影を掛けて、偽ツキミちゃんか偽ダイフクに偽装すれば、少しは寂しさも紛れるかなぁ......って本気で考えているくらいだもの。
うん......寂しさがやばい。
体調崩してぐったりしてないかな?
俺がいない事を寂しく思ってくれているのかな?
ちゃんとご飯食べて、お風呂も入ってるかな?
ケンカとかはしてないかな?
......心配事ばかりが溢れ出してきて心臓が痛い。悲しい。泣きそう。
俺が居ないことを寂しく思ってくれてなかったら立ち直れないと思う。早すぎる親離れは不幸しか呼ばないからさ、あと最低でも10年は甘えたちゃんのままでいてほしい......
......子どもの成長は早い。そんな刹那の時間の内の一ヶ月程度を俺から奪う原因となったトカゲはやっぱり赦せない。
男子三日会わざれば、刮目してみよって言うくらいだし、子どもなんて一ヶ月も会わなかったら全身にカッ開いた目玉を装備しなくちゃいけないんじゃないだろうか......
......これ以上時間を掛けるのはよくないな。よくない。
ㅤ俺の為にも、ウチの子たちの為にも。
一刻も早くこのリアルドラゴンク〇ストを終わらせないといかん。効率を最優先に考えながら進み、なるべく残酷な方法を取りつつ速やかに滅ぼそう。
移動に時間を掛けるのはナンセンスだ......最短距離で進む。
......がんばるぞー。この洞窟がどうなろうと知ったこっちゃない。
「止まって。目的の場所の方角はどっちかな? グダグダ進むのは飽きたから、これから最短距離を進もうと思う。方角だけ教えてくれ」
意味がわかっていないような反応をしたが、少しの間考える素振りを見せた後に目標地点の方を向いた。
トカゲ独特の感覚なんだろう。偵察とかしてたみたいだし、それ系統に特化してるんでしょう。多分。
通路作成用のブラックホールを前方に展開して歩き出す。吸い込み方や吸い込む力のコントロールが格段に変化しているので以前より楽。練習の賜物ですね......マイエンジェルたちありがとう。
エグいスキルがあっても使いこなせていなかった事をとても反省しています。
......ポカーンとしている羽トカゲをの首を糸で引きながら歩いていく。五分程度歩くと目標地点と思われる場所に辿り着いた。
そこにあったのは魔法陣。きっとここからヤツらの巣へ飛べるはず。
「お前らが俺を騙そうとしていなければだけど、この魔法陣に入ればヤツらの巣に飛べる......でいいのかな?」
訊ねるとコクコク頷くので、羽トカゲを連れて魔法陣の中に入って魔力を流す。
これで騙されていたのならしょうがない。飛ばされた先でジジイを消滅させたレーザーを乱発すればいい。
ヤツらを苦しめる事は出来ないかもしれないけど、消滅させる事は出来る。
さぁ鬼が出るかトカゲが出るか......
............トカゲが出ました。やったね!
飛んだ先には門番と思われるトカゲが二匹。阿吽像みたい......とは言えず、デカい狛犬が二匹鎮座していると言った感じだった。
会話は出来そうなのかなーとワクワクしていたけど、ギャーギャー騒ぐだけで会話不可。騒いでくれちゃったせいでトカゲが大集合してしまった。
手間が省けたのはいいんだけど相当な数が来ているので、殺したあとの回収に手間がかかる......こまめにやるのと一気にやるのの違いなんだけど、デカいから量が多く見えて億劫。
はい、モノグサなだけです。ごめんなさい。
~以下略~
積み上がった故トカゲと、バラバラに散らばったトカゲの破片を糸で一箇所に集める。
よくもまぁこんな穴グラにこんな数のトカゲが引きこもっていたと思うよ。
まぁ来るわ来るわ......マド〇ンドが延々と手招きしている感じ。
ダンジョンを改装しているんなら、システムもダンジョンにしてくれればいいのにと思わなくもない。ドロップ品だけ落ちてくれれば満足。
食いきれないし捌ききれない量のトカゲが収納に仕舞われていく。
羽トカゲは案外順応するのが早く、俺の後ろで取り乱すことなく大人しく待機している。
延々とゴミ拾いをしている気分になり、テンションが下がる。
ドロップ方式ならどんなアイテムがあるかなーってワクワクできるのに......
やっとの思いで拾い終わると周囲を確認。近い場所に隠れているヤツはいないみたいなので休憩を兼ねて一服。
ここからでも見えるデカい穴グラ。入り口にはかなり豪華な装飾が施されているので、なんとなくあそこが目的の場所だと理解できた。
これで御役御免となる羽トカゲ。想定していたよりもしっかり役に立ってくれた。
見逃してあげてもいいかなと思えてきちゃってるけど、遺恨は残さないように徹底的に殺ると決めちゃってるんだ。ごめんね。
もう行っていいよと伝え、逃げるように離れていく羽トカゲを、背後からブラックホールで吸い込んだ。
死んだ事にすら気付いていないはず。ここまでお疲れ様。もし生まれ変わる事があったら爬虫類以外に生まれ変わってくれ。
ここに来て早々モブを殺りまくったし、またこれからモブを淡々と殺っていくのは気分が上がらない俺。
なので本丸から攻め落として、それからモブをジェノサイドしようと思います。
異論のある方は......はい、いないようなのでこれで決定と致します。
敵のボスは武力、カリスマ、はたまた両方を用いてトカゲ共を掌握......したかまではわからないけど、武力とカリスマのどちらも最底辺まで貶めてから殺るつもりだ。
ウフフフフフ......覚悟しておけや!!
「汚物は消滅だァァァァァ!!!!!」
どっかで聞いた事のあるようなセリフを叫びながらゴージャスな穴へ飛び込んでいった。
◇◇◇
糸を鞭のような形状にしながら無差別に周囲へ打ち込んでいく。あの有名な中華ファンタジーの鞭を使う強キャラみたいな技を繰り出しつつ穴の中を進んでいった。
このダンジョンモドキが完全に崩壊して出口が完全に塞がろうが、俺は帰還石で外に出られるので問題はない。なのでガッツリ破壊しながら進む。
破壊音に引きつけられてトカゲ共がやってくるけど、無差別に振るわれる鞭によって瞬時に挽肉へとジョブチェンジ。
ここに出てくるヤツらの肉はもう回収しなくてもいいやと思い、破壊活動を優先。
まっすぐ進んでいたつもりでも何故か少しずつズレてしまうので、時々方向修正しながら探知に引っかかった一番大きい反応へと向けて進んでいく。ダンジョンだった頃の残滓が俺に何かしら影響与えてんかしら......
更に奥へ進むも、相変わらず俺を迎撃しようと突っ込んでくるトカゲが汚ぇ花火みたいに炸裂して死んでいく。
君達は......アレかね......?
人間を見つけたらとりあえず飛び込めって本能に刷り込まれているのかな?
数が減るからいいんだけど、もう少し飛び散らずに逝って欲しい......鞭のお兄さんからのお願いだよ。
そんなこんなでようやく最後の扉が見えてきた。この先はようやくボス戦。
まぁ、馬鹿正直に扉を開けて中に入るなんてお上品な事しないんですけどね。
扉を壊さない配慮という体で隔離。扉以外を全壊させてから隔離を解除し、扉を地面に突き刺して固定。
扉の横からひょっこり半身を出し、ボスの姿を拝見。
この行動に特に意味は無い。相手の神経を逆撫で出来ていたらいいなぁ程度の思い付き。
狙い通りイラッとさせられていたようで、皆さん目付きがヤバい事になっている。
あ、アイツがボスかな?
デカい黒トカゲが偉そうにふんぞり返っている。
......でもなんだろうか......本物の黒龍を見た事があるからか、どうも汚い黒って感じに見えてしまう。
あ、そうそう。これは言っておかないとね。
「見ィつけたァ......トカゲちゃん達ごきげんよう。ようやく会えて嬉しいよォォォ......」
威圧マシマシでそう言うと、臨戦態勢だったはずのトカゲがたじろぐ。
根性見せろやボケェ!!
最初の大将トカゲの方が根性あったぞ!!
ヘタレなトカゲ共に辟易している俺に向け、黒トカゲが「グギャァァァァ」とゴブリンみたいな声を上げながら黒い塊を撃ち込んできた。
「あー......やっべ......」
油断しまくっていたせいで、黒い塊の直撃を許してしまった。
......ように見せただけの俺でした。あんな技程度、直撃してもなんら問題ないので、大分わざとらしくなっていたかもしれない。大根役者とか思わないでくれたら嬉しい。
まぁ、アレだ。お約束と言うやつですよ。
「や、やったか......!?」
「バ、馬鹿な......あれ程の攻撃を~」
っていうあの一連の流れを生で見てみたかったんです。ギャラリーにウチの子たちが居たら出来なかったね。ソロの今だからできる事さ......アハハ......寂しい。
ぐすん......ヤツらのアホ面を早く拝みたいから、さっさと砂埃消えやがれください。お願いします。
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