第133話 マタドール
牛を捕獲してから一ヶ月強経過した。
まぁなんて言うか......本当に色々あったよ。
季節も進んできて冬の気配を感じまくる。下はまだ暖かく、標高の所為かもしれないけど。
最近は畜産家を兼任していたので、遠出とかが全然できていない。だから、今日あたり皆でお出かけしようかなーなんて思いながら朝飯のハニートーストを食べていた訳ですよ。
それにしてもマーガリンorバターに、ハチミツの組み合わせって破壊力抜群。
甘い物で優雅に朝食を食べていたのに、それをぶち壊す闖入者がやってきた。
まだ食べてる途中でしょうがっっ!!
んもう......で、どうしたのかなーヘカトンくんよ。
俺が訊ねると、ホワイトボードを掲げるヘカトンくん。
『うしたたかう』
......あー、そゆ事ね。でもさ、朝っぱらからじゃなくてもいいと思うの。
朝早い動物は鶏だけにしてくれ。
朝食を急いで食べ、破れたり汚れてもいい服装に着替える。
そして、牛の待つ決戦の地へと向かった。
ちょっと苦戦するフリをして牛に、もう少し挑むのを我慢して体を仕上げれば、あの人間に勝てるかもしれないて......と、思わせようなんて事を思っていたわけよ。
だけど、なんということでしょうか......応援団が結成されてしまった。
あんこ、ピノちゃん、ツキミ、ダイフク、ヘカトンくんがキラキラした目で俺を見てくる。あかん、もう逃げられない。
そして極めつけは、お嬢様から頑張ってねっと言われてしまった事だ。
どㅤうㅤしㅤてㅤこㅤうㅤなㅤっㅤたㅤ!
こうなったらもう下手な戦いは見せられないじゃないか......見栄っ張りと言われるかもしれないけど、俺の唯一の誇りは戦闘力なんだよ。得意分野でガッカリされたくない!
ぐぬぬぬぬ......観衆は牛とヘカトンくんのみ。
そこで、そこそこいい戦いを演出しつつ勝利って感じをずっと考えていたのに。
愛する娘からの頑張ってって言葉、めっちゃ嬉しい。嬉しいんだよ。魔法の言葉だよアレ。
世のおっさん達ちょろすぎ(笑)ってバカにしてごめんなさい。この一言を貰うだけで、二十四時間戦えちゃうよ。
決戦の地まであと二、三分......【多重思考】さん頼むよ、この状況を乗り越えられる最高の案を俺に授けてくれ!
・牛肉がもっと挑んできたくなる
・マイエンジェルたちががっかりしない
・俺がカッコイイパパでいられる
さぁ考えろ......
この三つを同時にクリアする方法を。
知恵熱が出るくらいに、考えて考えて考え抜くんだッ!!
......運動会で異様に張り切るパパンの心境だよねコレ。ハハハッ。
◇◇◇
あっさり到着してしまった。
結論......程よい苦戦とカッコ良さの両立は無理ゲー。
少年漫画の主人公のような伸び代なんて、もう俺には無いもん。覚醒演出なんてモンは、初めての人里直前にこなしちゃったよ!!
......はぁ......さて、俺の目の前には殺る気に満ち溢れているボス牛さん。その奥にはギラついたオス牛。
メス牛や仔牛は残念ながら応援に駆けつけなかった模様。
それで俺の後ろからは、とても......いや、とーーっても可愛い声援が飛んできている。
こうなったら仕方ない。
エンターテインメント性を見せながら、ボス牛を圧倒しようと思います。
舐めプだけど舐めプに見えない、でもよく見たら少しだけ舐めプ。
赤い布を用意します。
ヒラヒラさせます。
ひらりと身を躱します。
それを何度か繰り返します。
そうだね、闘牛だね。
あーいああーいえびばで闘牛。
さぁかかってこいやぁ!!
興奮したボス牛が雷を角と体に纏いながら突進してくる。
しあんは ひらりと みをかわした▽
以下略。
何度もマタドールを繰り返し、疲労が見え始めたボス牛渾身の突進を受け止め、角をへし折ってから首もポキリ。
ボス牛よ......安らかに眠るがよい......
ヒラヒラさせるのに使っていた赤い布をボス牛に被せてから収納に入れる。
ギャラリーのオス牛たちは呆然としているので、心を折ってしまったかなと心配になる。
しかし、一頭の牛がモーモーと声を発した後、ヤツらは妙に力強い足取りでコンテナへと戻っていった。ネクストボス牛はアイツに決まりかなー。
この様子なら、ヤツらはまた挑んできてくれそうで一安心。
向上心がある=
◇◇◇
ヘカトンくんに牧場を任せて拠点に戻る。
ちゃんと子どもたちにカッコイイとこを見せられたと思う。
拠点に帰った後、赤い布のアレをやりたいとおねだりをされ、ノリノリになったあんこと闘牛ごっこを楽しんだ。
遊んでいる内にあんこの喜ぶ事がわかり、それを実践。布にバフッと突っ込むのが気持ちいいらしく、それをやると喜ぶのが可愛い。
ヒラッと躱すとムクれる。だがそれも可愛いからズルい。萌える。
あんこの楽しむ姿を見てムラムラしてしまったのか、残りの三名も参戦してきた。
ピノちゃんのロケット頭突き、ダイフクのドリルくちばし、ツキミのそらをとぶ、あんこのでんこうせっか。
多種多様な攻撃を布で受け止めていく。
赤い布のままだと耐久性に難ありなので、全員参戦してきた辺りでアラクネ布にチェンジ。
魔力を流して超強化した布を使いながら、二時間ほど休日の家族サービスを楽しんだ。
俺にとってもこの子たちにとっても充実した時間だった。
満足してくれたらしく、現在芝生っぽい箇所の上でゴロゴロしている。
この姿を見るために生きているようなものである。あいらぶゆー。
まったりモードに入っちゃったエンジェルス。ちょっと寂しいけど、本日やるべき事を終わらせちゃおう。
と言うことで、最初にやる事は敏感メイドちゃんとメイドさんを喚ぶこと。
喚ばれる事がわかっていた敏感メイドちゃんはあまり驚いてくれなかった。でもいつ喚ばれてもいいように、準備を整えて一時間くらい待機していたらしい。すいません。
敏感メイドちゃんと話をしていると、メイドさんがなにやら不機嫌になっていて腹を小突いてくる。
どうやら言いたい事があるらしいので、一度話を中断して拝聴。
昨日さっさと返された事と、駐在の役目をポッと出のメイドにかっ攫われたのが納得いかない......などなど。
要約すると、そういう話をするのなら一番付き合いの長い私からじゃないのかって事らしい。
一応君は王女付きでもあるから、ガチの専属はこの子だけじゃないのか......という反論をしたところ言葉に詰まる。兼任のままだった自分と、人事を恨みなさい。
ムクれちゃったメイドさん。
可愛いっちゃ可愛いんだけど、さっきのあんこを見ているからトキめかなかった。すまぬ......
ご機嫌を取るために王女さんたちも喚んで甘い物タイム。秋から冬になりかけている肌寒い気候になってきているのであったかいおやつを。
はい、取り出したのは黒いクマでお馴染みのあの県名物いきなり団子。
ちょっとひと手間かけて蒸してから提供。出来たてアツアツのいきなり団子は神。
アツアツホカホカの状態で出てきてくれてもいいのに......なんで出ないんだろう。
もっちもちの団子らしい部分と分厚くカットされたサツマイモ、とどめに餡子。
この組み合わせで不味くなるわけがない。
現金なもので、先ほどまでプンスコしていたメイドさんは陥落。他二名は言わずもがな。
敏感メイドちゃんもニッコニコ。
よし、許されたな!!
食後に解体よろしくと、ボス牛の亡骸を渡す。牛革と後ろ足一本を報酬に設定。
そしてボス牛の角も渡す。
青白く、軽く発光している。戦闘状態の時にへし折ったのがよかったんだろうか......これで何か作ったらいい物が出来そう。ちょっと帯電しているけど、頑張って加工してほしい。
あぁそうだ......今度一日アラクネ国に行かないと。ベ〇リットをネックレスに加工したい。
金属と宝石の扱いが上手いアラクネを選出しておいて欲しい事も伝えた。
一度肉を持たせたメイドさんを送り返し、夕飯までに解体が間に合うように頼んだ。
ゴロゴロしていたあんこたちが合流してきたので、王女さんとメイドにお世話を頼むと、敏感メイドちゃんを連れて牧場の方へ進んでいく。
もう一つコンテナを召喚。
同じように藁を敷き詰めて仕切り板を設置。牧場の入口に近い所に、新コンテナを置く。
この子、多分オス牛に負けるからね。仕方ないよね。
牧場内ではヘカトンくんと一緒に行動する事を厳命。
その後は妊娠した牛だけをお引越し。なるべく気にかけてお世話してあげてほしい。
この子の寝泊まりは......拠点のキャンピングカーの空いてる部屋を使わせればいいか。
万が一知らない時にモンスターに襲われて死ぬ......なんて事があったら悲しいもの。
ㅤ説明を終え拠点まで戻り、お使いを済ませたメイドさんを加えてお茶会を楽しんだ。
ㅤ......つもりだったが、大好物の甘い物が全然喉を通らない。それは何故か......焼肉が楽しみすぎるから。
ㅤおねげぇしますだ。時を加速させる能力をくだせぇ!!
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