第109話 これは何肉ですか?
「......俺、何かやっちゃいました?」
爽やかな(当社比)笑顔を顔面に貼り付けて、真顔なメイドさんに話しかける。
ちょっと顔をヒクヒクさせているけど、それでも真顔を崩さないメイドさんに畳み掛けた。
「いやーお肉が楽しみで楽しみで......今日の夕飯の準備はピノちゃんがお手伝いしてくれたんだよ。偉いでしょ?早くお肉食べたいからちょうだいな」
押し切れるか!?
「少し言いたいことがありますので、お肉のお渡しはお待ち頂けたらと思います」
......チッ。
「前にも言いましたよね?こっそり高価な物を忍び込ませるのは止めて頂きたいと」
「受け取って欲しいと思っている俺と、受け取れないと思っている貴女方。
どっちも譲ろうとしないんだから、強引に渡すしかないじゃん。多分結構な価値があるんだし、自国の為に使ってよ。俺は結構アラクネさんたちを気に入ってるから、少しでも役に立てたらいいなーって思ってるんよ」
......これでどうだ。
「はぁ......わかりました。貴方様は強引ですね。姫様から伝言を預かっていますので、お伝えさせて頂きます」
勝ったっっ!!でも伝言って何?面倒になりそうなのはいらないよ。
・アラクネ王家は、シアンにとても感謝している
・国にお越しの際は、国賓待遇でお迎え致します
・私も呼んで欲しい
・必要な物、必要な人材があれば、全力で用意します
・私も呼んでください
・この二人のメイドは特殊な任務を与えたという体になっているので、これからはいつ呼び出しても構わない
......なるほど、アラクネ国に行きにくくなったって事はわかった。
そんでこの二人は、王女付き兼俺付きになったのか。
ある意味これが一番美味しい案件かもね。俺にもメイドさんたちにも。
「わかった。じゃあこれからはいつ呼び出してもいいのね。まぁよろしく頼むよ」
「えぇ、これからはご主人様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
ニヤニヤしながら言うなや。ちょっと良いかもって思ったけどさ。
「いつもそうだと気疲れするからやめてくれ。そういうのは偶に言われるからいいんだよ......」
「畏まりました。それで、姫様の要望は無視ですか?わざわざ二回、それも強調して言うように言われていましたから、その通りに致しましたのに」
敢えてスルーしたのにぃぃぃぃぃぃ!!一応王女様なんだろ?なんでそんなに得体の知れない野郎に絡むんだよ!餌付けか?餌付けのせいか?
あ、違うわ。ウチのエンジェルたちに骨抜きになってるだけだった。
「はぁ......今は喚んで平気なの?後、飯食ってなかったら一緒に食ってく?」
「いいんですかっ!?やったぁ!!姫様は喚んでくれなくて拗ねてましたよー」
白いもちもちを甘やかしながら横からうるせぇ声が聞こえてきた。そんなんだから残念なんだよお前は。
「えーっと、コイツはこう言ってるけど......どうする?それと本当に王女さんは喚んでいいの?」
「本当に申し訳ございません。出来ればご相伴に与りたいですね。姫様は、あちらの言うように拗ねていましたので、喚んで頂けたらと」
「王女さんに出すような飯ではないんだけど......まぁいいか。下品とか野蛮とか言わないでね」
はい、王女さん一名ご案内でーす。
「はい、いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
それなりのイスとテーブルを出して座らせる。ピノちゃんが王女さんをおもてなしするみたいで、王女さんの元へ移動していった。
君たち仲良かったの?
「じゃあ飯の準備をしてくるから適当に寛いでてね。今回は俺がやるから、メイドさんたちも今日はゆっくりしてね。
種族的に食えない食材とか、嫌いな食材とかあったら教えて」
火を熾し、鉄板や網の準備をしながら訊ねる。毒になるようなモンを食わせちゃったらたまったもんじゃない。......今更だけど。
アラクネ種全体では、虫系、蜘蛛系、貝類、トマトがダメらしい。
......蜘蛛の要素はないんだね。目の前で食われたらドン引きだけど。
王女さんは、辛いものと苦いもの。
メイドさんは、生の魚や火の通りの甘い肉。
メイドは、今のところ思い付かないらしい。
よし、それなら問題はないな!
肉の入った袋を受け取り、出した肉を切り分けていく。ステーキ、薄切り、角切り、厚切りには切れ込みを入れて......ステーキ肉と角切り肉は塩コショウして放置、薄切りと厚切りは塩ダレとタレを揉みこんでいく。
こういう大量調理って、下準備してる時にハイになって楽しいよね。人によるだろうけど。
王女さんたちにとりあえず酒を出してみる。ピノちゃんの名前を決める時に出して、そのまま仕舞われていた赤ワインを。
瓶のラベルとかを処理するのが面倒なのでデキャンタに移して提供。警戒心が消えていて、毒味もせずに飲み出した。
こういう世界観だとワインとエールが主流っぽいし、お偉いさん系はワインをがぶ飲みしてるイメージ(偏見)。
アテにチーズを出したからしばらくは放っておいて大丈夫だろう。
十分温まったので焼いていきまーす!もう腹減りすぎてやばい。
焼く順番とか適当でええねん。腹が減って死にそうだからとにかく焼く。焼く。焼く。
こういった下々の者がやるような豪快な料理が珍しいのか、結構前のめりで観察される。こっち見んな。
ツキミとピノちゃんがおもてなし担当をチェンジしたらしく、ピノちゃんが俺の肩に乗っかってきた。
トングを一つ渡して、ひっくり返すのを手伝ってもらう。初めての道具も、器用に糸を使って操作している。
ある一点をジーッと見てるピノちゃんがいたので、どうしたのかと思ってそちらを見てみると、ウインナーをガン見していた。
ひっくり返してごらんと言うと、音速で返した。ソワソワピノちゃん可愛い。
切れ目が反り返ってくぱぁしているのを見て驚いている。
皮の縦割れを防ぐ、箸で持つ時の引っかかり、見た目など、色々理由があるらしい。個人的な好みだけど、ボイルは切れ目なし、焼きは切れ目あり派。
焼かれてパンパンに張った肉棒から、熱く滾った液体が飛び散ると大惨事になるから。目に入ると死ねる。
ピノちゃんは変化が面白かったらしく、他のもひっくり返している。イカを返した時も楽しそうで微笑ましかった。
焼けた物からガンガン皿に乗せて振る舞っていく。この雰囲気や仕様を理解したら、きっと勝手に焼き出したりするだろう。
お肉以外はピノちゃんがやってくれた物で、焼くのもお手伝いしてくれたんだよーとアピールすのは忘れない。
今日はいっぱい頑張ってくれているピノちゃん。お手伝いありがとう。
「とりあえず、もう大丈夫だから好きなのを食べておいで。一緒に作業できて嬉しかったよ」
そう伝えると焼けた物の乗ったお皿の方へ移動していった。
外側がこんがり焼けたステーキをアルミホイルで包んで放置。これは後のお楽しみだ。
俺も焼けたお肉をツマミながら酒を飲む、そして肉を焼いていく。
やだっ......なにこのお肉美味すぎっ!部位によって味が全然違う!
よくわからん。まぁいいや、美味いし。
あんこも、ピノちゃんも、ツキミも、ダイフクも......そして王女さんたちも、皆ガッついている。
こういう場ではお上品さなんてクソの役にも立たないからね。下品でええねん。
たまにはホスト側に回るのもいいかもしれない。この背徳の宴を存分に楽しんでくださいませ。
◇◇◇
皆食いすぎたのか、それとも飲みすぎたのか......机に突っ伏している。
むっつりオウルはメイドの普乳に顔を埋めている。お前......前世はオッサンだろ......
「王女さん大丈夫?水いる?」
「......はしたない姿をお見せしてしまい申し訳ありません。頂けますか?
こういった催しをした事がなかったので、我を忘れて楽しんでしまいました」
王族の飯の風景なんて、作業みたいで楽しくなさそうだもんね。(偏見)
途中から焼くのに参加しだしてメイドさんたちが慌ててたもん。
「ほい、お水。こういうのやる機会ないだろうし仕方ないよ。楽しんで頂けたかな?」
「ありがとうございます。えぇ!!とっても楽しかったです!!うぅぅ......」
勢いよく返事したせいで苦しみだした王女さん。ドジっ子め。
「ならよかったよ。帰らなきゃいけない時間になるまでゆっくり休んでていいよ」
「すみません......ウチの駄メイド共々......」
駄メイドって言い方あるんかい!!まぁメイドさんは酔い潰れてて、メイドは腹いっぱいになって寝ているから、そう言われても仕方ないけど。
「まぁ片方は普段しっかりしてるんだからたまには羽目を外してもいいと思うよ。王女さんも立場を忘れて楽しんでくれたみたいだしね」
ちょっと恥ずかしそうにしている王女さんは、水を飲んで表情を見られないようにした。
「ふぅ、恥ずかしいですが、普通の女の子になったみたいで楽しかったです」
「それはよかった。それじゃあゆっくりしててね」
上の立場の者はやっぱ肩が凝りそうだね。息抜きになったみたいでよかったよ。
後片付けを終える頃にはメイドさん以外は元気になっていて、王女さんは苦笑いしていた。
珍しい場面との事なので、この隙だらけの万能メイドを弄れるネタにと皆で記念の集合写真を撮ってから解散。
周囲を明るく照らす役を買って出てくれたダイフク。メイドからのお願いには従順なのね......
皆大満足の肉の祭典でした。皆口々に楽しかったと言ってくれてよかった。
さぁ、風呂に入ってさっさと寝てしまいましょう!
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