第99話 ダメ、ゼッタイ

ㅤいつものメンツと新たな家族を引っ提げながら、川の上流方面へと歩いていく一家の大黒柱便利屋の俺。



 両肩に乗っているニューフェイス、ツキミとダイフク。重さは全然感じない。

 歩くと羽毛が頬へと触れてくすぐったさを感じるけど、それよりも羽毛の感触が気持ちいい。これはクセになる。

 揺れもあるだろうけど、器用にバランスを取ってくれているから、とっても歩きやすい。もし仮に落ちたとしても、飛べるから問題無いって安心感もあるんだけど。


 俺の腕に抱かれているあんこはいつも通り。もふもふが素晴らしい。

 抱っこされながらご機嫌な様子でしっぽを振っている。愛してるよ。


 ピノちゃんもいつも通り胸ポケットに入っている。サイズアップした事で、ちょっとポケットが膨らんでいるけど、俺には何の問題はない。

 窮屈じゃないのかなぁ?って心配になる程度。顔の部分をヒョコッと出しているのがとってもプリティ。



 さて、山に入ってから結構時間も経ってるし、結構進んでいるけれど、まだ四分の一くらいしか踏破できていないと思われる。



 中腹くらいに生息しているという情報があったけど、前に食ったあの牛はどうやって仕入れたんだろう。


 ダンジョンとかにもいて、そのドロップ品の肉だったりする?まぁいいや、こっちは天然物を改良してあっちより美味く、そして安定した仕入れを行ってやる。

 あんなに美味い肉を落とすモンスターなら、きっとアホほどレアなモンスターでエンカウント率はクソほど低いに決まっている。そうじゃなかったら資料を提供した場所を、この世から消し去ってやる。


 そういえばやってなかったなと思い出したので、この時間を使ってツキミとダイフクのステータスを覗き見させてもらおう。

 さぁて、この子たちはどんな感じになっているのでしょうか。確認中は腕の中のあんこに方向とかを指示してもらおう。


 ▼ダイフクㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ソルホーンオウルㅤ5歳ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 レベル46ㅤ魔力---/---

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 スキル:【千里眼】【無音飛行】【夜目】【直感】【光魔法】▼



 ▼ツキミㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ルナスコップオウルㅤ4歳ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 レベル33ㅤ魔力---/---

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 スキル:【隠密】【無音飛行】【闇同化】【闇魔法】▼



 おぉっと! ダイフクは最年長で、ツキミは二番目なのね。

 レベルは低いなって思っちゃったけど、俺らが異常なだけなんだったわ。基準が狂っているからこれはノーカン。

 種族は名前付けても変わらなかったみたい。成長していけば何か変わるかな?


 さーて、知らないスキルもあったから確認しましょう。スキルの効果はどんなんなのかなー?


 ▼千里眼

 一度確認した事のある対象を、距離に関係なく見つける、見る事ができる

 ただし、このスキルを発動している間は無防備になる▼


 ▼無音飛行

 音も無く、静かな飛行が可能となる▼


 ▼直感

 勘が鋭くなる

 絶対にどちらかを選ばなくてはならない時などに大活躍するスキル▼


 ▼闇同化

 暗闇の中でこのスキルを発動すると、自身と自身に密着しているモノを完全なる闇に変化させる

 同スキルを持つ者、光魔法に長けた者には逆に察知されやすくなる

 発動中は他のスキルを発動できず、光魔法を食らってしまうと大ダメージをうける▼



 ダイフクとツキミが合わされば、絶対にバレない覗きがし放題じゃねぇか!!


 だからあの時見つけられなかったのね。密着ってどれくらいの密着度なのかな?スキルのお試しって言って、密着しながら発動してもらおう。きっと気持ちいいぞー。


 とりあえず【闇同化】と【千里眼】の組み合わせはハンパない。これは理解した。


 そして、これから選択肢がある場面ではダイフクにお願いしておけばいいな。俺も欲しいなそのスキル。


 この子たちはすごい。うちの子は皆すごい。


ㅤヤバいな!閃いてしまったぞ!

 ハッハー!これで肉牛を一度でも確認できれば発見し放題じゃねぇか!どっかにサンプルの肉牛が転がっていないかな?ワクワクが止まらないっ!


 そんな事を考えている間にも、あんこは進行方向を俺に指示してくれている。その指示に従って進んでいったんだけど、なんか甘くて良い香りがしてきた。


ㅤやっぱり直感スキル欲しいわ......近寄る前に気付いていれば......悔やんでも悔やみきれない。


 さっきまでぶち上がっていたテンションが急降下していく。


 テンションが最底辺まで堕ちきって、感情が消え去った俺。


 目の前には桃の木らしきモノが生え揃っていた。


 果物かぁ......ここで果物が来ちゃうかぁ......


 あんこが俺の腕から抜け出して、桃の木へとまっしぐら。


 ピノちゃんと鳥ちゃんズは、桃に対して興味を全く示していない。


 もうあの劇物を食べる必要は無くなったんだけど、果物を見るだけで体が拒否感を示すように調教されてしまっている。


 胃のあたりが締め付けられる感覚に、口の中が梅干しを見た時のように反応をしだす。完全にパブロフってます、本当にありがとうございました......


 あー、あんこはアレを食べたいのかな?毒とかは無いよね?一応心配だから確認しておこうか......


 ▼トリップピーチ

 食べるとキマってしまうピーチで、異常なまでの美味しさ

 毒性や体に悪い成分はないが、中毒性はある

 食べた後は完全にアレな感じになるので注意が必要

ㅤ過去にこの桃を食べてしまい、桃狂いになって破滅していった貴族は数知れず▼



 ............碌なモンがねェなァ!!この世界の果物は!!

 毒性もヤバい成分もないとの事だけど、これは止めるべき案件か?


 まぁ、ここは止めるべきなんだよなぁ......

 ガンギマってるあんこなんて見たくないし、定期的にアレを欲しがるあんこも見たくない......

 美味くて、ただハマってしまうだけなら問題はないんだけどね......はぁ......



「あんこストップ!!それは絶対に食べちゃダメ!!」


 一緒に居るようになってから、これまでに一度もした事のなかったガチトーンであんこを呼び止める。


 あかん......悲しそうにしないでくれよ......

 飴細工で作られたビール瓶並のくそ雑魚メンタルが砕け散りそう......


 はっきり言えば危ない食べ物じゃないけど、ヤバいヤクに類似した症状の出る食べ物はダメゼッタイ!!


「これは食べたら危険なモノだって鑑定で見えたの。だからごめんね、これを食べるのは我慢してほしい」


 珍しく真顔で、本気で語りかける俺に、悲しそうにしながら従ってくれた。

 しっぽが今までに見た事がないくらい垂れ下がっている......もうやめて、俺のライフはゼロよ......


 ギュッとあんこを抱きしめてその場を離れていく。ごめん、ごめんよ。

ㅤピノちゃんや鳥ちゃんズも、なんかしんみりしていて悲しい気持ちが止まらない。果物め......絶滅させてやろうか!!

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 あぁもう、あんこちゃん悲しい顔はもうしないで!後で美味しい桃をお取り寄せするから許してください......

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ガチで涙を流しながら、必死に桃の木から距離をとる。しゅーんとしてるあんこが痛ましくて見ていられない。

 まさかあんこのヤバいモノセンサーを貫いてくるモノがあるとは思わなかった。

 この異世界は罠がいっぱいすぎる。辛い。


 ――匂いが届かなくなる距離がどれくらいなのかわからず、昼休憩すら取らずに移動を続けていき、日が傾いてきた頃になってようやく本日の移動が終わる。

 テントを設置してから夕飯を皆で食べた後は自由時間にして、各々自由に過ごしてもらった。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 食事が終わっても、まだしょんぼりし続けているあんこ。

 抱きしめながら全身全霊で謝ったけど、元気のない大丈夫ってお返事が返ってきた。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「絶対にあの桃が良かった!とかだったらごめんね」ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 とある桃をお取り寄せしてあんこに差し出す。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「俺が前に住んでいた場所で、一番美味しいって評判の桃だけど、これで我慢してほしいな......ほんとにごめんね」

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 桃を剥いて、ひとくちサイズにカットしてからあんこの可愛いお口へと運んでいく。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ちゃんと食べてくれたけど、あんこはこの日ずっと悲しそうにしていて辛かったです......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤ明日になってもしょんぼりあんこが継続していない事を祈る事しかできない無力さを噛み締めながら、一人寂しく横になって目を閉じた。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る