第90話 スライムと交渉

 ゼリー状の丸いものと真顔で向かい合っている白蛇。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 すっごいシュールな画。

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『この生物は食べても大丈夫?お腹空いたんだよね』

『ぷるぷる......僕、食用のスライムじゃないよぅ』

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『そんな事言わずにさ、一口だけ!一口だけでいいから、ちょーっと味見させてよ』

『ぷるぷる......僕、食用のスライムじゃないよぅ』ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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『奥さん......いい体してんじゃねぇか......味見(物理)させてくれよ』

『ぷるぷる......私、旦那がいるスライムなのよぅ』ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 ......ないわぁ。うちの子はそんな事言わない。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 何してるのかわからないのとさっきの悲しさで、すっごい雑なアテレコをして気分を誤魔化そうとちゃったけど、ピノちゃんはあんな事言わない。ふざけんな俺よ。

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 その後は結局傍観する事を選び、「スライムとピノちゃんは何してるんだろうねー」と、あんこをモフりながら待機した。

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 ビーフジャーキーをあーんして楽しんだり、あんバターフランスを食べながら待つこと5分。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 ようやく進展があったようでピノちゃんが戻ってきた。

 あのぷるぷるたちと、意思疎通or会話がちゃんと出来ていた事に驚いたが、結果を聞くことにする。


 さぁ、結果はいかに。

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 なるほど。ピノちゃんがスライムから聞き出した話の内容はこんなんらしい。

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 ・ここの水辺から何故かスライムが誕生する

 ・入口は普段スライムが交代しながら擬態して隠している

 ・入口が見えたのは、本日の担当が強い気配に驚いて逃げてしまったから

 ・お願いですからここのスライムたちと、この環境に被害を出さないで下さい

 ・ここのスライムは、悪いスライムじゃないです

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 なるほどねぇ。

 でもね、もうひと仕事お願いしたいの。

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「ありがとね。でもスライムにあと二つ聞いてきてほしい事があるんだけど......いいかな?」ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 いいよー!と凄くいいお返事を貰った。

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「一つ目は、スライムさんたちを触ってみたから、それの許可を取ってきて欲しいの。

 二つ目は、スライムさんたちの好きな食べ物とか食べてみたい物を聞いてほしい」

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 俺が話し終えるとすぐに、わかったー!と返事をして、先程お話しをしていたスライムの元へ向かっていった。

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 一つ目の事は、誰だってそうしたいと思っている事だと思う。

 あのムチムチしてる魅惑のボディは是非とも触りたいと思っております。出来ることなら巨大なスライムをベッドにして眠りたい。

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 二つ目の事は、ぶっちゃけ賄賂だ。

 俺、異世界で学んだんだよ。意思疎通できる生物は大体食い物で釣れる......と。

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 だから最悪一個目のお願いを断られても、二個目で手のひらスパイラルしてくれると思っている。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 スライムたちが普段から何を食っているのか知らないけど、俺なら多分何が来たとしても対応できるはずだ。

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 スライムとピノちゃんへと目線を移すと、やっぱり無言の話し合いが行われている。

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 微動だにしないスライムと真顔の白蛇。

 テレパシーか何か......俺にはよくわからない器官や能力を使っているんだろうね。

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「あんこはスライムとお話出来たりするん?」

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 気になったから聞いてみた。俺にはパスの出来ているこの子たちとしか意思疎通できない。

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『んー......わからない。たぶん無理かなー』

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 そんなお返事が返ってきた。

 なるほどー、そうなるとピノちゃんってすごいんだね。

 魔物、モンスターと人間(俺)の間を取り持てる有能通訳ピノちゃん。

 これからも大いにお世話になると思いますので、どうぞよろしくお願いします!!

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「そうなんだ。アレはピノちゃん特有の能力かな?すごいねー」

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 モフりながらゆるーく会話を続ける。

 普段は頼られたがりなお嬢様だけど、なんでもかんでもやりたがる訳じゃない。

 ちゃんと分担する事ができていて偉いぞ。

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「通訳みたいな部分は、これからピノちゃんに担当してもらおうか。あんこにも頼れる部分は頼っちゃうからね」


 うん!と、元気よく返事してくれたあんこが愛おしくて堪らない。

 頼るよって所が嬉しかったみたいで、しっぽがよく振れている。

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 いつまでもモフみに浸っていたい所だけれど、ピノちゃんが戻ってきたので正気に戻んなきゃな。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 戻ってきたピノちゃんは、早速聞いてきてくれた事を話し始めた。


 ・自分達なんかに触りたいの......?と、かなりヒキ気味だったらしい

 ・触るのはいいけど、嫌がる子に強引に迫るのはやめてほしい

 ・なんでも食べられるので食事には困っていない

 ・強いて言うならば、魔力の籠った水が欲しい

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 なるほど。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 しかし解せぬ......あのすべぷにボディを触りたいと思うのはヒくような事じゃないだろうが!!ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 嫌がる子に強引に迫ってはいけません。これは理解しております。

 さすがにこんだけ居れば、全てが嫌がって逃げ惑うとか無いでしょ......無いよね?

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 お水の件は......俺もできるけど、水が大得意なあんこに頼りましょうか。

 さっき頼ると言ったばかりだし、多分俺がやっちゃうと拗ねる気がする。

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「魔法のお水を出すのはあんこに頼んでいいかな?俺がやるよりも全然上手にやれるからね」

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 そう言って頭を撫でると嬉しそうに目を細めて「任せてっ!」と頼もしいお返事を頂いた。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 ピノちゃんはどこにどう水を出せばいいのかをスライムから聞いていて、溜池みたいのを作りたいからあそこにお願い!と尻尾で場所を示した。

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 とりあえず俺にも仕事があったみたいで一安心。

 溜池予定地の大きさを火で示してくれているので、後はやるだけだ。

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 ピノちゃん......俺よりしっかりしている。

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 危ないから近寄らないでねーと伝えてもらい、スライム達が十分離れているのを確認してから作業開始する。

 ......スライム達は元から近寄っていないから危なくなんてなかったという事はないよ。うん。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 くらやみ擬きを使い、一瞬で完成。後は水を入れるだけ。

 魔法を発動させた瞬間に、スライム達がキングスライムになる時みたいに寄り合わさっていた......多分俺の魔力にビビったんだろうね......アハハハハハ......


 俺が開けた大穴へと、腕の中にいるあんこが水をガンガン注いでいき、俺の作業と併せて一分程で巨大な溜池が姿を現した。


 さぁ!!これで約束は果たしたぞ!!

 次はお前らが約束を果たす番だ!!!


 ......スライムの塊があった方へ視線を向けると、そこには何も居らず。


 視線を溜池へ戻すと、溜池へとガンガン飛び込んでいくスライム達の姿がそこにはあった。


 ......これどうすればいいの?触れるようになるまで待たなアカン系ですか?


 か、悲しくなんてないんだからねっっ!


 アイツらが落ち着くまで、ご飯でも食べて待とうか......ハハッ......


 俺の欲望の為なのに、よく頑張ってくれたね。ありがとう。

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