第78話 閑話:Tさん
私の名前はタナトス。
ダンジョンのマスターしています。
私は......此処とは違う世界、その中の冥界と呼ばれる場所で生物の死を管理していました。
面倒な相手が多かったですね。
賄賂を渡してきて、死の時期を変えろなどと言う輩がいるが、全て門前払い。
金で長寿が買える等と、思い上がった馬鹿は愚かなものですね。
そんな事が罷り通る世界ならば、金だけしか取り柄のない腐った老害ばかりが蔓延るつまらない世界じゃないですか。
こうして真面目に、そして誰にでも平等を心掛けて働いていただけですのに、頭の固い嫌味ったらしいヤツだとか融通の利かないヤツなど......散々な事を言われていました。
死は誰にでも平等に訪れるモノですのに。それをこちらの都合で弄れる訳がないと言う事を懇切丁寧に説明してあげただけです。
陰険で性格の悪いヤツとも言われていましたが、こちらは自分でも理解しているので特に腹は立ちません。
――そんな私ですが、ある日不思議な出来事が起こりました。
自室で休んでいた私は、瞬きをした次の瞬間、何故か洞窟の中と思しき場所に居ました。
そこには不思議な色の珠が台座に乗っているのがあるだけで、出入口はありましたが不思議な力に弾かれてしまい外には出られません。
観念してその珠に触れてみると、瞬時に私の体と同化してしまいました。
訳がわかりません。
人とは違う高位な存在であると自負しておりますが、そんな私でも抵抗できないモノが有るとは思いませんでした......
その珠が私と同化した瞬間、膨大な量の知識が濁流の様に流れ込んできました。
そして強引に理解させられてしまいました。
私は不老となり、永遠とも呼べる時間をこのダンジョンで過ごさなければならない事を。
どうやらこの場所は、私が居た世界とは別の世界であり、私が死ぬか、ここの次の主が現れない限り......この場所から逃れられなくなってしまったようです。
冥王様......申し訳ございません、今までありがとうございました。
ですが、どうにかしてそちらへ戻れないかを、こちらでも探してみようと思います。
それからは珠から得た知識を利用して、ダンジョンと呼ばれているモノを発展させていきました。
死ぬ訳にはいきませんし、代替わりして自由になれたとしても、この世界から元の世界へ戻れる保証はありません。
なのでこの環境を最大限利用して、世界線を越える方法を探して見せましょう。
幸いにもこのダンジョンというモノは、私とかなり相性が良いモノでありました。
陰険で性格の悪い私は、人如きには決して最下層の私の元へ辿り着けないダンジョンの構築を始めます。
ダンジョンを守るボスには私の知るモンスターを複製できるようなので、力や能力をよく知っている冥界のモンスターをコピーさせて貰います。
本物と比べても遜色ないモノが完成したので、防衛面ではとても安心できます。
この世界屈指の実力者が相手でも、コイツらを倒すのはほぼ不可能と言っていいと思います。
本当はワンフロアに全員を配置したいのですが、一定の力量を越えると配置できなくなるようで、仕方なく分散させて配置していきました。
これは厄介な仕様ですね......
◇◆◇
なかなか上手くいかずに、試行錯誤をしながらダンジョンを発展させていきます......
そして150年程が経過しました。
やっと私のダンジョンが完成です。
厳しくしすぎたら人が訪れません。
ダンジョンを発展させる為に使用する人間の魂の回収が難しくなり、逆に甘くしすぎるとこちらの目的の達成の妨げに。
なので50階層まではかなり緩めの難易度に作成し、50階層から下は私の性格を反映したダンジョンに作り替えていきました。
作った私が言うのもなんですが、常人では耐えきれないダンジョンが完成したと自負しておりました。
耐えられた狂人でも、この難易度では最下層までは絶対に辿り着けないとも。
ここら辺で、私とダンジョンを守るボス達を確認しておきましょう。
―ブエル―
ライオンの頭のまわりに5本の馬の足を持ったヒトデ型のモンスター。
2本足で立ち、5本の足を使って体全体を車輪のように回して走ることもできます。
超スピードで移動し、背後からの奇襲をメインにする厄介な相手です。
この世界に適合したのかわかりませんが、炎を纏う事を覚えたようです。
―アメミット―
アメミットはライオンの身体と前肢、ワニの頭、カバの後肢を持ったモンスターです。天秤の傍に位置し、死者が天国に行けるかを審判します。
人間の心臓が大好物なので、審判を突破することが出来なかった人間の心臓を報酬に働いていました。
―バフォメット―
バフォメットは背中に真っ黒な烏の翼がある牡ヤギの姿をしたモンスター。
魔女や魔法使いたちの集会......サバトを主宰する事を生き甲斐にしています。
生け贄を捧げられ、魔法書を読み、大乱行を行う下品なヤツです。
狂っていますが、魔法使い達の教祖とも言われる実力者です。
―アーペプ―
毒蛇たちの邪悪な力を一身に集めたような性格で、悪魔のような存在です。
闇夜を作り出す闇の支配者と言われる程の実力を持ちます。太陽を呑み日食を作り、世界を闇に包む......といった事もできるらしいですね。
私と争っても決着はつかないでしょう。
―牛頭と馬頭―
頭が牛、頭が馬で人間体は人間の畜生です。残忍で残酷、そして拷問が大好き。
人間を苦しめる拷問道具収集が趣味で、嬉々として人間を襲い、拷問にかける獄卒獣と呼ばれる畜生集団のリーダーです。
頼りになりますが、関わりたくないヤツらですね。
―ケルベロス―
三つ首の獰猛な犬の姿をした冥王様のペットで番犬。侵入者の生肉が好物で、慣れると可愛い子です。
戦闘能力は抜群なのですが少々頭が弱......睡眠や催眠に非常に弱いので、居眠りをしてしまったその隙に、侵入を許してしまったりする困った子です。
―ヘカトンケイル―
50の頭と100の腕を持ち、地獄の門を守っていたヤツです。
50の頭が休憩も見張りも分担出来るので、永遠に見張りを続けられる最高の門番です。
その上、敵を発見すると100の腕で岩石を休みなく投げ続けてくる狂った相手ですね。
―ベルゼブブ―
左右それぞれの羽に1個ずつドクロのマークがついている人型をした蝿です。
地上全ての蝿を操る王で、性格は最悪。
コイツが操る蝿は食べられる物に群らがり、病気や病原菌を撒き散らす汚物です。
戦力は低めですが、人類への脅威度は計り知れません。
一癖も二癖もある厄介な連中ですが、味方にすればこれ程頼もしいと思える方々は中々居ないでしょう。
ダンジョン内にいるコイツ達は、複製であり、私に絶対服従なので助かります。
これらが私のダンジョンを守る守護者達です。
私は物理攻撃と魔法攻撃を無力化するローブと、魂を狩る程強くなっていく鎌が珠から与えられましたので、万が一の事など起こり得ない磐石の体制が出来上がりました。
ダンジョンの事はヤツらにお任せして、私は帰還の方法を探す事に全力を尽くしましょう。
◇◆◇
あれから2000年程度過ぎたと思います。
進展は全くしていません。転移の魔法を覚えましたが、転移魔法だけではどうにもなりませんでした。
情報も知識も圧倒的に足りません。
珠から与えられた知識は、ダンジョン運営の方法と、この世界の基礎知識だけです。
ダンジョンに現れる宝箱から手に入れられる物を使う......という事を考えましたが、私が宝箱を開けようとすると、宝箱が霧散して消えてしまいました。
もちろんダンジョン内のモンスターを倒しても、アイテムはドロップはしません。
ダンジョン運営用の魂を無駄にしただけです。
自給自足するのは無理なようですね......何かしらのヒントになるようなモノが欲しいです。
......どう考えても八方塞がりですよ。
ですが、まだ諦めません。何か絶対打てる手がある筈です!
寿命が消えた私は、この有り余る時間を使ってどうにか糸口を見つけるしかなさそうです。
死を管理していた私が、死から一番遠い場所にいるとは......皮肉なものですね。
◇◆◇
もう、どれくらいの時間が経ったのかわかりません。
時間を忘れて研究に没頭していた私に、衝撃が走りました。
なんと!!
90階層を突破された......と、ベルゼブブの使役する蝿から報告がありました。
何が起きているのでしょう......
しかし、限界まで難易度を上げたあの地獄を突破できるとは思えませんので、98階層を抜けられたらまた報告を、と蝿にお願いをして研究に戻りました。
◇◆◇
......蝿からの報告が来ました。
とうとう98階層を突破し、ベルゼブブの待つ99階層に突入してきたみたいです。
ベルゼブブを倒して、此処にやってくるのは時間の問題でしょう。
私は迎撃の準備をします。
ここまでやって来れた強力な方々が相手だとしても、この装備に守られた私に万が一は起こり得ません。
きっと私を倒す攻撃ができる者は、本物の神くらいでしょう。
◇◆◇
とうとう私の前まで辿り着いた猛者を相手と対峙していますが......
何なのでしょうかアレは。
冥界を占領しようと攻めてくる神を僭称した愚か者共や、冥王様までも軽く捻れるような力を持った青年......それに従魔の犬と蛇の二体。
ダンジョンの魔力が勝手に動いていたという記録がありましたが、バカデカい魔力を持ったこの青年に引き寄せられて同化しようとしたみたいです。
......彼は本当に人なのでしょうか。
幸い彼の攻撃は、私にダメージを与えられません。
しかし攻撃を受ける度に、寿命が縮まる思いがします。怖すぎますよ。
......何をしたのでしょうか。
お互い決め手がないままの状態が続いていましたが、一気に戦況が動きました。
彼の出した魔力の糸に縛られて、私は動けなくなってしまいました。
攻撃は無効化しても、私にダメージを与えない物は無効されないようです。
研究だけに没頭していた弊害です。この防御能力を過信しすぎていました。
おや?彼が何処からか、古びた首枷を取り出しましたね......
ッッ!!!
私の本能が、アレはマズい!!と全力で警告してきていますが、微動だにできません。
魔法で抵抗しようと試みていますが、発動寸前で魔力が散ってしまい、魔法が発動しません。
......これは完全に詰みましたね。無念です。
無情にも私に首枷が嵌められ、私の体から力が消えていきます。
これを使えば、本物の神でも余裕で殺せる代物ですよ......
そんなヤバい物を私なんかに使ってしまっていいのですか?
......あぁ、私でもびっくりするような黒い笑みを、青年が浮かべていますね。
相手が何を言っているのかわかりませんが、なんとなく理解できます。
きっと怨嗟の言葉を吐いている事でしょう。私自身、絶対に挑みたくないダンジョンを抜けてきた彼ですからね。
鎌を奪われ、自由も奪われ、そして力も無くした私は......これからどうなってしまうのでしょうか......
◇◆◇
この青年は人ではありません。
......大悪魔です。
ダメージは少ないですが、物凄い痛みだけを与える槍でギリギリまで此方にダメージを与え、死ぬ寸前に回復させる。
それを何度も繰り返され、流石の私でも限界です。
ダンジョンがこの青年を取り込もうとしていた理由が理解できました。
私よりもイイ性格をしていますね......この青年は。
ㅤ......おや!?
......嗚呼、やっと私を解放してくれる気になったのですね。
バカげた量の魔力が練られていきます。
あの若さでどうやってあれ程の力を手に入れたのでしょうか。
何はともあれ、私はここまでのようです。
この世界で死んでも、冥王様の元へ逝けるでしょうか?
私のような存在を倒して、より強力になる彼を止められる存在はこの先現れるのでしょうか。
おお、これが走馬灯ですね。
フフフ......懐かしい思い出です。
────────黒い閃光に飲み込まれる寸前に見た走馬灯、それが私の心を救ってくれました。来世が頂けるなら......また冥王様の下でで働きたいものですね。
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