第75話 謎空間4

 俺の目の前で、俺の大事な天使が水溜まりになってしまった。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ......ダメだ。全然意味が理解できない。

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 頭が働かない......

 頭が真っ白になってしまうって本当にあるんだな。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 ......まさか殺られたのか?

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 でも、どうやって......?俺達の誰にも感知させずに......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 そんな方法......いや、もうどうでもいいか。

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 ............アハハははハハHAHAHAハハハハ!!


 俺の最愛を奪ったこの世界なんて、もう何の未練もナイ。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 全部ブッ壊そう。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


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 ――彼がそう決意した瞬間......解き放たれた大量の魔力で空間が軋み、大気が震える。

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 ピノを拾い上げて、その胸に抱く。

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 そして......この空間を完全に破壊する為の魔法を組み上げていく。

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 胸に抱いたピノが、彼を止めようと必死に訴えかけるが......彼には届いていない────




 ◇◇◇ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ




 ちょっとした悪戯心から、この泉の管理者に教えて貰った覚えたてのスキル【水身】を使って、主人を驚かせようとしたあんこ。


 しかしこれは不味いと気付いたらしく、急いで元の姿に戻り、主人を止める為に走り出す。

 そして主人の顔面に張り付いた......




 ◇◇◇




 はい。落ち着きましたよ。

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 でもさ......急にあんな衝撃映像を見せられちゃったらさ、ああなるでしょ誰でも。

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 顔面に張り付いた中型犬サイズのあんこを、ずっと離さずに、お腹に顔を埋めてしばらく泣いてしまった。

 俺をこんなに心配させた罰として、顔面に張り付いた格好のままで、今までに起こった事を全て白状させた。


 ・ここに着いて、階段を降りてからずっと呼ばれていたㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 ・三階層に降りてからは、新しいスキルを教えてあげるよ......と誘惑されていた

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 ・泉に辿りついたら水に浮かんで、他のことは何もしちゃいけないと言われた

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 ・主人がどれだけあんこを好きなのか知りたくない?と誘いを受けて、つい了承してしまったㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 ・教えて貰った通りの事をして、今に至る......とㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 そうかそうか......ふーん。


 元凶がいたんだね。


 ......君に変な事を教えたクソ野郎が。フフフフフ。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 一言相談してから、スキル獲得に挑んで欲しかったよ。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 でもしっかり反省しているみたいなので、本気でモフっただけで許してあげた。


 現在のお嬢様は、ピノちゃんに寄り添われてロッキングチェアで休んでいます。


 ピノちゃんには本気で謝った。

 怖かったよバカ!とお叱りを受けました。可愛かったです。


 じゃあ俺は......全ての元凶になったヤツをどうにかしてやりに行ってくるから、そこでゆっくり休んでてね。

 ちょっと本気で怒ってるから、隔離させてね。



 壁を作って隔離。これで見られる心配もない。

 ......では始めましょう。


「管理者とやら、今すぐ出てこい!!

 出てこないなら、管理者という肩書きを無くしてやる」


 取り繕う必要なんてないから威圧も垂れ流している。

 今回は不法侵入ではないし、度の過ぎたイタズラに振り回された被害者だから下手になんか出ない。


「出てこないなら仕方ない。泉の管理者だった存在になればいい」


 さっき作成していたモノよりも規模を小さくした魔法を生み出す。

 狙った場所に存在する全てを喰らうブラックホールみたいなもの。


 霊的な存在でも消しされるようにイメージしたからきっと大丈夫なはず。


 イメージ元は「く〇やみ」だ。追尾性能はないけど、効果範囲はかなりのモノなので、ママチャリ二人乗りでは逃げきれないだろう。

 名前は付けない......怖いから。アレとでも呼ぼうと思う。



 黒いモザイクみたいなモノが現れる。


 さぁ、お逝きなさい。


 効果範囲は泉のみに指定してあるから、こっちに被害がくるなんてことは多分無いと思う。


 ふよふよと泉に向かっていくソレ。


 チッ......放った後なんだから、今更出てこなくてもよかったのに......


 目の前で魔力が揺らぎ、青色のクソガキが現れた。


『ごめんなさい!許してください!アレを止めてください!!』


「即出てくるという選択をしなかった結果だ。最初にちゃんと言っておいただろ?」



『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』



 顔を涙と鼻水でグッシャグシャにして土下座しだしたクソガキ。


 仕方ない、一時停止してやろう。


 ちょっと抵抗があったけど、一時停止した。


 えぇぇ、アレ反抗するのかよ......


「執行猶予を与えてやる。質問に嘘偽り無く答えろ。

 姿勢はそのままな」



『は、はい』


「ここは何だ、そしてお前は何者だ」


『ここは......精霊の棲み家。朽ち果てたダンジョンを、精霊の命や力で改装していった場所だ......です』


 ......ほぅ。


『俺......私は、今は亡き、水の大精霊からこの場所の管理を任されている、水の中位精霊です』


「そうか......それで、何故俺を無視してお前とウチの子でコソコソしてたんだ?

 こういうのは保護者に断りをいれてから行うのが筋ってもんじゃないのか?」


『すみません、水と相性の良い子だったから教えてあげようと思って......

 それと......仲良くしてたのが羨ましくて、イタズラしてやろうって思ってしまいまして......』


 なるほど。スキルを教えようとしたのはありがたい。

 しかしその後がクソだったな。俺に対しての最悪なまでの悪手をぶち込んでしまった。


「......一応理解はしてやる。しかし、俺が今までに無いくらいキレているのは理解しているな?

 君はどう落とし前つけるのかな?」


 生半可な詫びでは到底許すことはできない。

 見えている地雷源に、安易に踏み込んだコイツは許されない。


 でもコイツに何か支払える対価はあるのか?


『少しお待ちください。これで許してもらえるかわかりませんが、私の持つ宝をお譲りしますので』


 なんかあるみたいだ。


「わかった。だけど逃げようとは思うなよ?10分以内に戻ってこなかったら、待機させているアレを再始動させるから」


『......はい、わかっています。少しの間、お待ちください』


 そう言い残して、アイツは消えていった。


 キレすぎたかな......とは思うけれど、落とし所としてはコレでいいのかな。

 悪いことをしたとは思わない。傍から見たら、少し理不尽だなとは思うけど。


 どうでもいいか、そんな事は。俺は静かにキレるタイプだったとわかったのは収穫だ。


 あのガキが言ってたけど、命を使ってここを改装したって言っていたけれど、それはどうやるんだろうか。

 気になるから戻って来た時に聞いてみよう。


 タバコでも吸いながら待とうか。イライラした時はタバコか甘い物に限る。



 二本目を吸い終わる頃にヤツが戻ってきた。

 手には布に包まれたナニかを持っていた。


 最後に深く吸い込み、吸殻は待機させているモザイクに投入。


『お待たせしました......こちらをお納めください』


 そう言って、手に持っていた包みをこちらに渡してきた。


 受け取ってみるとかなり軽かった。俺は何を渡されたんだろう。

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