第51話 続オフの日と晩酌
それでは今から、お魚を確保していこうと思います。
漁業権の問題や、密漁だー、資源がーと煩く言われることもここでは無いと思うので、ガッツリ漁をしてやろうと思っております。
密漁者と管理者のイタチごっこにとやかく言うつもりはないけど、禁止区域をもう少しわかりやすくしてほしい。
足に刺さったウニを外していただけなのに、巡回のおっさんに密漁と間違われた事あったなぁ......
一応小魚や小ぶりな魚、石などはすり抜けられる程度の目の大きさの網を作成。
それを川幅、水深にピッタリハマるサイズに調整して準備が終わる。
あとは底引き網漁みたいにソレを引っ張りながら上流に向かって歩いていけば、魚がごっそり捕獲できると思う。日本でも禁止されてる所があるくらい、根こそぎ搔っ攫う漁だし。
異世界で漁師デビューだ。
そのまま網を引っ張って移動させながら、上流方向へ500メートル程の距離を進んでみた。
魔法を使ってるからなのか、重さとか水の抵抗を全然......これっぽっちも感じない。もうちょっと漁をしていますよ感が出ると思ってたのに......悲しい。思ってたんと違う!
まぁそこは諦めよう。魔法の不思議ってことで。
それにしても軽すぎるから、ほんとに魚入ってんのかと心配になってしまった。
川の水の中を覗いてみたけど網の中にはちゃんと魚が捕まっていた。
しかし思ってた以上に網に掛かっていたので、予定していた距離を大幅にカット。三キロくらいやるつもりだったんだけどね。
この川の中に、こんなに魚っているのかとかなり驚いた。
そこからまた500メートル程の距離を進んで漁を終わらせる。結果、食いきれるかわからないくらいの量の魚を手に入れた。
もう川で魚を集めることはないだろうってくらいの量。手付かずの自然の神秘を見たぜ......
鮮度が落ちないうちに鑑定をする。
食べられる魚の中でも美味しい部類のヤツを、闇糸を使って素早く締めてから内臓やエラを取って洗い、どんどん収納していく。あまり美味しくないらしいヤツはそのままリリースした。生態系崩してごめんなさい。
魚の内臓などは川に流す。きっと小魚や甲殻類のエサになってくれる。
『ワタを捨てるなんてとんでもない!』
という人もいると思う。だが俺には食えないんだ。
ガキの頃に親が魚を捌いている様子をボケーッと眺めていた時の事......
下処理中の魚のワタが破れるという事件があった。
その時にワタの中からこんにちわした、消化中の虫らしき多足生物を見た時から生理的に無理になりました。
今思うと、あの時の虫っぽいモノはゴカイだったんだと思う。
内臓料理は好きなんだけどね。ちゃんと下処理してあるモノならば。
だけど内容物も食べるのは無理なんです。そのせいで塩辛を食えなくなったのは痛恨の極みだ。
嫌な事を思い出してしまったな......アハハ......鳥肌がたってきた。もう忘れよう。
手を生臭くせずに魚を調理できることがわかったのが今日一番の収穫。
あ、それと美味しそうな魚はこんなのがあった。なんとなく既視感があるフォルムや名前をしている。だが異世界なので全くの別物だね。
▼スウィーティフィッシュ
独特な香気を放つ淡水魚
淡白な味わいで川により味が変化する
塩焼き、天ぷらがオススメ▼
▼マウンテンフィッシュ
淡白な味わいだが上品な甘みがある
塩焼き、甘露煮がオススメ▼
▼レインボーフィッシュ
多種の魚と交配していき現在の種族になった節操のない魚
身は淡白で味も良いが、やや水っぽいのでじっくりよく焼こう▼
......甘露煮とか天ぷらとかが異世界にあるのか?それとも鑑定は俺の知識を運用しているのか?
なんか謎が深まっていく......
まぁいい。アユモドキ、ヤマメモドキ、ニジマスモドキ、そしてイワナに似たあの川魚を大量確保できた。
かなり気になるけど、真相究明出来る訳ではないしこの事は考えないでいいや。似ているだけだ。
ファンタジーな事は、考えるだけ無駄な気がする。
もっとバケモンみたいな魚とかいると思っていたけど、全くいなかったなぁ。川は平和でしたよ。
あっちに居た頃に、渓流釣りとかしてみたかったんだけど、結局出来なかったしやってみたいな。
やりたいことや欲しいものが増えていくのはモチベーションになるからいい事だと思う。
あとはその絵に描いた餅を、しっかりとリアルの餅にするだけだ。頑張ろう!
思わぬところで気合いも入れ直せたし、食料も大量確保し下処理も終わらせた。
早くあの子たちの元へ戻ろう。
上機嫌で来た道を戻っていった。
パラソルを設置した場所まで戻ってくる......そこには!!
だらけきった姿で日向ぼっこしているあんことピノちゃんがいた。あかん......むっちゃ可愛い!!
もちろんバッチリ写真に納めましたよ!
俺が戻って来たのに気付き、立ち上がってお迎えしてくれるあんこちゃん。
そのあんこの頭の上に乗ってお出迎えのピノちゃん。
これは伝説のアレなのか?出迎えてくれるちびっ子イベント。
あっちでは家庭持つことは無かったからハッキリとはわからないんだけど、仕事から帰宅したお父さんはこんな気持ちになっていたんだろうなぁ。
うちの娘たちの為なら、俺いくらでも頑張れちゃうよ!って思ってしまってるもん。
まさか俺がチョロイン枠とはな......
幸せな帰宅?をして、本日の稼ぎを報告する。
新鮮な魚を見てテンションが上がったあんこ。前の焼き魚を思い出したのかな?美味しそうに食べてたもんね。
ピノちゃんは湿原で食べた魚が臭かったらしく、嫌そうな顔をしている。
魚は臭いの食べたら苦手になるもんね......美味しいの食べさせてあげるからね。
擦り寄ってきてくれたあんことピノに、好きにしてていいよと撫でながら伝える。そうしたらまた同じ位置に戻ってグダりだしたので微笑ましかった。
今日はピノちゃんにお魚を与えてみよう。
無理なら食べないだろうし。気になれば食べようとはしてくれるだろう。
そういえば、鑑定に天ぷらが美味しいと書いてあったな......うん。天ぷらをやっちゃおう。
本職のようには出来ないけど、普通には作れると思うからきっと大丈夫。
あぁ楽しみだなぁ天ぷら。お供はもちろんビールとポン酒で。
完全に口が天ぷらを食いたい口になってしまった。早く食わせろと言っている。
使うのは天ぷら粉でいいか。もし失敗したら目も当てられないし。
油と天ぷら粉、抹茶塩を喚ぶ。あ、天つゆも忘れてはならない。
具材はアユモドキは確定なので、あとは何にしようかね。
ナスとごぼう天は絶対欲しい、キスも欲しいがアユモドキがあるので今回は諦める。
暇な時に天ぷら揚げまくって天丼とかにして食べよう。
今日のメニューは......ナスとごぼう、とうもろこしと大葉にしようかな。増やしすぎてもめんどくさいから。
油と、ごま油を少量、鍋に入れて火にかける。
天ぷら粉を炭酸水で溶き、並行して具材の下処理をする。糸の使い方がかなり上達したので簡単楽ちんだ。
あとは揚げていくだけ。揚げ方のこだわりやコツなんか知らないので適当で。
さっきの余りの炭酸水を使ってハイボールを作り、飲みながら揚げていく。
夏場の日暮れ間近な生ぬるい空気と、火と油で火照った体に染み渡る。
なんで揚げ物する時って酒を飲んでしまうんだろうね。
結局揚げ終わるまでに三杯飲んだ。酔った気分になりたいが、毒物判定されて酔えないこの体が少し恨めしい。
味や香り、アルコールの感じはしっかり味わえるので不満は少しだけ。
あの子たちがどれに興味を持つかがわからないので、いつもは個々に皿に乗せてあげるが、今日はテーブルに全て並べる。
あんこは多分一匹食べるだろう。
「ご飯だよーこっちおいでー!」と声を掛ける。
そしたらすぐにやってきた。あんこは焼き魚の味を思い出したのか、天ぷらに鼻を近づけてクンクンしている。
ピノちゃんは興味が無いっぽくて少し悲しい......
ジャーキーとアユモドキの天ぷらをお皿に乗せる。
ピノちゃんにはお餅と、一口分の天ぷらを。天ぷらは嫌なら食べなくていいからねと伝えた。
では、いただきます。
アユモドキの天ぷらに抹茶塩をチョンと付けて頭からガブリ。
ホクホクとした身とサクサクの衣、骨も食える位ちゃんと揚がっていたので一安心。
ここでスー〇ードライを一気に煽り、喉の洗浄。くあぁぁぁ洗浄されていくぅぅぅぅ!!
口が幸福感に震えておられるので、追撃のとうもろこし天に塩をちょっとつけて頬張る。
サクサクプチプチと食感が楽しい。揚げたので香ばしさと甘みが際立っている。
ビールがもう無くなってしまったので、すかさずもう一本を開ける。
次はごぼう天だ。薄切りにして揚げたのでサクサクカリカリ。塩がごぼうの味を引き立てる。
ビールと相性抜群すぎて止まらない。二本目が空になってしまったので、こっからは日本酒を。
誰でも知ってるであろう久保田さんだ。絶対に一本はストックしてたなぁ。
久保田さんを飲みながらトロットロのナス天を摘む。ナス天は天つゆにつけて食べるのが正義。揚げておいて今度は揚げ浸しを作っておこう。
あんこは魚を気に入ってるみたいで、二匹目をおねだりしてきたので、膝の上に乗せて食べさせてあげる。
撫でられながらはぐはぐと嬉しそうに食べるあんこが可愛い。
ピノちゃんを見てみると全部食べきっていた。
美味しかった?と聞いてみると、臭くなくて美味しかったと。
うんうん。それならよかったよ。
ピノちゃんはもう満足したのか、俺に近寄ってきてポケットに入っていった。
大葉の天ぷらをかじり、爽やかな香りを感じながら酒を飲む。
こうやって大好きな子たちと寄り添いながら美味い飯を食べて、酒を飲める贅沢な時間。
それを邪魔する者などいない、完璧な休日サイコーっ!!
こんな日がこれからも続きますように......と願ってちょっとお高い日本酒を追加して晩酌を楽しんだ。
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