第19話 早朝鍛錬とスナイパー

 特に何か特別な事をする訳でもなく、あの状態のままゆっくりと過ごして、昨晩はかなり早めに眠りについた。



 そのおかげなのか、日本に居た頃でも中々なかった夜明けと同時刻くらいに目を覚ました。



 雨は既に止んでいたので、洞穴を出たところにローチェアを出し、コーヒーを飲みながらタバコを一本。



 朝なんて、今まではまた社会の歯車タイムが始まるという嫌悪感しかなかったけど、こんな風に穏やかに迎えられる日が来るなんて思ってなかったわ。



 アーリーリタイアさいこー!!



 しばらくこの空気と景色、コーヒーとタバコを楽しみましょう。



 三本と二杯を消費したところで、体でも動かそうと思い立ち、場所を移動。



 動いても大丈夫そうな場所へと移動したので、骨喰さんを抜いて、薙刀へなってもらう。その後は体の動きや振りを確認していく。



 この薙刀術......女性が使う技法という印象が強いけど侮ることなかれ。


 現代にも薙刀術の流派が残っているということは、戦国の頃からしっかりと継承されて、鉄砲などが使われてる時代が来てからも使われていたという事だ。



 長いリーチ、それを活かして安全圏から後の先を取る多種多様な戦術。初見で対応できる人はただの達人だろう。

 俺の今の動体視力と身体能力でなら、初見でも対応できるけど普通は無理。



 まず下段の構え......刃が上になるように構えるだけなのにこれが凄く怖い。

 不用意に近付けば切り上げや足払い......避けても追撃がこれでもかと来る。



 中段は言う必要ない程のオールマイティさ。威力こそ低いが、対応力は一番あり、隙を作れればどうにでもなる。それくらい厭らしい戦い方が出来る構え。



 上段は長いリーチで、重力と遠心力を味方にしたえぐい威力の一撃を出す。

 受けても地獄、避けたら流れるように追撃。どうすりゃいいんだよと思うよ。


 他にも八相、脇構え、無構えとある。どれも一筋縄ではいかない。

 色んな型から攻撃を繰り出し、状況毎に構えをかえて襲いかかってくる。

 一撃必殺を目的にしてないからこその多種多様さはタイマンなぞしたくない。


 長物の最大の弱点、懐に入られた時の対応としても、小太刀を使った殺り取りを想定されているので隙は本当に少ない。


 女性の腕力を補って余りあるほど、遠心力や梃子を用いた一撃はキツい。戦国時代でも薙刀で戦に出た女性が活躍できる訳だ。




 そして古武術、古武道は当たり前だけど、今の武道のようなスポーツではない。

 効率的に敵を壊し、効率的に敵を殺す。それを突き詰めていったモノなので、どれだけ無駄な動きを削り、最小限の動きで最大限の効果を生み出すか......

 そんな体の動きをする事、見切る事がまーた難しい。


 なるべく暇な時間作って、振りなどを体に染み付けなくてはと思っております。




 早起きと朝の運動で変なテンション再発。誰やねん、この人格は。


 一時間程振っていたらお腹が空いてきたので、骨喰さんに礼を言ってから朝飯を作りに洞穴へ戻った。






 あ、、、






 ごめんって!気持ちよく寝てたから......


 うん......そう。可愛い寝顔だったし、幸せそうに眠っていたから起こすのは悪いと思っちゃったの。


 そうなんですよ。うん、早く目が覚めちゃったから.....

 ごめんね、寂しくさせちゃって。



 お詫びと言っちゃなんだけど、一緒に朝風呂入ろっか。


 うん?夜じゃないのにいいのかって?

 ふふふ、朝に入る風呂ってのもまたいいものなのだよ。






 起きた後に俺がいなくて拗ねていたお姫様と朝風呂を楽しんでから、朝食を食べて登山を再開。


 いつもは見せない拗ねた姿を見れたのは眼福だったけど、寂しい思いをさせてしまったのは猛省しなくてはならない案件だ。



 朝に離れてしまっていたのがかなり寂しかったらしく、今日は抱かれるよりしがみつきたいみたい。

 いつもよりちょっと大きいサイズでおんぶされるような形になって山道を登っていく。

 ......だけどこれは、俺にとってご褒美ですよ?相変わらず可愛いです。





 二時間程そのまま登り続けて、何事もなく山頂に到着した。

 いやぁ感慨深いわ、生まれて初めての完全な自力登山。山頂から見る景色が美しい。


 昨日の雨はなんだったのかというくらい晴れ渡っているし、地面も泥でぬかるんでるわけでもなくいいコンディション。



 山頂からの景色を改めて見渡してみる。


 遠くに見えるアレが王都なのかな?視力強化しないと見えない......すげぇ遠いなちくしょう。

 真逆方向にあるのがこの前の街かな......

 王都の距離的にはここに来るまでの1.2倍くらいある。萎えるわぁ......



 これから下りになるからコケないように気をつけなきゃ......

 もし俺がコケたら、この子も道連れにしてしまう。



 よし、では下山しましょうかね。今日はどれくらい進めるかな。



 下りる時には、上りの時にない景色を眺めながら下りられるので、比較的楽しく下山できている。

 落ちたり、滑ったりをしないように踏ん張るせいで、いつもより体力が削られるけど。



 下りるのにも慣れてきたので、ちょっとスピードをアップして下りてみる。



 やばっ、楽しくなってきたぞ......ランナーズハイに似た感覚なのかもしれないけど。






 楽しく山を下りていたけど、急に足場がズレた......怖かったぁ......


 調子に乗るのはやめよう。

 堅実に進むのが一番だ......油断大敵の矢文が刺さって、旦那ぁ!ときて自軍が敗北してしまう。



 冷静になれたので、そこからゆっくり慎重に下っていくと、遠くの方に光が見えた気がした。




 目を凝らしてそちらを見てみると、遠くの草原でなんかチカチカ光っている。




 おぉぉ、なんか平原で火柱が上がった.....


 視力を強化してもっとよく見てみると、野郎五人がでっかい鳥と戦っている。むさ苦しいな。





 これはそうだよな?間違ってないよね。




 ......異世界初モンスターだぁぁぁ!!




 名前を見てみたいなと思ったけど遠すぎてダメらしい......

 遠隔から鑑定しても、詳細はおろか名前すら見れないとか切ないわぁ......



 ......人間側はかなり押されている。あ、一人倒れた。肩から引き裂かれちゃったね。


 あーあ......何とか保てていた均衡が崩れちゃった......一気に殺られてってしまう冒険者たち。


 今俺が助けられたとしても、即死か致命傷だろうな......絶対に間に合わない。



 助ける義理も術も無かったし仕方ないか。遠隔攻撃の射程がわからないもん......




 まぁヤツらへのせめてもの手向けとして、遠隔攻撃があの鳥に届いたのなら倒してやろう。



 闇で短槍を作り出し、回転させながら撃ち出してみた。にわか知識だけど貫通力と推進力とかが上がるらしいので。

 ちょうど標的は後ろを向いているから飛距離が足りなかったり、偶然避けられたりしなければ当たってくれるだろう。



 ......おぉ。ちゃんと思い描いていた軌道で飛んでいく。風や空気抵抗の影響を感じさせずにそのまま胴体に風穴を開けた。


 そのまま墜落して動かなくなっているので死んだんだろう。

 この距離でもあの鳥の回収は......出来た。名も知らない冒険者?達よご冥福をお祈りします。



 超長距離な狙撃も出来ることがわかったのでよかったと思う。

 この視力があればもっと遠くても問題ないだろう。制御がしっかりできて届かせる事ができればだけど。



 てかアイツらはこんなのデカい鳥と平原で戦ってたんだ?

 もっと森の奥地とか、山岳地帯とかじゃないのかな、この鳥の生息地。

 ......まぁ余計なちょっかい掛けたんだろうね冒険者たちが。



 さて、予定外だったけど遠距離攻撃の実験と実践をする事ができた。

 次は複数同時狙撃をしてみたいけど......脳がバァンしそうだし、マシンガン風の乱射になりそうだな。その時の状況次第だろうけど。



 下山を再開しましょうか。


 解体は俺にはまだ出来ない。この鳥は収納にしまっておこう。

 ......この鳥が食べれる鳥だったら、いつか焼き鳥を作って食べたいな。



 その後も油断せずに山を下りていたけれど、六合目くらいの所に到達した辺りで暗くなったのでタイムアップ。



 また今日も洞穴に泊まる事にしましょう。


 五分程探すと、先住人のいない洞穴を発見できて、中の状態もキレイだったからそこに即決した。




 今日は先にお風呂を済まして、ずっと俺にべったりしていたお嬢様を甘やかす。

 くっついたままのお嬢様にご飯を食べさせてあげて、俺も簡単に食事を済ます。




 食事には丸氷を出してもらい、よく飲んでたウイスキーを召喚出来たので、それをロックで頂く。



 空いてる方の手で、膝の上で寛ぐお嬢様を撫でまわしていく。


 長毛の猫を撫でながらワインを飲む悪の権力者みたいなイメージで。



 ツマミには甘さ控えめのチョコレートを。



 ストレートで飲むのが一番なんだろうけど、丸氷が溶けていく過程で色んな一面を覗かせてくれるロックが俺は一番好き。


 ボールを見せて、これと同じ形の氷をこのグラスに入る大きさで出してってお姫様にお願いしたら、めっちゃ嬉しそうに出してくれた。


 完璧すぎる丸氷だったので、使うのはもったいないと思ってしまったのは仕方ない事だろう。使うの勿体ない......と呟いた時に、すげぇ悲しそうな顔をされちゃったから結局使う事にしたさ。



 晩酌タイムを満喫しながら、膝の上で眠るお嬢様を見る。


 俺もそこそこ眠くなってきているので、今日はこのまま抱っこして寝る事に。


 甘々な時間はやっぱり素晴らしかった。


 ちなみに悪食の所為だろうか......アルコールは分解されてしまって酔っぱらう事はできなかった。残念です。

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