第9話 初料理と分岐点

 あっ眩しい......あ、朝か......


 そういえばこっち来てから眩しいって感じた事なかったな、あの不思議な森はほんとになんだったんだろう。


 あんこちゃんおはよう!!さぁジャーキーをお食べ♪


 食後のあんこに水を出してもらって、顔を洗い、歯を磨く。


 いつもの実を食べて緑茶でリフレッシュ。相変わらずゲロマズ......



 あんこはシャツから顔を出すのが気に入ったみたいで、そこを定位置に設定した。定位置に入って落ち着いたのを確認したので、龍さんを顕現させる。




 明るい所で見ると黒い鱗が綺麗で素晴らしい。乗せてもらっていざ出発!





 うぉぉぉぉ!高い!怖い!龍鱗はすべすべで気持ちいいけど滑る!尻が落ち着かなくて怖い!!


 たてがみに必死にしがみついて闇糸で体を固定する。

 安定感が出て、やっと落ち着けたので辺りを見渡せる余裕が出来た。



 周囲を見渡してみたけどさぁ......


 森、広すぎだよ......地上を移動してたなら、脱出まで何日かかってたんだろ?

 あ、かなり遠くにだけど人工的な建造物が見える!結構大きそうなのでそちら方面へ向かってもらう事にした。


 今の気分は日本昔〇なしのオープニングだ。でんでん太鼓持ったほうがいいかな?




 森が終わりそうになってきた。


 キリの良さそうなところで下ろしてもらう。


 いやぁ最初はかなり怖かったけど、空の旅は気持ちよかったわ!あんこも楽しかったようで服の中でしっぽが振られていてくすぐったかった。


 龍さんに戻ってもらい、刀を腰に提げて森を抜けて草原を歩く。

 あんこは初めての草原にはしゃいでいて、俺の周りをくるくる回っている。



 周囲に邪魔な木などがないので、ここで一つ定番の遊びをしてみよう。


 柔らかいボールを一つ召喚して遠くへ放り投げてみる。



 唐突にした俺のその行動の意味に気付いたみたいでボールを追いかけて走っていく。そして口に咥えて戻ってきた。


 目をキラッキラさせ、しっぽをブンブン振り回してもう1回!もう1回!とねだってくる。甘えんぼさんめ!


 たとえ肩が壊れようともこの試合完投してやんよ!




 30分くらい投げて撫でての繰り返しだった。幸せでした。余は満足じゃ!


 あんこ姫も満足したようで水を飲んだ後に定位置に戻ってきた。

 途中から投げるのが上手くなってたので投擲スキルか、それに似たスキルが生えたんだと思う。

 投げるのが上手くなって、飛距離と球速が伸びた投擲には縮地で対応されました。



 特にこの草原を進むのにあたって、大した目的もないのでダラダラ草原を歩いて進んでいく。




 進んでいく......進んでいく......





 だけど全く景色が変化しない......


 変わり映えのない景色しか見られない呪いでもかけられてるんですかね?

 森の後にはずっと草原。俺には程よい自然くらいが丁度いいのにさぁ......極端すぎやしませんか。





 それにしても何もイベント起きない。


 盗賊がヒャッハー!ここは通さねぇぜ!とか、魔物か裏切り者に狙われて、襲われてる令嬢入り馬車とか、奴隷狩りや奴隷商人から命からがら逃げ出した奴隷とか......そんなことは全然起きませんでしたよ。




 なーんにもないし、起こらない。モブ野郎はただひたすら進め......そういうことですか。わかってますよ。



 心を無にして歩こう。何も無いのが一番だ。


 お嬢様がはしゃいだ反動で寝ちゃっているので、暇を持て余してたから変なことを考えてしまった。







 黙々と歩き続けていたら、ようやく待望の変化があった。



 そこそこ大きい川を見つけたので寄リ道していこう!





 川の水を見てみるとキレイだった。


 魚が泳いでいるのを見つけたので、鑑定してみる。



 ▼ロックフィッシュ

 岩や石に擬態しながら餌を待つ魚

 身はクセがなく、淡白な味わい。塩焼きがオススメ▼



 鑑定さんは食に情熱があんのか?


 説明を読んで焼き魚が食べたくなったので、五匹いたのを全て闇糸で捕獲し、眉間に闇糸を突き刺して〆た。やり方は詳しく知らないけど、こんなんでよかったような気がする。



 さてと......魚だ!!楽しみだ!!



 腹を裂いて内臓を洗い出し、木の枝に刺して塩を振っておく。確か尻尾とヒレに塩を多めに振っとくといいんだったっけ。



 川魚って鱗が無いからヌメヌメして苦手だ......魚って美味しいんだけど下処理がね......



 生臭くなった手にげんなりしつつ、よく洗った後は川に足を浸けながらまったり休憩する。

 臭い取れたよね?魚臭で触れ合いを拒否されたら俺泣いちゃう。




 休憩できたし、そろそろ魚を焼いていこうかね。



 石で簡単な風避けを作り、火を熾す。

 その周りに魚串を刺していく。


 火が通るまでじっくりと遠火で焼いているといい匂いがしてくる。


 匂いに釣られてあんこ起きてきた。鼻をピクピクさせた後にソワソワしだしていてとてもかわいい。

 焼き魚に興味を持ったのかな?ジャーキー以外は特に興味持つ事無かったのに珍しい。



 水分がいい感じに飛んで、火もしっかり通ってきたので、仕上げに火の近くに串を移し、皮に焦げ目をつけて香ばしさとパリッとした食感を付ける。



 さぁあんこたん!魚の塩焼きですよー!骨と熱さに気をつけて食べるんだよ。


 ジャーキー以外で興味を持ったのが、まさかの魚の塩焼きでびっくりしたわ。


 食べだしたのを見て、俺も実食。

 パリッとした皮と遠火でじっくり焼かれたふわふわの白身に塩味が合わさる。



 そういえばコレが異世界初の現地飯&手料理だったわ......


 激マズ果実と羊羹、それとジャーキーしか食べていなかった現実に気付いて少し......いや、かなり凹む......

 これからはもう少し人間らしい食生活をしていこうと心に誓った。



 あっという間に一匹食べ終え、物足りなさを感じたので二匹目を食べ始める。



 あんこは一匹で満足したようでコロンと転がっている。

 骨も頭も全部食べたみたいだ......まぁ本物の犬じゃないから大丈夫でしょう。


 余った二匹は収納に入れといて後で食べよう。何故かこの収納時間止まってるし。




 あぁ美味しかった。


 頭と骨を闇穴にぶち込み、後片付けをしっかりして、文明がある方向へと向かおう。







 それからしばらく歩いたけれども、全く近づいてる気がしない。

 もっと近くまで飛んでもらえばよかったかなぁ......


 時間かかりそうだけど、近いうちに着けるといいなぁ......







 日が暮れてしまい真っ暗になったので、野営する為に木がある方へと向かい、いつものようにトラップを設置。



 クッションを敷いてその上に座り、移動しながら集めておいた木の枝などを収納から出し火を熾す。




 月明かりしかない自然の中で、焚き火をボケーッと眺める。


 パチパチと木が爆ぜる音と、よくわからない生物の鳴き声、それと葉の擦れる音だけが聞こえる。



 こうやって火を眺めていると心が落ち着く。電気に支配されている現代日本人は、こういう時間が足りないと思う。非効率な事を楽しむべきだ。


 効率厨になりすぎなんだよ。




 さて、変に悟ったような事を思っていたらあんこが急に警戒し始めた。



 なんか来るのだろうか。



 5メートル以内に来たら細切れにする罠を設置しているんだけど、ちょっと気になるのでトラップ解除しておく。


 不意打ちの襲撃予防なので、来るのに気付いていたら余裕で対処できる......と思うし。



 トラップの効果、威力の確認はまた今度で。



 少し待つと、警戒した雰囲気を出しながらボロボロの男が近づいてくるのが見えてきた。


 ここら一帯そんなボロボロになるほど過酷な環境じゃないのに......




 まだ何もアクション起こされていないけど、あんこと骨喰さんがイライラしてるので碌なものじゃないと決めつけた。


 広範囲に闇魔法を広げて探知をしてみる。


 月明かりで影が出来てるので簡単に探知できた。14人隠れてる。



 盗賊、もしくは逃げてきた人か......まぁコイツは盗賊であり、ボロボロなのも自作自演だろ。




「助けてくれっ!追われてるんだ!」



 ほう、そう来ますか。油断させてから襲うって魂胆ですね。


 思い通りに事が進むと思うなよ。イライラさせてみれば本性がすぐに出るだろう。



「お断りします。面倒事に巻き込まないでください」




 返答が意外だったのか、少しポカンとした後に喋り出した。


「10人くらいに追われてるんだよ!頼むっ!助けてくれ!」



 追ってるはずのヤツらは14人で、皆様周囲で待機してますよ。



「ハハハ、なら早く逃げればいいじゃないですか。一人増えた所で何も変わりませんよ」



「だからって見捨てるのかよ!人としておかしいだろ!!逃げなきゃあんたも襲われるんだぞ!」



「こちらの事はお気になさらず。早くお逃げなさいな盗賊さん」




「あぁなんだ、バレてんのか。お前は囲まれてんだよ!大人しく持ち物全部差し出せば命だけは助けてやる」



 はいはい本性が出ましたねー鑑定しますよー。



 ▼エドガー

 人族ㅤ27歳

 職業:盗賊▼



 人を鑑定したらこんなんなのね。


 職業に盗賊と出るのか......

 そんで名前はこんな感じなのか......把握。


 これ以上知りたい事や、知るべき事も無いだろう。魔力量とかも見れたらよかったのに鑑定さんめ......


 さて、知りたい事も知れたしこの茶番を終わらせましょう。




「わかりました。では待機してる14名のうち11名にはこの世から今すぐ退場してもらいます。あなたはアジトの場所まで案内してもらうので拘束させて頂きますね」



 これで決定ですね。


第一異世界人がクソだったので......悪意には殺意でお返しする事にしましょう。



 人任せな方針決定だけど、どんな世界かわからんうちに決めるは難しいと思う。


 人の事を即信じたり、人の善性に期待できるほど俺は人間できていないし。




 俺の返答が予想外だったのか威圧がちょっと漏れてたのか、青くなったエドガー君。

 そしてそんな彼の手足を闇糸で拘束して転がした。



 あんこ姫はやりとりをしだした頃には既に警戒を解いて、定位置に入り込み夢の中へ旅立っていた。


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