第2章 忍び寄る魔の手

第1話 シンギュラリティパーティ

 長い夏休みが開け、リリアルガルド中央学院にも3クォーター目の期間がやってきた。アリッサとフローラはいつも通りのクラスで出席を果たしたが、キサラに関しては初回の授業だけを出席し、学園の制度である早期習熟度テストを利用し、必要な単位のみを取得してブリューナス王国へととんぼ返りしていった。

 彼女に関しては戦時中のブリューナス王国のネームドクラスの人物であるハイデマリー陛下に教えを受けているため、授業に出ている暇がなかったのだろう。それでも、さも平然と満点に近い点数を叩きだして来るキサラに、万年平均点のアリッサは戦慄したが、同時に、前を向いて歩いているキサラを見て、微笑ましくも、同時に寂しくも感じていた。


 そうして、リリアルガルドで普通の学生生活を過ごすこと約6週。フローラの鉱石集めをアリッサは手伝いつつ、二人でダベルズ山脈にて様々なクエストをこなしていった。フローラがリリアルガルドの首都ベネルクで年一回行われている『シンギュラリティパーティ』という研究発表会の準備に追われ始めると、アリッサは暇をしているであろうパラドイン・オータムを無理矢理連れ出しつつ、嘆きの森でお散歩という名目の休日デートに勤しみだす。

 パラドに関して言えば、嫌々ながらも、毎度毎度、アリッサの強引な誘いに負けて素材集めやら、レベリングに付き合っていた。だが、数回を経ると、断ることも少なくなり、一緒に遊ぶようになる。

 そうしているうちに、アリッサは自分のレベルが100を超えていたのだが、確認していなかったため、本人は気づいていなかった。



 ちなみに、夏休みの終盤に起きたブリューナス王国での建国祭の事件以降、国際情勢は悪化の一途をたどりつつあった。

 リリアルガルドに流れてくる情報によると、リーゼルフォンド皇国は内乱と流行り病により今現在は混乱の一途をたどっている。この機を逃すまいとアストラル王国が手を出そうとしたところ、ブリューナス王国が覇権を恐れて、国際情勢に情を訴えて牽制したことにより、今度はアストラル王国とブリューナス王国の仲が険悪になり始めていた。

 そして、その背後を突くかのようにエルドライヒ帝国がブリューナス王国に外交で責め立て、それをよく思わないノルド協商連邦国が輸入輸出の制限をかけ始め、その二次被害にあった共和連邦マスクヴが異議を唱え始めていた。

 唯一それらの不況と重なる戦火から逃れていられたのは、今のところ、ブリューナス王国にレンドリースしか行っていないフィオレンツァ共和国と、中立を宣言して不可侵条約を結んだリリアルガルド国に限られていた。



 そして、そんなリリアルガルド国では、3クォーター目のテストが終わり、研究発表会により、各国の著名人が集まり、街がにぎやかに飾り付けられ、国際情勢に暗雲が立ち込めているとは思えないほどの賑わいを見せていた。



 そんな階下の街をよそに、アリッサはいつもと同じような中央学院のブレザー制服を身に纏いつつ、いつも以上に髪形を気にして、髪を弄っていた。夏休みや夏休み中の修行中に傷んでしまった髪は元に戻りつつあり、鏡を見ればいつも通りの癖が少なく飾り気のない茶色の髪が肩まで伸びていた。わずかに日焼けがある健康的な肌つやとわずかに幼さが残る輪郭は半年前とあまり変わっていないように思える。ただ、ぱっちりとした薄桃色の瞳と体つきは、半年前よりも引き締まったように見えた。未だに細身ではあるが、服の下からは健康的な筋肉が見え隠れし、そのせいで成長が阻害された胸囲が淑やかに、なだらかな体つきを作っている。


 アリッサは鏡の前に立ち、フローラから教わった化粧を慣れない手つきで行っていた。十数分後、何かに納得したかのようにうなずき、荷物をまとめて、よくやく、パラドとの待ち合わせの場所へと足を進ませるのであった。

 だが、その時間はいつも通りにギリギリになっていた。彼が早めの時間に来ていることなど露知らず——————



◆◆◆



 同時刻———————



 普段から早めの到着を心がけているパラドイン・オータムは一人、リリアルガルドの首都ベネルクの中心にある噴水の前でアリッサを待っていた。今日は、御前試合にて勝利したお祝いを今更ながら行う約束をしていた。あれから、何度も一緒に出掛けているが、なんだかんだで、いつもモンスター討伐になるため、こういった街での散策は初めてのことになる。

 服装こそ、学院側の規定によりシンギュラリティパーティ中に限り制服を義務付けられているため、いつもと同じブレザー制服であるが、それでも、普段と比べて少しだけおしゃれはしてきていた。

 ふと、街を見渡せば、同じように制服を着ている学生が多数いる。確かに、制服を着ていればありとあらゆるお店の金額が期間中のみ安くはなる。その他で出歩いている人といえば、仮装しているスタッフや、学生、そして、スーツを着た教授や講師たちが主である。稀に、どこかの貴族が馬車で通りかかるが、今いる街中で降りる気配はない。


 パラドはふと、水面に映る自分の姿を凝視する。

最近のアリッサとの冒険者活動により、多少はやせたとはいえ、お世辞にも整っているとは言えない体型……いい意味で言えばふくよか、悪い意味で言えば肥満であるといったところ。胸元よりも大きく前に出たウエストに、内側の骨が見えないほどの覆われている頬の輪郭。癖のあるこげ茶色の短髪に、相手を睨むように威圧的な鋭い鸚緑の瞳。

 ここ数年での彼はサボり癖の悪評が祟り、周囲からは奇異の目を向けられて避けられていた。だからこそ、アリッサのように身近に接してくる友人の存在は彼をほんの少しだけ過去から立ち直らせたのかもしれない。


 こんな自分でいいのか、と自嘲気味に笑いつつ、パラドは視線を再び街中へと戻す。設置された置時計を見れば、もう少し時間はあるのだが、アリッサの性格からして、ギリギリに来ることはわかっていたため、パラドは一度、噴水の縁に腰を下ろそうとした。そんなとき、彼の耳に懐かしい声が聞こえてきた。


 「あら? 珍しい人物がこんなところにいまして?」


 パラドがチラリと、そちらの方を横目で見ると、秋物のベージュのコートを纏った女性がそこにいた。頭の後ろに長くボリュームのある金色の髪を黒いリボンでまとめ上げ、胸元まで伸びた毛先は内曲がりの緩やかなウェーブがかかっている。藤色の穏やかな瞳に細くしなやかで健康的な肉付きの輪郭。薄いピンク色の唇と、曲線美を描くような流麗な体型が合わされば、誰もがそちらの方を思わず凝視してしまう。

 微笑みかけたその口の中から見える少し尖った犬歯を見ても種族はわからないが、パラドは彼女の種族が人間ではなく、ヴァンパイアであることを知っている。しかし、彼女は太陽を嫌っているようには見えず、流水も避けず、むしろ胸元にはブロスタ教会の信徒の証である十字架の首飾りまでもがある。

 昔はどうだったのかが不明だが、今現在は多種多様な種族間の遺伝により、そう言ったものが薄れている傾向が多くあり、亜人種の昔の特徴は当てはまらないことが多い。


 パラドはそんな異例のヴァンパイアである彼女の名前を知っている。それは、パラドイン・オータムという伯爵令息のかつての婚約者……。同じ地位である伯爵家に生まれた、ミセス・ヴェラルクスであった。

 今はもう婚約破棄したとはいえ、昔馴染みでここ最近は顔を見ていなかったため、パラドは驚きつつも、彼女の成長ぶりに感嘆し、しばしの間放心していた。

 すると、不思議に思ったミセスがパラドの顔を覗き込むように近づいてきた。


 「どうしたのですか? わたくしの顔に何かついておりまして?」

 「あ……いや、そうじゃ、ないんだが……」

 「まさか、見惚れてしまいましたか、オホホ」


 わざとらしく笑って見せる彼女の表情は得意げであり、自分を手放した男への当てつけのようにすら見えた。


 「おいおい、冗談はほどほどにしておけよ」

 「あら、冗談ではなくてよ、オホホ」

 「そうかい。———————で、話を戻すが何か用なのか?」

 「何か用がなくては話しかけてはいけないのですか?」


 しばしの沈黙が2人を包み込む。パラドは眉間に寄せたしわを指でつまむようにして整える素振りを見せて冷静を装い、ミセスは扇子を広げて口元を隠すようにして自分の言ったことを少しだけ反省しているように見えた。


 「別に、悪かねぇが、未婚のレディがこんなところで誰とも知らない男と話しているのは、ヴェラルクス伯爵令嬢として、ダメなんじゃないか?」

 「あら? 顔見知りですし、婚約を解消したとはいえ、お付き合いをしていた殿方……問題はないのではないですか、オホホ」

 「問題大ありだろ……。お前のお見合いとかの事情に響くぞ……。俺の評判を知らないとは言わせないからな」

 「あら、わたくし、世間を知らない吸血鬼こういうなりですから、世間体のことははなから気にしてはいません。それに、可愛い可愛いパラドくんが、一人寂しく街中にいるのに、どうして一緒にいてあげようと思わないのでしょうか。いいえ、一緒にいてあげるべきです」

 「おいこら、俺はもう、そんな歳じゃねぇ、第一、別に一人でいるわけじゃねぇ」

 「あら? でしたら、新しく誰かとお付き合いをしていらっしゃるのですか、オ、ホ、ホ——————」


 眉間にしわを寄せながらもわざとらしく笑っているミセスを見て、パラドは少しだけ冷静さを取り戻しつつ、一度真顔に戻ってから、「ありえない」とでも言うように深いため息を吐く。


 「そんなわけねぇだろ。俺にだって友人はいる。ソイツと一緒に飯を食う約束をしているだけだ」

 「あら、そうでしたの……。わたくしは、不倫をしていたが故に、わたくしと縁を切ったとばかり……」

 「そんなわけあるかい!!」

 「あら、怒られてしまいましたわ、オホホ……」


 パラドが少し興奮気味に反論しているのに対し、ミセスはわざとらしく微笑み、どことなく落ち着いていて、まるでパラドの今の姿を見て安心しているようにも見えた。


 「————————ですが、まぁ……あなたのそんな姿をもう一度見られて、わたくしは喜ばしいですわ」

 「何言ってんだ、腐るほど見て来ただろ……。それに、お前と別れる前はもう少し痩せていた」

 「あら、自覚はあるのですね、オホホ……」

 「まぁ、それなりに思い出としてはあるからな……」

 「でしたら————————」


 恥ずかしそうに頬を搔いているパラドの油断を見て、ミセスは一歩前に踏み出し、パラドの肉のついた首の後ろに両腕をまわし、吐息がかかる距離まで接近してみせる。その瞬間、パラドは恥ずかしさのあまり、顔が少しだけ紅潮してしまう。

 それと同時に、彼女の薔薇のような甘い香りが鼻孔を刺激し、みずみずしく柔らかい唇が嫌でも目に入った。


 「なに……を……」

 「わたくし、少しだけお腹がすきました。ここで食事をしていってもよろしくて?」

 「おい……わかっている……のか……」

 「わかっていましてよ……」


 彼女の藤色の瞳がパラドの緩んだ鸚緑と重なり合う。きちんと見ればミセスの尖った耳の先も、ほんの少しだけ赤みを帯びているように思える。

 そんな折だった———————


 「街中で何してるんですか、先輩————————」


 唐突に二人の耳に女性の声が入ってきた。それは明らかにパラドに対しての発言であり、パラドが慌ててミセスを振り払い、そちらを見ると、生ごみを見るような醒めた眼差しを向けているアリッサが立っていた。


 「いや、これは……その……」

 「変態——————。クズ————————。クソ破廉恥ぐうたら魔術師——————」

 「おい、流石に言い過ぎだろ……」

 「そうですわね。あの場面で何も起こさないむっつり魔術師ですわね」

 「お前らなァ……」

 「ま、まぁ、まだ未遂なら……いや、変態なことは変わりないような……」

 「変態言うな。だいたい、俺とこいつは、今じゃそんな仲じゃねぇ!」

 「酷いですわ。あの夜、あんなにも激しく求めた癖に……」


 わざとらしくよろけながら噴水の淵に身を寄せるミセスを見て、アリッサは数秒間固まった後、錆びついたブリキの人形の如く、ゆっくりとパラドの方に振り向いた。その時のアリッサの顔はまるで、この世のものを見ていないかのように酷く冷めきっていた。


 「先輩……なにやってんすか……」

 「違う! 誤解だ! 俺は手を出していない!」

 「酷いですわ。ごにょごにょのことを忘れるなんて!」

 「おいこら! 事実を捻じ曲げんじゃねぇ!」

 「へー、ふーん……。とりあえず、無罪を証明するなら証拠を出してくださいよ、先輩」

 「お前……それは悪魔の証明だ」

 「それもそうですね……。ま、普段ぐうたらしている先輩にそんな甲斐性があるとは思えませんが、とりあえず言い訳だけでも聞きましょうか」


 アリッサはわざとらしく指の骨を鳴らしつつ、準備運動を始める。パラドは引きつった笑いを浮かべつつも、腰の後ろの教鞭型の魔術杖を手に取った。


 「いや、あの時は……その……やむにやまれぬ事情があったというか……」

 「そうですねぇ……熱い夜でしたからね、オホホ」

 「ふーん……で、彼女さんとゴニョゴニョやっているのに、私の誘いにいつも付き合っていたのですか……。クズですね」

 「言葉が刺々とげとげしいぞ、まったく……。大体、こいつとは————————」


 パラドが何かを言いかけたところで、ミセスがパラドの魔術杖を持っている腕を自分の腕と絡めるよう差し込み、腰の後ろに手をまわしながら、アリッサに対して露骨にアピールをしてきた。


 「ごめんなさい。わたくしとパラドはこういう関係でしたの、オホホ」

 「テメェ……ウソを一つもついていないで、誤解を生む発言ばかりしやがって……」

 「はぁ……まぁ、いいですけどね。先輩がどこの誰と寝ていようと、そういう人間だっていうのは理解しているので、気にしませんが……」

 「そうか、流石アリッサだな。理解してくれたか……」


 パラドが安堵の息を漏らして、わざとらしくそっぽを向いているアリッサに手を伸ばしたその時だった。普段は、アリッサが先導するように握っている手を、アリッサ自身が平手で弾き飛ばし、スカートの裾で拭い始める。


 「あらら、嫌われちゃいましたね、パラドくん。オホホ」

 「おい……お前は人間関係を壊しに来た“サークラ”か何かか……」

 「クズ先輩、その言葉は通じないのでわかりやすい言葉を選んだほうがいいですよ。あと、そろそろ、先輩の彼女さんを紹介してくれませんか」

 「彼女じゃねぇ……」

 「オホホ。可愛いらしいお嬢さんだこと……。わたくしは、ミセス・ヴェラルクスですわ」

 「アリッサです。そこの先輩とは同じギルドのメンバーです」


 アリッサは自分の右手を差し出し、にこやかにそして爽やかに微笑みかける。ミセスもそれを見てわざとらしく笑って見せて握手を交わした。


 「おい、ミセス……そろそろ離さないと魔術で吹き飛ばすぞ」

 「あら、そんなことができまして?」

 「クズ先輩ならできるんじゃないですかね。可愛い女の子だろうがグーパンで殴るような人ですし」

 「おい、そこ、記憶を捏造するんじゃない」

 「しないんですか?」

 「時と場合による」

 「ほら、こう言ってますし、ミセスさんも一度手を離したらどうですか? 公衆の面前ですから」

 「あら、それはそうですわね。オホホ」


 ミセスは回していた両手をほどき、パラドから半歩程離れる。アリッサはそれを見てため息を吐きつつも、もう一度パラドのことを睨みつける。

 パラドは面倒そうにしながらも首を横に振ってジェスチャーをしてみたが、上手に伝わっているかは不明であった。


 「それで……今日の予定はどうするつもりですか……。——————といっても、私は一人でまわるんで、先輩は彼女さんと楽しんできてください」

 「おい、違うから待てって……」


 アリッサはため息交じりに一人で歩き出そうとしたその時だった。パラドはここから立ち去ろうとするアリッサの腕を掴んで制する。アリッサはそれを見て驚きつつも、いつものパラドと同じように面倒そうな顔を向けるだけだった。


 「こいつは、“元”婚約者だが、今はただの友人だ。お前と同じだ」

 「どうせそんなこったろうと思ってましたけど……さすがにこれは……」

 「今なんて?」

 「何でもないですよ、先輩。とりあえず手を離してくれませんか、逃げないんで」

 「あらら、これは修羅場というやつですか、オホホ……」

 「いや、この先輩と私が恋人みたいに付き合うわけないでしょ、ナイナイ」

 「わかるわー。こんなガサツでなんでも正面突破してくるようなデストロイヤーが俺の彼女とか、ぞっとするわー」

 「おいこら、聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ」

 「空耳じゃないのかー?」

 「あぁぁん?」

 「事実に対して怒んなよ……」


 いつものように言い争いをし始める二人を見て、ミセスは自然に笑いつつ、二人の間に割って入るように体をねじ込ませ、アリッサの顔をふくよかな胸の中に埋めた。


 「女性への悪口はわたくしだけにしておきなさい、オホホ」

 「チッ、テメェまで庇いやがって……」

 「あら、言葉が汚い御仁は好かれませんわよ。オホホ……」


 アリッサは押さえつけられた顔をどうにか上に向けて呼吸を確保しつつ、自分の腕力で引きはがそうとするが、予想以上に強く、万力で押さえつけられているかのようにゆっくりとしか動かなかった。


 「あらら、こちらにも嫌われてしまいましたか」

 「そうじゃないですよ。単純に、周囲からの視線が痛々しいだけです」

 「あら、そうでしたの。ふむ、でしたら、移動しなきゃいけませんわね、オホホ」

 「なら、一緒に行きませんか? 先輩との話をもう少し詳しく聞きたいので」

 「あーそういうことかい。なら、二人で楽しんできてくれ、俺は帰って寝る」


 パラドがわざとらしく鼻を鳴らして踵を返したその時だった。ミセスは懐から手帳を取り出し、アリッサに見せびらかすように間に挟まった写真を眼前に突き出して来る。

 そこには、今の体型からは想像もできないほど、筋肉質で引き締まった体を持っている誰かがそこにいた。


 「数年前のパラドですわ。この時のパラドは素直でしてねぇ……。わたくしのことを信頼し、いつも悩み事を話していましたの。そうそう、メモによればたしか9歳の時……」

 「おいバカ! やめろ!!」

 「オホホ。それでは三人でいきましょうか、アリッサ。構いませんか?」

 「私は別に構わないですよ。内容が聞ければ」

 「おい、絶対話すな。話したら、お前のことを地獄の果てまで追い詰めてやる」

 「あら、それはたのしみですこと、オホホ」


 ミセスはにこやかに笑いつつ、アリッサの手を取って歩き出す。もう片方の手には街全体で催されている売店や出し物のパンフレットが数枚握られていた。

 パラドはそれを見てどんよりしながらも、自分の秘密を握っているミセスを野放しにしておくこともできず、トボトボと後ろをついていくのであった。



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