幕間Ⅰ

 少しウェーブのかかった珊瑚色のくせ毛が腰まで伸びた少女は、いつもよりも上機嫌で帰路につく。歩くたびに、中途半端な長さのエルフ耳が見え隠れする。

 フローラはこのエルフ耳が嫌いだった。人種にとっても異形のように扱われ、エルフ族にも仲間外れにされる。

それは、親が無理をしていかせてもらった学校でも例外ではなく適応される。結果から言うならば、彼女はせっかく通い始めた学業塾である学校を途中で行かなくなった。原因は言うまでもなく、同級生からの執拗な嫌がらせである。

 今までの人生で、この中途半端なハーフエルフというだけで友達ができることなどなかった。そして、周囲の目を気にせずに生き続けている両親の前で何も言うことなどできず、かといって出ていくわけにもいかなかった。

 家庭環境は悪くはなかった——————

 だが、それを取り巻く周囲の環境が不幸にも悪かったとしか言えなかった。それでも、少女はひたすらに頑張り続けた。

 両親の為に何かできるのではないかと、独学で必死に勉強をつづけた。休みの日は簡単な冒険者組合に張り出された依頼を単独でこなしていった。

 そんな毎日を続けていて、気づいたのが、自分には光属性の魔術適性が非常に高いということである。他にも火属性魔術がわずかに使えるということだ。それ以外はからきしであったが、この事実に気づいたときの喜びは計り知れなかった。


だからこそ、失望を大きかった——————


 光属性の魔術を習い、両親だけでなく、多くの人を助けられるのではないかと街の教会に向かったフローラを待ち受けていたのは拒絶だった。周辺諸国に浸透しているブロスタ教であるが、エルフ族は別の宗教を信仰していると知られている。その食い違いから、ハーフエルフであること理由に、教えを受けることはおろか、教会に入ることすら許されなかった。これは、エルフの村にいたときも同じで、『穢れる』という理由で排他的な扱いを受けた。

 故に、フローラはセントラルの入試の面接で、自身の属性を知って驚くべきことを口にした。


 「私は神を信じません———————。聖魔術を習う気はありません。ですが、この属性魔術を捨てるつもりもありません」


 この言葉が面接官にどのように伝わったのかはわからない。ただ一つ言えることは、フローラという少女がセントラルに合格したという事実だけである。そして、自信で将来を選択するクラスに配属された。

 神様を信じないと決めたあの日から、光属性の魔術は自分で習得していった。ペースは遅かったけれども、少しずつだが前に進んでいくことができた。気づけば、初級の回復魔術である『ヒール』も習得していた。だが、これ以上の回復魔術はブロスタ教の秘伝とされ、習得することができていない。


 そして、迎えた入学式の後の説明の最中で、フローラはとある少女は運命の出会いを果たす。

癖がなく肩まで伸びる綺麗な茶色の髪。しなやかに鍛えられた体つき、そしてないより、こちらを真っ直ぐに見る薄桃色のぱっちりとした瞳。

 その少女は、フローラがハーフエルフであることを打ち明けると、堂々とこう言って見せた。


「友達のフローラに案内してほしいなぁって」

 

 初対面であるのに、友達と言ってのける彼女には驚いたが、何よりも、裏表がない屈託の笑みで『友達』と言ってくれたことがフローラは嬉しかった。今までそんな人はいなかったし、それが理由で、顔も耳も何もかもを隠して過ごしてきた。

 だからこそ、彼女の言葉で少しだけ自分自身の存在に勇気が持てた。


 フローラは、それらの出来事と自分の過去について思い返しながら、帰路を急ぐ。寮で寝泊まりをしていないフローラの帰る場所は、セントラルにある両親の経営する宿屋である。

 そうして、フローラは嬉しさのあまり、少しだけ小走りになりなりながら、家のドアを勢いよく開くのであった。


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