第33話 すべての人の心に花を-33
*
「ねぇ、由起子先生」
しのぶはソファにもたれながら、ぽつりと言った。
「なに?」
由起子はいつものように機嫌良く応えた。
「あのね、…今日、仙貴、さんに、送ってもらったの」
「ぅん。どうだった?」
「…ん、仙貴さん。いい人ね」
「ん、仙貴君。いい子よ、とっても」
「なんか…、申し訳ないな、わざわざ送ってもらって」
「そう?」
「だって、あたしなんか、なんの関係もないのに、わざわざ遠回りして、送ってくれるなんて…」
「んー、まぁ、そう言えばそうね」
「あたし…みんなに…迷惑掛けてる」
「ふふ、そうね」
「笑い事じゃないわ」
「はいはい。でもね、仙貴君、嫌がってた?」
「え?」
「嫌だって、言ってた?」
「…んん。別に」
「でしょ。仙貴君も別に嫌がってないから、心配しなくていいのよ」
「でも…」
「大丈夫。仙貴君は、そういう子なの」
「……ん」
「それとも、嫌なの?仙貴君だと」
「んん、そんなことない。やさしいし、…なんか、頼もしいし」
「強いわよ、仙貴君は。朝夢見ちゃんより、強いかもね」
「あ、そうだ。訊きたかったんだ。どうして、朝夢見ちゃんってあんなに、強いの?」
「朝夢見ちゃん?そりゃ、あの子がファントム・レディだからよ」
「ファントム・レディ?」
「そうよ」
「あゆみさんも前にそんなこと言ってたな。でも、仙貴さんって、もっと強いの?」
「さぁ。二人で対決してもらわないと、なんとも言えないわ」
「どうして?仙貴さんって、確かに大柄だけど、なんとなく優しそうで、そんなに恐い印象はないけど」
「あの子も修羅場をくぐり抜けてるの」
「ふーん」
「でもね、言っておくけど、あたしの方が強いのよ。知ってる?」
「え。…でも、なんとなく、わかる」
「そう?だから、あたしに逆らうと、恐いわよぉ」
由起子は脅かすような仕草でしのぶに迫った。しのぶはそれを見ながらきゃっきゃっと笑って応えた。
「ん。言うこと聞く」
「はい、いい子」
由起子はしのぶの頭を撫でながら、そう言った。その感触がしのぶには心地よかった。もう、このまま、由起子の子になれればいいのに、と思ってしまった。ただ、まだ、話すことはためらわれた。話すこと、それは、わずかな時間で済んでしまう。しかし、それは、あまりにも、しのぶには重い時間だった。
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