第16話 すべての人の心に花を-16


         *


 ―――いつから、家出してるの?

 ―――……ん、わかんない。ずっと前から。

 ―――1ヵ月くらい?

 ―――そんなもんかな…。まだ、夜も寒くなかったから…。

 ―――食べるものはどうしてたの?

 ―――……万引き、とか、泥棒とか。

 ―――お金恵んでもらったり?

 ―――…そう。

 ―――大丈夫だった?

 ―――見つかったら、謝ればいいのよ。そしたら、くどくど説教はされるけど、警察に連れていかれることなんて、そんなにないわ。

 ―――連れていかれたことあるの?

 ―――ある。でも、途中で逃げ出したから。

 ―――家の人も捜索願い出してるでしょ?

 ―――……わかんない。

 ―――どうして?

 ―――出してない方がいい。

 ―――どうして?自分ところの子供がいなくなって、捜索願いを出さないなんて、ある?

 ―――……、わかんない。…わかんない、わかんない!(次第に激しく首を振る)

 ―――…しのぶ…ちゃん。

 ―――わかりたくない!あたしは、もう、どこにも帰る所なんてないんだ!だから、あたしは、名無しのしのぶになった…。

(しばらく沈黙の時間が続く)

 ―――……ここも?

 ―――え?

 ―――ここも、帰る所じゃないの?

 ―――…ぅん。

 ―――じゃないの?

 ―――…たぶん

 ―――どうして?あたしは、帰ってきてもいいと思ってる。帰る所だと思ってもらってもいい。そう思ってほしいくらい。

 ―――でも、違うと思う…。あたし、今日、あゆみさんの家に行って思ったの。…あたしは、…独りで…生きるべきなんじゃないかって。

 ―――…そう。

 ―――どこにも居場所がない。ここも、由起子先生が、受け入れてくれてるからいられるだけで、本当にいるべき所じゃない。

 ―――そう思い込みたいのなら、それでもいいわ。でもね、普通の家庭でも、子供は時期が来れば巣立っていく。それまでの仮屋だと思ってもいいのよ、家なんて。それなら、しのぶちゃんが、いずれ巣立っていくまで、ここにいてもいいの。いま、無理に出て行こうなんて思ってるくらいなら、もうしばらくここにいればいいと思うの。

 ―――…ぅん。

 ―――でも、いいわね、朝夢見ちゃんと一緒に暮らすのも。

 ―――…え?

 ―――あそこの部屋を借りて、助け合いながら暮らすのも、悪くはないわ。

 ―――で…でも。

 ―――でも、なに?

 ―――そんなこと、できるの?

 ―――もちろん。

 ―――……え…ホント?

 ―――そのためには、まだまだやらなければならないことはあるの。わかるでしょ。

 ―――…ぅん。

 ―――ね、話して。あなたの家のこと。

 ―――……。

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