診療所にて~謎の少女④~

 少女が目を覚ましてから更に5日が経ちました。

 あれからご飯をモリモリ食べて、薬湯や薬を飲んで大分骨張った体がマシになってきました。


 「ご馳走様でした」


 掠れてはいますが声もしっかり出る様になっています。

 ずっと看病していた三巳も嬉しそうにニコニコします。尻尾もパタパタ。耳もピコピコ。元気に動かしています。


 「凄いな。もう全粥まで食べられるようになった」

 「すごい、すご~い!」

 「はやい、はや~い!」


 三巳に続いて遊びに来ていたちびっ子たちが囃し立てます。

 少女が目を覚ましてからも、相変わらず山の民は入れ替わり立ち代わりお見舞いにやってきます。

 最初は怖がって小刻みに震えていた少女でしたが、良い人達なので5日も経てば少しは慣れました。

 特にここ数日天気が良くなくて、暇を持て余したちびっ子達が入り浸って賑やかです。

 流石にちびっ子にまで怖がったりしません。笑顔で迎え入れます。


 「ふふ。だってとっても美味しいから食が進むのよ」

 「そう言って貰えると作り甲斐あるな」


 少女の素直な感想に、嬉しくなった三巳は尻尾をばさりと大きく振りました。

 近くにいたちびっ子が巻き込まれてきゃっきゃっと喜んでいます。


 「声も大分良くなったし、そろそろ色々医師と話さないとな」


 三巳がそう提示した途端、少女は顔を曇らせて俯いてしまいます。


 (そうよね。余所者の私を治療だけしてはい終わり有難う。という訳にはいかないわよね)


 自分の事を話す事で、今の久しぶりな人間らしいひと時が失われるのではないかと思い気分は沈む一方です。


 「ん?まだ具合悪いか?

 火傷の治療の話したかったんだけど……もう少し元気になってからのが良いか?」

 「え?火傷?」

 「なんだ?火傷負ってるって気付いて無かったのか?」

 「それは勿論判っているけど……、私の事を聞くんじゃないの?」

 「あ!そういえばまだ名前聞いて無かったな!」


 三巳は今思い出したと目を大きく開けて、耳と尻尾をピーンと立たせました。

 忘れていた自分にビックリしたのです。

 少女はそんな三巳に脱力してしまいました。


 「なんて呼べばいいんだ?」

 

 脱力している少女のベッドに上体をぽてっと寝かせて、少女を仰ぎ見ながらキラキラした目で尋ねると、少女は苦笑して答えます。


 「リリって呼んで」

 「リリだな。判った。

 三巳と似てるな。お揃いだな」


 少女の名乗りは正式名称ではありませんでしたが、そんな事は関係ありません。

 少女を「リリ」と呼べるようになった事に意義があるのです。

 しかも三巳と言葉尻が似ている事で、三巳のテンションはアゲアゲです。


 「にてる、にてう~」

 「おそろい~いいな~ミオラもおそろいがよかった~」


 ちびっ子達もテンションアゲアゲです。

 リリは優しくしてくれる三巳達に嬉しくなって、目尻が潤んでしまいました。


 (今はまだ、今までの事話せる程心が立ち直ってないけど、ここでなら話せるようになるかもしれない)


 楽しそうな三巳達に釣られる様に心からの笑みが自然と作られます。


 「それじゃこれからの治療方針はロキ医師と話してくれ。

 回復魔法の事も話さないといけないから三巳も同席するけど良いか?」

 「勿論、三巳がいてくれた方が心強いわ」

 「そうか。それは嬉しいな」


 

 こうしてロキ医師と相談した結果、回復魔法を掛けるのは一月後を目安にする事になったのでした。


 体のお肉が少なすぎて回復魔法を使うには障りがあるそうです。

 がっかりした三巳の障り心地の良い頭を、リリがよしよしと撫でて慰めている状況に、ロキ医師は好々爺然とした風貌で見守りました。

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