診療所にて~謎の少女③~
(……そろそろあの娘戻って来そうよね。
……どうしよう。手が動かなくて涙が拭けないわ。
魔法も今は使えない様だし。
お行儀は悪いけど枕で何とか拭いてみよう)
三巳が出て行ってから一刻程の時間が経とうとしていました。
三巳は常に裸足なので足音が判り辛いです。
けれど少女をビックリさせない様に、態とペタペタ足音が出る様に歩きます。
お陰で少女は三巳が戻って来たのが判りました。
「こんこんこん。
三巳だぞ。入るぞ」
この村の部屋には扉は滅多にありません。
診療所も患者の様子が判り易い様に、扉がありません。
三巳は入り口手前で立ち止まり、言葉でノックの音を奏でます。
「(どうぞ)」
少女はまだ本調子では無いのでハッキリと喋る事が出来ません。
それでも先程喉を潤したお陰か、掠れた、普通の人なら聞き取れない声で答えます。
勿論三巳の獣耳はしっかり聞き取りました。
顔をひょっこり出して、様子を伺ってから中に入ります。
「少し声が出せたな。良かった。
声が出ないままは辛いだろうから良かった」
三巳は耳をピクピクさせて喜びます。
尻尾も嬉しそうに揺れています。
少女は愛犬を思い出してホッコリします。
もうすっかり三巳に対して警戒心を持てない様子です。
其れはそうでしょう。よく懐いたワンコの様な三巳に警戒心を抱く様な可哀想な人は、三巳の結界に阻まれて山に入る事は出来なかったかもしれません。
「粥作って来たから、食べれるなら食べた方が良いぞ」
三巳はベッド横のサイドテーブルにお盆を置いて椅子に座ります。
「3分粥だけど、ハーブも少し入れてあるから味気なくは無いと思う」
「(ありがとう)」
今度は警戒せずにお礼を言えました。
ニッコリと笑った三巳は、レンゲに粥を救って「ふー」っと冷ましてから少女の口に運んであげます。
少女は其れを含み、味わってから飲み込みました。
(美味しい。久し振りの人間らしい食べ物だわ。
3分粥とは思えないわ。ほんのり甘くてス~とする味わいが心地いい)
少女は夢中になって食べていきます。
これには三巳も大喜び。少女が口を開けると空かさず粥を入れていきます。
あっという間に粥茶碗は空っぽになってしまいました。
「これだけ食べれて具合悪くなっていないなら、次からはもう少し栄養のある物入れても大丈夫そうだな」
満足感でポーっとなっていた少女は、三巳の言葉に顔を赤らめて喜びます。
(もっと色々食べれるのね!)
嬉しそうな少女に、三巳も嬉しくなり、背後の尻尾がもふんもふんと大きく揺れています。
「薬湯も飲むか?」
三巳が聞きますが、少女は首を横に振りました。
先程飲んだばかりですし、粥でお腹も膨れていたのです。
「そっか。じゃあ三巳は茶碗片してくるけど、寝てていいぞ。
いっぱい食べて疲れたろ」
三巳はお盆を持って立ち上がりました。
少女は緩く首を縦に振って、素直に眠りにつきました。
其れを見届けてから、ロキ医師の元へ向かいます。
患者さんの様子を報告しないといけませんものね。
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