第28話 受け継し力

「ふふふ。ダメージが通る様にはなったけど……そもそも、私に攻撃が当てられるのかしら?」


女神が見下した様な目つきで此方を挑発して来る。


「はぁっ!」


それに乗る様に俺は【ダッシュ】を使って一気に間合いを詰め、裂帛の気合と共に奴めがけて剣を振るう。


しかし当たらない。

女神は笑顔のまま躱してしまう。


「あら、はずれ」


女神の態度は余裕そのものだ。

だが、明らかに先程までとは違っている点がある。


それは俺の一撃をギリギリで躱した点だ。


さっきまではその速度差から、分身も合わせて五対一の形でも攻撃が掠る気配すら無かった。

だからこそレアの持つスキル【路傍の石】による奇襲で、一気に畳かけようとしたのだ。


けど今は違う。


女神の方が早い事は依然変わらないが、力が大幅に増した事でその差は大きく縮まっていた。

この程度ならば、戦い方次第でどうにでもなる。


「数を増やしたからって無駄よ」


俺は更に分身を生み出し、それを使って女神の動きを制限しつつ攻撃する。

分身はあくまでも女神の動きを阻害するだけのなので、防御姿勢で攻撃事態には参加させていない。

言ってしまえば、ただの動く障害物だ。


分身のステータスは俺の半分だからな……


能力が大幅に上がったとはいえ、半減する分身の攻撃では女神にダメージを通すのは難しい。

だから下手に手を出さず防御に徹する事で、簡単に倒されてしまわない様にしているのだ。


とは言え、先ほどから女神は一切反撃して来ていない。

どうやらまた余裕を見せつけるつもりの様だ。

まあいつ反撃が来るか分かった物ではないので、油断はできないが。


「ふっ!」


俺は女神の動きを注意深く警戒しつつ、黙々と攻撃を続ける。


「――っ!?」


やがて俺の剣が女神の腕を掠め、浅くではあるが奴を傷をつけた。

その瞬間、ンディアの表情から余裕の笑顔が消る。


いける!


戦いの中、俺の攻撃は確実にその精度が上がって来ていた。

それはレアのユニークスキル【剣聖】と、セイヤのユニークスキル【闘士】のお陰だ。


この二つのスキルには、訓練効果上昇や経験値取得以外にも、戦闘技能が上昇する効果が含まれている。

この戦闘技能と言うのは、単純な戦闘能力の底上げもそうだが、戦闘中に相手の動きを見切ったりする効果も含まれていた。


さっき女神ンディアの初見の攻撃を、咄嗟にレアとセイヤが躱せたのもその影響があったと言えるだろう。


とは言え、本来は複数ある中の効果の一つでしかなく、そこまで強力な物ではない。

あくまでも見切り能力が僅かに上がる程度のレベルで、劇的な速度で相手の動きを見切るなんて真似は出来ないものだ。


だが俺はこの短時間で、回避に専念する女神の動きを完全に見切りつつあった。

それは二つのユニークスキルの効果が重なった事で、劇的な相乗効果が生まれたためだと思われる。


お陰で戦えば戦う程、俺は女神ンディアを効率よく追い詰める事が出来る様になっていく。


「神の体に!お遊びは此処までよ!」


女神が怒りの表情を露わにする。

たかが人間風情に体を傷つけられ、痛くプライドが気づ付けられたのだろう。

それまで余裕を見せて回避にだけ専念していた彼女は此方の攻撃を避け、俺に向かって手を伸ばした。


「吹き飛びなさい!」


その手から、強力な不可視のエネルギーが放たれたのが分かる。

先程喰らった衝撃波の様な物だ。

分身には発動前に素早く退避させ、俺はあえてそれを無視して女神に突っ込む。


多少のダメージなど、回復してしまえばどうって事はない!


今の俺には、セイヤさんから引き継いだ回復魔法がある。

そのためダメージを喰らっても回復できるし、傷みに関しては、レアから引き継いだ【痛覚遮断】で無視できた。


マジックフルバーストを使ったから、魔力はもう残っていないんじゃないか?


確かに、先程放ったマジックフルバーストで魔力は全て吐き出してしまっている。が、それも問題はない。

セイヤさんの力――魔力を吸収した事で、俺の魔力はそれ以前とは比べ物にならない程にまで膨れ上がっているからだ。


回復は元より。

今の俺は、以前より強力なマジックフルバーストを放つ事も可能である。


「なっ!?無理やり!?」


「貰った!」


放たれる衝撃波を力づくで突き進み、俺はそのまま渾身の一撃を女神ンディアに向けて放つ。

女神は攻撃を続けながら、それを後ろに飛んで躱そうとする。

だがタイミング的にはもう遅い。


これは確実に――


「くっ!」


――入った。


そう確信した俺だったが、その攻撃が空を斬る。


女神が俺に向けていた攻撃を、咄嗟に地面へと向けたためだ。

地面との衝突で生まれた衝撃波はンディアの体を吹き飛ばし、奴はその勢いで俺の間合いの外へと逃げ切ってしまった。


……流石に、簡単にはいかせてくれないか。


「やってくれるじゃないの……」


女神が此方を忌々し気に睨みつけくる。

仕切り直しだ。

俺は一旦動きを止め、素早く回復魔法で受けたダメージを回復させておいた。


「まさかあんな雑魚共を吸収した程度で、ここまで強くなるなんてね」


「雑魚なんかじゃない!」


命を賭け、世界を救うために共に戦う仲間達。

そして勝利のために俺に全てを託しかけがえのない存在を雑魚呼ばわりされ、一瞬頭に血が上る。

だがその激情を、俺はぐっと飲み込んだ。


強くなったとはいえ、それでもまだ女神の方が上である事には変わりない。

頭に血を登らせて勢い任せに戦えば、確実に勝利は遠のく。


……それに、背後にはまだティアも控えている。


女神は自分だけで戦うと言っていたが、危機的状況になればそれを撤回するのは目に見えていた。

ティアが動き出す前に、何としても奴の首を取れる瞬間を引き出さなければならない。

そのためには冷静さが必要不可欠だ。


「お前を倒し、それを今から証明してやる」


俺は一気に間合いを詰めて、再び女神に仕掛けた。

剣を振り、分身を障害物として使い、更に女神の反撃や攻撃魔法をいなしながら慎重にチャンスを伺う。


とは言え、ゆっくりはしていられない。

いつティアが参戦して来るか分からない以上、ただ漠然とスキを伺っているだけでは駄目だ。

チャンスは自分で作っていかなければ。


そのために、俺は敢えて女神の攻撃をある程度意図的に被弾する。

そして闘いながら、回復魔法でそれを直すと言う行為を繰り返した。


理由は単純明快。

分身を動かして戦いつつ、魔法を扱う事に馴れる為だ。


かつてリリアが言っていた。

分身を動かしながら魔法を扱うのは、至難の業だと。

実際やってみて、それは痛感させられる。


それでも魔法初心者の俺がこうやって戦いながら低位の回復魔法を扱えるのは、セイヤから引き継いだ【聖女】の効果と、分身が防御中心だからと言うのが大きい。


戦いながら回復魔法が使える。

それは今までにない、大きなアドバンテージと言えるだろう。


だがそれだけでは駄目なのだ。

女神を崩してチャンスを得るには、もう一歩踏み込む必要があった。


だから慣らす。

この戦いの中で、短時間で慣れて見せる。


そして女神を……


倒す!



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