第2話 宮前先輩と、知らない人

「宮前と遊びに行くんだって?」

その日の夜、 いつものように葵ちゃんが家に夕飯を食べに来た。 葵ちゃんのお父さんとお母さんは共働きで、いつも帰りが遅い。だからうちの親は心配して、夕飯はいつも葵ちゃんを呼んで一緒に食べることになっていた。小学生くらいの頃からの、私達の日常だ。


「なんのこと?」

ご飯も食べ終わり、ふたりでリビングのソファでだらだらしていたタイミングで、葵ちゃんから急に出てきた言葉に首をかしげる。


「結が期末テストで1番とったお祝い、なんだって。あれ?自分でおねだりしたんじゃなかったっけ」と言われてびっくりする。


「先輩、本気だったんだ。というか、遊びに行くことにまでなっていたとは思わなかった」

「なんか、すごく張り切ってた」

「あぅ…なんだか申し訳ない…」

「いいんじゃない?向こうも乗り気だし」

まあでも、結が1番なのは今回だけじゃないけどね、と葵ちゃんが笑い、私の頭を撫でた。


確かに、自慢じゃないけど中学の頃からだいたい学年順位は1番か2番だった。それでも高校3年間もそうかと言われると、自信はないし、そこにこだわりも持っていない。でも、 1番をとるたびに先輩が祝ってくれるなら、それは結構嬉しいかもしれない。



「……またお祝いしてもらえるように頑張ろう」

「あはは、まだ今回のお祝いもまだだけどね」

葵ちゃんの笑い声が、なんだかくすぐったかった。





夏休みまであと1週間をきった。

受験とはまだ無縁の1年生の教室は、きたるべき長期休暇に色めきだっていた。女子達の明るい声がこだまして、 男子達の少し低い張りのある声が響く。


色で言うなら、ピンクやオレンジ、ブルーとかの色んな色がカラフルに教室中を包み込んでいるようだった。色んなな音色が響くなか、私ももれなく、わくわくしている。

結、はやく行こう、と友達に促されて鞄を取る。今日は学校帰りに友達と遊びに行く予定なんだ。


みんなと連れだって昇降口に向かって歩いていると「あ、あれ結の先輩じゃない?」と誰かが教えてくれた。


ぱっとそちらに顔を向けると、確かに宮前先輩がいた。

「隣にいる人って彼氏かな?」

友達からでた当然のような質問に、私は答えられなかった。私も先輩の隣に立つ男子を、知らなかったから。


先輩の隣には背の高い、優しそうな男子が立っていた。ふたりで話している様子は楽しそうで、背の高いその男子と背の高い宮前先輩は、すごくお似合いで、絵になっていた。

ふたりを見ていると、なんだかすごく―――胸の奥がもやもやする。


「わかんない。行こ」

「あっ、え、結、挨拶しなくて良いの!?いつもならあの先輩の姿が見えたらぴゅーって飛んでいくじゃん!」

彼氏だったらお邪魔になるじゃん、と言うと、そっか、そうだね、と友達から返ってくる。


そうなんだ。

先輩は別に私のものじゃないのに。別に付き合ってるわけでもないのに。

そもそも女同士だし。


学校を出ると空はからりと晴れていて、大雨が降ればいいのにな、なんて思った。

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