第138話 クロス・オーバー・イレブン

1981年は、バイクが売れていたし

メーカーも、ちゃんとバイクを作ろうと考えていたようで・・・。

こういうテスト、なんかは

2021年ならシミュレーションで済ませてしまう。


まあ、パパラッチも当時は居なかったし。

今は、ケータイなんかで簡単に撮れるから

公道でのテスト走行は無理だろうと思う。



さて・・・・この仕事。お金も良かったので


例の[平家]植松は「XJ400を買う」とか言っていた。


12月にホントに買ってしまうのだけれども。


銀・青だったかな。42万だったかと思う。


42万と言うと、高卒・工員が12万くらいの基本給である(但し、残業もあるが)。

から、今だと70万くらいだろうか。


でも、終身雇用だから・・・・みんな給料全部使っちゃう、そういう生活をしていた。



独身寮にはおっさんもいて・・・・。


給料日にトルコに行く、なんて・・・刹那的なおっさんも多かった(笑)。


俺たち若者組にはいなかったが、組み立て工の大石、と言うヤツが

連れてってもらって、筆卸し(笑)したとか言っていたが




でも、山本、関沢、植松も、そういう大石をバカにしていたから

こいつらは、まとも。


そんな印象だった。



俺もそう思う。そんなにしたいかねぇ。抜差(笑)。




テストライダー組も、向き不向きがあるので

ひとり、ふたり・・・と。抜けていった。


職工の方が安定しているし、楽。

ボーナスも退職金もあるから、定年まで居れば却っていい・・・と。


植松などはそのタイプで、XJ400が安く買えるし、と・・・

抜けていった。


15%引きだったかな、そんな感じで買える。


公道テストのコースは、この辺りの砂漠の中の農道を通ったり

山の中を通ったり。ツーリングみたいな感じだったから

楽しい仕事ではあった。

けれど、自由に走れないし

雨でも風でも走らなくてはならない。


「一生はやれないなぁ」とも思った。



それでも俺が残ったのは750免許がある若手がいなかった、と言うそれだけだったと

思う。



お昼はメーカーの食堂で食えるのだけれども、体育館みたいなでっかい食堂で

しかも無料。


俺たちはフリータイムだから、別に13時までに戻る事もないので・・・。

2食、3食食べることもできた。


定食と、カレーとかラーメンとか。


パンメニューとスパゲティとか。


結構美味しい。



(去年、行ってみたらまだ同じ建物だったけど、タダではなくなっていた。

300円だったから、安いけど)。




面白いのは、魚のメニューでなぜかスズキが良く出る事だった。


スズキを食おう、ってのかな(笑)。




浜松付近には、カワサキ以外のバイクメーカーが

なぜかある。


ので、トルコが繁盛するそうだ(笑)。


テストライダーも来るそうで、最高速試験をすると

おちんちんが立たなくなる、とか・・・。

寮にいるおっさんがそう言っていた。


1へぇ。(^^)。


じゃ、辞めようかな(笑)。


なーんて、俺も思っていた。

まあ・・・俺も、「テメエはバイクが上手い」と思っていたけど・・・。

そうでもない、なんて事も分かったりする。


だからと言って、上手いヤツになりたいとも思わなかったけど。



レーサーになる気もなかったし。


元々バイク趣味は、兄が持ってきたTY50から始まったので

どっちかと言うと、音楽、楽器の方が趣味としては長かった。


ギターとウクレレを、羽田に住む伯父さんに貰って。

兄がギター、俺はウクレレを弾いて。


俺が歌いながら弾けるので、兄がそれを嫌って

ギターを辞めた。



俺が6才の時だ。


でも、俺はなんとなく耳で聞いた音に合わせて弾けたので・・・。


兄はますますひねくれて(笑)。


ギターは俺のものになったり。





1980年辺りは、そろそろ廃れて来ていたギターだったけど

ここの寮にもギターがあって。



娯楽室、と言うところにギターとピアノがあったから

それを弾くと、関沢はベーシストだから


「ビートルズ、なんかない?」とか・・・。言って来て。


俺もそんなに上手くはないけど、テキトーにコード弾いて歌った。


関沢も、ギターを合わせて。




そんな関沢と俺は、音楽の趣味でよく話をした。

冬だから、寮の部屋のコタツで。


4人部屋だから、誰かの部屋に行ったり、来たり。


俺の部屋は幽霊が出る(笑)と言うので誰も来ないから

関沢とふたりで、良く音楽を聴いた。


家にあったラジカセを持ってきて、掛けていたり。

でも俺は、ジャズとかをよく掛けるので、関沢は

「面白い音楽だね」と・・・・。


ジョージ・ベンソンとか、スパイロ・ジャイラとか。

そういうのを聞いた。

聖子ちゃんも聞いたけど(笑)。




聖子ちゃんは、植松がファンで・・・。


カセットで、2番目のLP「NorthWind」を買ってきて

よく掛けていた。


夜遅くまで、なんとなくバカ話をしていて

それが楽しかった。


俺のカーリー・ヘアが伸びてきて「ドラキュラみたいだ」と

山本が言ったり。



その12月・・・・。

コタツでラジオを聴いていて、ジョン・レノンが死んだと言うニュースを聞いた。


俺はなんとも感じなかったけど

関沢は、涙を流していた。




NHK-FMはニュースが終わり、クロスオーバー・イレブン。


水平線上を飛ぶ、と言う

ふんわりしたエレクトリック・ピアノの音が

フェーザー・エフェクトを掛けて、広がっていた。



・・・・昨日と明日が、出会うとき。



そうして、日々は過ぎていく・・・・。

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