第22話 東名で

日記 1986/6/y


さて、めでたく本来の姿になったRZV500Rの乗って

俺は環状8号を下り、用賀から東名高速に乗った。

もちろん、高速に乗ったのはフルパワーの加速を楽しむためだ。

とてもハイギアリングなこのマシン、普通に全開加速しているとローギアしか使えないから

本当に楽しむためには高速に乗らなければ,,,とこの頃の俺は思いこんでいた。


今、思うとすごく無駄な事をしていたように思う。

RZVは、低中速のピックアップもとても良好なのだ。

だから、エンジンを無理に回さなくてもコーナー・ワークでトラクションは維持でき

そこそこ早く走れるのだ。


でも、この頃の俺は250のGPマシンのような高い回転キープをして

ブレーキングでタイムを削り、コーナーを小さく回って

タイアのグリップをぎりぎり使いながらなるべく早く全開...

という、今思うと公道ではかなり危険なライディングを楽しんでいた。


まあ、若かったんだと思う。


もう一速上のギアを使って、ワイド・オープン・スロットルのまま

トラクションワークでリア・ステアなんて事は考えもしなかったし

とにかくフルパワーを使い切る事しか頭になかった。


だから、ポテンシャルを使い切るには高速道路しかなかったのは必然だった。


用賀から高架線に昇って、やや下り気味の首都高速3号線に入るや否や

俺は、ためらわずにスロットルをストッパーまでひねり、カウルに伏せた。


V4ユニットは、細かいヴァイブレーションを発しながら直線的に吹き上がり

すぐにレヴ・リミットを越えようとするので、矢継ぎ早にシフトを繰り返すと

あっけなく180は越え、メーターの指針は意味を持たなくなる。

それも、いつもの事だ、と思えるくらいに日常の風景。

まるで安定していてリラックスしていられるところが、RZVの美点だ。

シフトを6thに上げる頃には、おそらく200は越えている事だろうから

そろそろ、ブレーキングの準備をしておかないと日本の公道では追突の危険がある(笑)。

幸い、この日の首都高速はがら空きで、その手の心配はなかったが

すぐに東京インターのゲートだから、やはり減速の準備をし、ちら、とバック・ミラーを見ると

吐き出したオイルの煙で、広いストレートは真っ白だった。


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