第16話 penpenpen....



[お引っ越し]


さて、そうこうしている内、Nからまた電話があった。

なんでも、バイク屋を嫌になってしまって..

勝手に辞めたらしい。

俺は、紹介した手前、ちょっと気まずかったのだが

まあシカタナイ。

どうも、頭文字Nは破滅型の人生を歩むらしい。


それで、今までいたアパートを引き払うから

手伝ってくれ、という....

誠に勝手な話しだが、無神経な奴、というのはそんなものだろう。


人の気も知らんで。


まあ、しかたなく俺はトラックを借り、奴のぼろアパートへ行った。


Nは、それでもとりあえず荷作りをしていて待っていた。

ほとんどがゴミだから、運ぶ事もないだろう、という

感じ。


それでもレコード、と音楽番組のビデオ(当時、「ベストヒットUSA」が流行っていて、洋楽ロックを聴くのが流行していた。

このNも御多分にもれず...

ピンクのシャツなんぞを着て、「俺ぁ、ハードロッカーだからよぉ...。」

が、口癖だった。


この時も、ピンクのTシャツにスリムのGパン、という

どこかモーホーっぽい格好でNは「よっ!。」


「...おお、荷物どこだ、?。」

と、俺はそのノーテンキさにあきれながらも

仕事を早く済ませて帰ろう、と思った。


「ん、ありがと、それじゃそこのロッカーから...。」


見ると、どっかの粗大ゴミ置き場から持ってきたような

事務用のスチール・ロッカーが日の当たらない4畳半の

隅に、ホコリを被って鎮座ましましていた。



「なんだ、これ、事務所からかっぱらってきたのか?。」

俺は、感じたままにそう言った。



Nは、いつものお茶らけた顔で...

「俺ぁ、ハードロッカーだからよぉ、鉄がいいんだ、ハード。

メタルだぜぇ。」




「......。」

なんか、こいつは勘違いをしてるように思ったが...

言うだけ無駄かな、と俺は考えて



「....(汚れそ..)...んじゃ、そっち持て。」


「うん。」




.....重い。



「おいN、これ中身入ってるだろ、無理だよこれ。」


俺は、ロッカーの中身を出そうと..

扉を開いた。



雑然と変な物が一杯入っていて。

中にはオフコースのレコードが何枚も...



「....おいN、こんなの聴いてんの?(^^).。」

....どこがhardrockerなんだか...



「う、うるさいなぁ、昔のだよ、それ。」



ロッカーには雑に物が突っ込んであって。

匂いつきエロ本、怪しげなピンク色のビデオ..



大学ノート。



「あれ、なんだこれ....。」

場違いな物を発見して、俺は興味を持った。



「あ、見るなよぉそれ....。」



大学ノート、を開くと....


penpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpenpen....



と、一面、「pen 」。



...なんだ、これ...


表紙を見た。

「夏休みのしくだい。N山幹男」


....どうやら、英単語の書き取り帳らしい...(^^);



俺は、思わず大笑いした。




N、激怒。


「笑うなよ!...。」



「....nん、ははは、いや、ぁ、笑うなって言われても...ばははは、おまえ..ほんとに..アホだな.....。」



ノート全部「pen」書き取りして「pen」のスペルは

覚えただろうが...


それがどういう意味があるのか?



俺は、後のオウム事件の時のマインドコントロールの

「修行するぞ、 修行するぞ、修行するぞ、..。」

のニュースを見た時に、真っ先にこの事を思い出した。



...アホの頭文字N、今頃何してるんだろう。

「pen」が潜在意識に植えつけられて文房具屋にでもなったかな。

(そういえば、penguin's familyは好きだったな.

ペン集めるの好きだったし...



さて、この時の俺はそんなことよりも、一つ、気が

ついた事があった。


「おい、N....お前、ニンジャどうしたんだ?。」

いつも、大事そうにカバーをかけて軒下に置いてあった

ニンジャは、どこにも見あたらなかった。


N...

「あ、あれ、売っちまった。

俺ぁスーパースターだっからよぉ、2サイクルしか

乗れねぇんだ。」




「........。」

俺は、返す言葉も無かった。

この当時、ホンダがスペンサーとかをプロモーションしてた事もあってか、GPが日本でも人気になっていた。

それまでは8耐、とかの関係で日本では今一つ、

という感じだったGPの知名度もすこし上がった。

で、このNのようにGPの方が上=2スト偉い。

なんていう連中が一部、出始めた。


ま、Nの場合は借金のカタに持っていかれたらしいが。

それで、Nのやつはまた、かつて乗っていたRZ250

にまた乗り始めて、嬉々として箱根あたりをブッ飛んでいた。

たまに、本当にブットんでたが(笑)





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