第10話 Nし山、ふたたび事故る。(笑)

日記 [1985/5/x]



(N、ふたたび。)


ある日のこと。

Nから退院して自宅療養してるって、電話があった。


「...あ、俺、N。元気?。」



「おお、なんだよ突然。まだ夜勤明けで寝てたんだぜ。」




「あ、ごめん、あのさあ、退院したんだ。アパートにいんだけど、暇だよ〜。」




「なんだよ、俺に電話するときゃ暇な時ばっかだな。」



「.まあ、いいじゃん。まだ仕事休んでるからあそぼ。プラントのレコード、あるぜ。」


(注;プラントとは、元 Led Zeppelin のRobert Plant のこと。この頃、ソロで歌っていた。

しかし、プラントなんてゴミ処理工場みたいに呼ばれてるとは、よもや英国の誇る vocalistも知るまい..)




「おお、そうか。んじゃ、貸してくれよ。」



「だーめ。」



「なんだよ、けちくせえなぁ。.. でもお前、退院早く無いか?。追ん出されたんだろ?

大部屋でマスカイテ、看護婦さんに怒られたり、とか。」^^;




「もぁー、あんたといっしょにしないでくれる?!。」


(事実、このNは意外と潔癖である。細身でなよっとしてるので、オバハンにもてた。)




「^^;... まあ、いいか、ほんじゃ、明日、乗務のついでに寄るわ。」





翌日。



俺は、タクシーの乗務のついで、Nの家のそばまで来たので。丁度いいか、と

回送札を立てて、Nのアパートに向かった。

もちろん、サボり。(笑)

...今月はノルマいかないから、また社長室で怒られるな..

とか思いながら、Nのアパートの駐車場に、おんボロタクシーを停めた。



ドア、叩く。


「おーい、俺だぁ、N。いるか?。」



しばらくして、静かにドア(と、いっても化粧合板の扉で、真中に擦りガラスの四角い窓が空いてる、

良く、刑事ドラマなんかで犯人隠匿するような隠れ家、みたいな。

鉄の階段には、錆止めペンキしか塗ってなくて、そこいらに洗濯機やら、ガキの三輪車やら...

よくある貧民アパート(笑)



ドアは、台湾ベニアの響きと共に開いた。



「おぉ、元気?」


Nは、パジャマのまんま出て来た。



「あんだよ、歩けるんなら仕事しろ、って。親父さん怒ってたぞ。

バイクはほっぽったまんまだし...あれ、全損だろ?。」


と、オレ。


このNは、この頃はT輪店の店員をしていた。

と、いうより、前の会社を首になり、ぶらぶらしてたので

俺がT輪店に就職させてやったんだ。

(あとで、ひどく後悔することになるんだが。この時はそんなことは知る由もない。)





「忍者は、直して乗るよ。...まあ、入れば。」





「おお、悪ぃな、ほんじゃ、邪魔するわ。」





薄暗い、男のひとりくらしのアパートに入るのは、あまり気持ちのいいもんじゃないが..



そこいらに、雨カッパやら、ヘルメットやらが散乱している廊下を歩く。

時々、スリッパになにか当たるが、それを認識するのが怖いので見てみぬ振りをする。

..たぶん、ヤマトゴキブリの触角かなにかだろう.....





「でもよ、N、あれ、忍者さ、まだローン払ったばっかだろ?」



「ああ、まだ二回目。」




「じゃあ、さ、修理費どうすんだ?。」




「ローン。」




...おいおい....



(結局、修理代は3部品代だけで36万円!にもなり、この時点で100万円マシンになる..^^;)






俺は、布団が敷っぱなしになっているNの部屋に座った。




「ま、まっててよ、お茶いれっから。」

Nは、楽しげだ。



「ああ、さんきゅ。」



Nは台所に消え、俺は回りを見まわす。


ふと、目についた一枚の葉書。



[お客様アンケート 川崎重工業]



... お、なんだ。ユーザーカードじゃん。忍者の。




俺は、なんとなく葉書を見た.........




--------------

お名前:


N山幹男



ご住所:


しずおかけん、Nし、おかみや、いちょうめ



お買い上げ店:


Tりん店



住所:


たがたぐんにら山ちょう よう日まち




お買い上げの理由:


男のマシン、カワサキ。キングN(自分のこと)とその象徴となる

赤いマシーンにフワンわみりょうされるのだった。


(?????)




ご要望欄:



カワサキ、バンザーイ!



--------------








........(絶句)。




「あ、なんだよぉみるなよ!」


Nが、台所から駆け戻って、葉書をひったくった。




いまさら隠しても無駄だ。(笑)

馬鹿なのはわかってる。




「おまえさぁ、漢字書けねえのか?」

俺は、笑いを堪えて、必死になりながら。




「うるせぇなぁ。いいんだよ、読めれば(?)。」



このとき、Robert Plantの「11時の肖像」が部屋には流れていた。が。

俺は、Rainbowの「治療不可」を聞きたくなって来た。








... それから、しばらくして...



ある日。俺の家のポストに、またNのきったねえ字の葉書が入っていた。















「わははぁ、じこってしまった。

ひまだよぁ〜..........(原文ママ)」





...... 懲りない奴.....( 滝汗;;)


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