RZV500R日記
深町珠
第1話 1984年8月
RZVとの出会い
1984/8/x
茨城に引っ越した浪人生のYから電話があった。
RZVを買った、という。
マジかよ。
限定だ、とかいうから、手にはいんないと思ってたけど。
なんでもオーダー分は作るそうだ。
最初は、88psで限定2000台って話だったけど、認可がとれずにパワー落として生産。
てな話らしい。
そりゃ、そーだよな。
パワー不足じゃ、イメージリーダーにゃなんない。
ほんじゃ、生産しよう、ってこーいうわけらしい(しかし、まったく売れなかった。)
で、奴は当然輸出仕様に変更したそうだ。
そのパワーはすごい、とべた誉め。
そのころ、俺はCBX750Fに乗っていて、パワーそのもにはちょっとした自信があった。
モリワキのフォーサイト集合+エアクリーナー改+セッティングで。
メインジェットは#245.
何せ、7000rpmからフロントが浮くのだ。
...で、さっそくバイトおわった後、高速飛ばして奴に会いに行く。
用賀で東名降りて、環8沿いのWendy'sで待ち合わせ。
ナトリウム・ランプに照らされたRZV。
初めて見たが、なんだか丸っこくて小さい。
思ってたより普通のバイクっぽい。
早速、シュトコーに乗り、常磐道を目指した。
かなり、RZVの排気音はいい。
はじけるような2ストの音。
オートルーブの、ツーンとする匂い。
..ヤマハだな。
どーせ、たいしたことぁねえだろう、とタカくくってた。
...でも。三郷JCT過ぎて、奴はいきなり全開くれた。
煙幕張って、吹っ飛んでくRZV。
こっちも、全開。
モリワキのサウンドが高まる。
直ぐに追いつくだろう、と思った。
追いつかない。
いくら頑張ってカウルに伏せても、奴の背中が小さくなって行く。
CBXのデュアル・ヘッドライトは、2ストの煙を照らすだけだ。
やがて、赤いテールランプだけが小さく見えるだけになった。
とっくに180は超えている。
最高速ならこっちのが有利。のはずだが、
そうそう開けっぱなしで走れるもんじゃない。
第一、ほんの10km/hくらいこっちが早いだけだ。
それまでに差が開いていたら、追いつきゃしない。
守谷PAに、奴のテールが入ってく。
だだっぴろいパーキングの真中にバイクを止める。
オートルーブの焼ける匂いが心地よい。
カストロールRSが、モリワキの集合から香ばしく。
「すげえな、RZV。」
「...ん。でも、ハンドル放すとぶれるんだ。」
「....。」(あのスピードで、ハンドル放せるほど安定してるのか!?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
...当時のロードスポーツの操縦安定性は、こんなものだった。
だいたい、フル・スロットルにして真っ直ぐ走る車の方が少ない。
CBX750Fも、ましなほうだが、それでも160くらいから
フロントの落ち着きがなくなってくる。
今のYZF-R1やら、ブラックバードあたりとは比較にならないほどお粗末なものだった。
この、RZVのハンドルぶれは、タイアに原因の一端があるようで、
後、ミシュランが“A49”という前輪のセンターに溝がないタイアを対策で出した。
(この当時は、A48だった。ややタイアがやわらかいので、それの影響かもしれない。
CBX750fにA48を装着したところ、やはり160くらいでハンドル振れが起きた。)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うーん。完敗。
シュトコーのコーナーも軽快だったし。
こりゃ、買うっきゃねぇかな。
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